2016.6.8 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

欧州は『ネットワーク中立性』という名のパンドラの箱を開けたのか?

米国で2000 年代の半ばから現在に至るまで論争が続いている、いわゆるネットワーク中立性(以下「ネット中立性」)に関連する規則が、欧州連合 (EU) でも2015 年10 月に成立した。ただし、ICT 業界関係者でも「ネットワーク中立性に関する規則」とは何を指しているのか、その意味が正確に分かる人は少ないのではないか。あえて一言で表現すれば「インターネットを公平に差別なく利用できるように保証する規則を導入すること」である。しかし、「ネットワーク」が「インターネット(そのアクセス回線を含む)」を指すことは分かり難いし、また「中立性」という言葉は、規制からも中立的であるべき(すなわち規制を課すべきではない)という印象を与えがちである。ネット中立性という用語は、このように多様な解釈(誤解)が可能であるがゆえに、政治的な意図を反映しやすい側面を持っているのだ。

本問題の先駆者である米国では、ネット中立性規則の必要性に関して、必要と認識している民主党と、不要と認識している共和党で立場が大きく異なっている。そのような政治情勢もあり、同国ではFCC(連邦通信委員会)がネット中立性規則を制定するたびに規則本体が提訴されることが繰り返されており、2015年2月に採択された現行規則(オバマ民主党政権下で成立)についても、その効力は差し止められていないものの、裁判で係争中の中途半端な状態が続いている。FCCの中においても、少数派(注4)の共和党系の委員は、現行規則の採択時に「規則の導入は逆にインターネットの自由への干渉である」などと非難する声明を出している。

解釈の多義性を排除すべく、米国 (FCC) と欧州 (EU) の双方の規則ともに、正式にはネット中立性ではなく、「オープン・インターネット」という名称を冠している。しかし、インターネットをオープンにという概念もまた、政治的なスローガンとして利用されがちである。インターネットの公平で差別のないオープン性という理念に異を唱える人は少ないが、実際の規則制定の現場では、ワシントンDC でもブリュッセルにおいても、政治的な駆け引きが激しく展開されてきた。そして、今後もそれが続いていく可能性は否定できない。

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※4 FCC は、委員長を含めた5 名の委員の多数決により重要事項を採決することが多いが、過半数(委員長+2 委員)は政権党が占めるのが通例である(時に欠員などで同数となることも稀にある)。

注釈は、本レポートを収録している「InfoCom T&S World Trend Report」(2016年4月号/通巻324号)全体の通番となっております関係で、注4から始まっています。

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