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2003年11月掲載

注目すべきKDDIの二つの新サービス

 KDDIは最近注目すべき二つのサービスを相次いで発表した。一つは、マンションなどの集合住宅向けに高速インターネット接続、IP電話、テレビ放送の三つの機能を持つファイバー・ツー・ザ・ホーム(FTTH)サービス「KDDI光プラス」である。各戸最大70Mbpsの高速データ接続のほか、NTTの加入電話とほぼ同様の機能を持つIP電話を現在使っている電話番号と同じ番号で提供し、NTTの加入電話からの移行を狙ったもので、月額4,550円(機器レンタルを含むセット料金、テレビ放送は別に月額2,400円)の料金は、NTTの電話基本料を含めたADSL料金より安い。もう一つは、CDMA 1x EV−DOの導入にともなう新料金である。最大2.4Mbpsのモバイル・ブロードバンド接続が、利用無制限の定額料金で月額4,200円で提供される。予想を超えた安い料金で、ビジネス利用だけでなく1,000万を越えるヘビー・ユーザーの取り込みを狙う。最近のKDDIのアグレッシブな経営姿勢が反映していると考えられるが、電気通信のサービスと料金の競争が新たな段階を迎えようとしているという思いを深くする。

■NTTの加入電話からの移行を狙う「KDDI光プラス」

 10月10日から開始された「KDDI光プラス」は、主として集合住宅を対象にした個人向けブロードバンド・サービスで、各戸最大70Mbps(最低でも30Mbps)のインターネット接続とIP電話およびテレビ放送の3種類のサービスをバンドルしている。単体の料金はインターネット接続が月額3,900円、IP電話が月額1,980円(通話料を除く)だが、両方に加入した場合の料金は月額4,550円となる。テレビ放送は月額2,400円の基本料の追加で、25チャンネルの有料放送パッケージと3本までのビデオ・オン・デマンド(VOD)サービスが利用できる。KDDIは「光プラス」の提供地域を2003年度内に全国15都市に広げ、2007年度までに300万加入の達成を目標としている。

 「光プラス」の特徴は、そのIP電話サービスにある。NTTの電話を解約しても従来の電話番号をそのまま使える「同番移行」が可能であるほか、警察や消防への緊急通報もサポートした。国内の加入電話向け通話料は一律8円/3分である。「光プラス」は総務省による「同番移行」に必要な条件(注)をクリアしたが、KDDIは今後NTTの加入電話がもつ様々なサービス機能を、ニーズの高いものから順次追加していく方針だ。

(注)0AB〜J番号(一般の加入電話と同じ加入者番号体系)を取得するための条件(総務省)
(1)ユーザー拠点まで直接回線を引き込み、その回線を収容する設備を自ら所有する.(2)固定電話並みの通話品質と安定性を確保する.(3)電話番号と発信場所を対応させる.(4)確実性のある事業計画、番号計画を提出する.(5)NTT電話を置き換える場合(同番移行)は、緊急通報に対応する.
(KDDIが如何にしてこの5条件をクリアしたかについては、「日経コミュニケーション」2003年10月27日号を参照されたい.同誌によると、音声パケットに十分な帯域を確保する仕組みを備えたことで総務省の条件をクリアできた。同一回線上にIP電話、データ通信とテレビ放送を混在させた初のケースである。)

 マンションなどの集合住宅向けFTTHサービスは、NTT東西や有線ブロードネットワークスなどがすでに提供しており、IP電話もサポートしている。しかし、前述の5条件をクリアしていないため、固定電話と同じ番号(0AB〜J番号)の利用や「同番移行」に制約がある。NTTの電話を解約すれば、原則として「050」で始まるIP電話の番号を付与されことになる。これに対して「光プラス」は、NTTの加入電話とほぼ同等の機能をIP電話で実現しているので、ユーザーはNTTの電話を解約して「同番移行」すれば(KDDIは希望者には「050番号」も併用できるようにする意向)、NTT電話の基本料1,750円(大都市の場合)の負担が不要になる。これは「光プラス」の大きなメリットである。

 「光プラス」の高速インターネット接続とIP電話のバンドル料金は月額4,550円で、他社の同様サービスと比べて多少安い程度だが、同番のIP電話への移行によってNTTの加入電話を解約できるメリットは大きい。ADSLと比べてもNTTの電話基本料を考慮すると「光プラス」の方が安い(注)。「光プラス」に対抗するためには、競争他社も固定電話と同じ番号の利用や「同番移行」が出来るようにしていくしか方法がない。そうなればFTTHの利用は一気に伸びるだろう。

(注)東西NTTの「Bフレッツ」マンション向けサービスは、月額4,580円(機器レンタル料、ISP料金を含む)、NTTの加入電話を解約すれば番号が変わる.ヤフー!BBの26MタイプADSLサービスは、月額3,840円(機器レンタル料を含む)、ただしNTTの加入電話の契約(基本料金月額1,750円)が必要.(NTTは11月から、固定電話を契約せずにADSL単独に利用する際の回線使用料を400円値下げして1,290円とした(NTT東の場合).)

 すでにIP電話への流れは止まらない状況だが、「同番移行」可能でNTTの加入電話並のサービスができるFTTHサービスの登場で、メタル回線を使った電話、ISDNはもちろんADSLなどのサービスも、その優位性を一挙に失うことになる。「光プラス」は大規模な集合住宅向け市場を対象にしているが、この動きはいずれ一般住宅用市場やビジネス市場(すでに固定電話と同じ番号の利用が始まっている)にも拡大していくだろう。「光プラス」はFTTHの利用促進を加速させる契機となるだろうが、同時にアナログ固定電話などの衰退を加速することにもなる。しかし、これは電気通信産業の避けられない発展のプロセスである。

 KDDIの「光プラス」の問題点は、FTTHに必要な光ファイバー・インフラを競争他社、具体的には東西NTT、電力系