2018.7.27 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

Food Tech(フードテック)事業への取り組み~会員基盤を軸としたNTTドコモの新たな挑戦

【写真1】今回取材に応じていただいた、NTTドコモ ライフサポートビジネス推進部の松田純二主査 (出典:本文中掲載の写真はすべて筆者撮影)

昨今「Food Tech(フードテック)」という言葉が普及しつつある。Food Techは生産効率化や食物の栄養価を保持した調理方法の普及など、”食”に関わるあらゆる課題をICTで解決し事業化していく領域を広く指す言葉として使われ始めている。日本は昔から続いてきた伝統的な食文化の中に外国の料理をうまく取り入れ独自の食文化を築いてきた。現在街のレストランでは外国の多様な料理を本来の姿に近い形で味わうことができるようになり、昔は手に入らなかった食材の入手も可能で、それらを適切に調理すれば、自宅でもあらゆる料理を楽しむことができるようになった。そうしたレストランの情報やレシピの情報はWeb上にあふれているが、ICTで食とくらしにまつわる情報を効果的に提供しようとする食文化事業への取り組みをNTTドコモが強化している。今回は同社ライフサポートビジネス推進部の食文化事業フードテックビジネス担当の松田純二主査に同事業について聞いてみた。

―御社の食文化事業の概要を教えてください。

まず食事は大きく分けると、”家の外で食べること”と”自宅で食べること”に分けられると思います。私たちは前者を”外食”、後者を”内食”とよび区別しています。外食を考えている利用者には10万店舗以上のお店のクーポンなどの情報を、内食を考えている利用者には290万件以上のレシピメニューなどの情報を、それぞれ利用される方の世代や状況に応じてスマートフォンを介して効果的に提案できる姿を目指し事業を行っています。このサービスは「dグルメ」という名称で2015年5月より提供していますが、利用者の日々の食生活を充実したものにできることを目指しています。具体的にはこのパンフレット(図1)に示すようなサービスを展開しており、多くのお客様にご利用いただいています。お客様の関心が高いレストラン検索やレシピ検索、クーポン検索をはじめ、食にまつわるマガジンコンテンツなどが利用可能で、食とくらしにまつわる情報を”簡単に”入手してもらうことができます。

dグルメで提供される情報の一覧

【図1】dグルメで提供される情報の一覧
(出典:NTTドコモ dグルメコンテンツBOOK)

―食文化事業/フードテックビジネスを始められた背景を教えてください。

サービス開始当初は前述の”食”に関する情報などの活用を考えることからスタートしました。当初はレストラン情報やレシピ、クーポンといったコンテンツを提供し、通信料とサービスの月額利用料金をお客様より頂戴する、いわゆる携帯電話会社としての”回線利用モデル”を考えていました。しかし、ドコモのスマートライフ領域の中核に”食”を位置付けるためには、前述のdグルメで提供されるコンテンツをきっかけとして、スマートフォンを介しレストランと利用者、レシピと利用者を効果的に結び付けることが何よりも重要であることに気づき始めました。

―”効果的に結び付ける”とはどのようなことですか?

「dグルメ」は月額400円(税抜)で提供しているのですが、提供される「LUNCHPASSPORT」などのクーポン等の情報を考慮すると月額利用料金だけでも約2,000円以上の価値があります。利用者が、必要とするレシピ、レストラン、食とくらしにまつわる情報を簡単に入手できるような環境をドコモが提供することで、レストランやレシピを提供しているコンテンツプロバイダーである各企業様もその集客力に期待してくださっています。ここでいう「集客力」とは「誰でも彼でもお客様を集客してくる」ということではなく、例えば「若い人に多く来てもらいたい」と考えるレストランの方々や「忙しい主婦に時短のための料理テクニックを知ってもらいたい」と考えるコンテンツプロバイダーの方々など多様なニーズを持つ個々のお客様にとっての最適なリーチが効果的にできるという意味です。「dグルメ」のサイトをご覧いただければその意味を実感していただけると思います※1

dグルメでできる10のこと

【図2-1】dグルメでできる10のこと
(出典:NTTドコモ dグルメコンテンツBOOK)

dグルメでできる10のこと

dグルメでできる10のこと

【図2-2】dグルメでできる10のこと
(出典:NTTドコモ dグルメコンテンツBOOK)

―ドコモユーザー以外の人も使えるというのはなぜですか?事業として成り立ちますか?

そうですね。「NTTドコモの回線を利用してくださるお客様に長くサービスを利用していただく」という点からすると不思議に思われるかもしれません。今年4月には“回線契約の有無に関わらない「会員基盤」を軸とした事業運営を推進する”旨の報道発表※2を行いましたが、NTTドコモでは「回線から会員へ」とビジネスの形態が変わりつつあります。dグルメだけではなく、NTTドコモで検討される各事業については“dポイントクラブ会員基盤”に価値を提供することに重点がおかれ、“回線はあくまでも会員向けの一つのサービスである”という会員基盤を軸とした考え方のもと、全社検討が進められています。

ライフサポートビジネス推進部の松田純二主査

【写真3】ライフサポートビジネス推進部の松田純二主査

会員基盤を拡げることで、マーケティングも強化することができます。世代や性別といった従来の区分だけではなく、スマートフォンのサービスの利用履歴なども活用し、利用者一人一人の生活圏や何か行動するときに大切としている考え方などを推測しつつ、観光、スポーツ、ニュース、娯楽、グルメなどNTTドコモが展開するサービスを時と場合に応じて利用者へ抵抗を感じさせない程度に提供することができるようになるのが究極の姿です。NTTドコモでは”dトラベル””dマガジン””dヘルスケア”など”d”のつくサービスを領域横断的に展開していますが、例えばdヘルスケアでサービスを探している健康に関心の高い40代既婚女性が、dグルメのレシピ検索をする際には、さりげなく健康食材活用による裏メニューやカロリー表示付きのレシピの補足などをすることで効果的なレコメンドができるようになるのではと考えています。私たちは担当者数名で一つのサービスを企画運用していますが、常々上記のように「領域横断的な展開を実現する“お客様にとって最適なレコメンドができるサービス“を作りたいね」と話しています。

―今後の具体的なサービスの進化はどのようにお考えですか?

私たちは情報の見せ方に今後も徹底的にこだわっていきたいと考えています。現在は有料で提供していますが、フリーミアム化、つまり基本的なサービスや製品は無料で提供し、コンテンツの見せ方や価値の提示の仕方、特別な機能を設けることで課金できるような仕組みで利用者の裾野を拡げていきたいと考えています。並行して「外食」、「内食」をはじめとした食に関する様々なデータを収集し分析していきたいと考えています。

現在レストランを経営する方々から聞こえてくるのは「予約枠だけ大きくとって当日連絡もなくキャンセルされる」という機会損失への不満の声です。これは社会的課題といってよいものです。これらの社会的課題の解決をはじめ、dグルメの進化を通してより一層のお客様ニーズにお応えできる内容を今後のサービスの進化に向けた検討の際に加えていきたいと考えています。

取材を終えて

”食”に関するサービスは市場に数多存在しているが、NTTドコモが本領域でも関連事業を創出、進化させようと様々な観点から検討していることがわかった。

(1)痒い所に手が届くサービス

利用者が必要とするのはおトクに使えるレストランのクーポンやレシピの情報だけとは限らない。「口コミで評判のお店に行ってみたけれど思ったような雰囲気のお店ではなかった。」「偶然Webサイトで検索したレシピで料理つくってみたけど、なんかイマイチだ。食材の切り方や火力調節の細かな所までわかるといいのだけれど。」という利用者のちょっとしたニーズを拾い上げ、クーポン以外の文字や動画コンテンツの見せ方に徹底的にこだわることは重要なポイントの一つだと感じた。

(2)会員基盤を軸とした領域横断的なサービス展開

これまではNTTドコモにとって、「NTTドコモユーザー」の“ユーザー”が指す意味は“回線利用者”であったが、今後同社は、あくまでも“回線”は、多様な支払手段を選択できる”決済機能“や利用者がスマートフォンで撮影した画像や音声を安全に保管できる”データ管理機能“等と並ぶ、利用者に提供されるサービスの一つとして捉え、「会員基盤」を新たな軸として様々なサービスを提供しようとしていることがわかった。

それは2018年6月28日にNTTドコモのWebサイトに掲載された「dグルメ」の新機能追加の報道発表※3の内容からも読み取ることができる。新機能とはレストランをネットで予約できる機能のことだが、dアカウントがあれば予約が可能になっていて、予約する度にディナーでは200ポイント、ランチでは30ポイントのdポイントが進呈される。予約等で貯まったポイントは「dグルメ」のサービスの中だけでしか使えないわけではなく、”dトラベル””dマガジン””dヘルスケア”等の他の領域のサービスでも使うことができる。

この仕組みが提供されることで「回線利用者ではグルメ、観光、スポーツ等、どのサービスの利用が多いのか」という従来の分析軸ではなく、新たな分析軸を持てる可能性がある。例えばそれは「食に関心を示した会員はレストランを予約する際に電話で予約するのか、ネットで予約するのか、決済手段は何を用いているのか、そして貯めたポイントは、旅行や健康に関連するどの商品の購入に充てられているのか」等、ある一つのサービスを起点とした他のサービスへの関心度合いをポイント消費傾向等から把握するといったようなものだ。

「ソフトバンクやauの回線利用者もdアカウントを持つ」ことで会員基盤が拡がれば、より多くの利用履歴などから、世代や性別といった従来の区分を使った分析ではなく、その人自身の生活圏や価値観などをもとにしたこれまでよりも精緻な分析ができるかもしれない。そうした分析結果を利用して、グルメだけではなく、観光、スポーツ、ニュース、娯楽などNTTドコモが展開するサービスを時と場合に応じて利用者に抵抗を感じさせない程度に提供できるようにしていくことがサービスの価値をより高めることにつながるのではないだろうか。

※1 dグルメサイト
https://gourmet.dmkt-sp.jp/gourmet/

※2 dポイントクラブをリニューアルし、dポイントの「ポイント共有グループ」を新設、NTTドコモ、2018/4/17
https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/2012/04/17_00.html

※3 「dグルメ」にレストランネット予約機能を追加-レストランネット予約のご利用でdポイントを進呈-、2018/6/27
https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/2018/06/27_00.html?cid=CRP_INF_news_release_2018_06_27_00_from_RSS_news_release

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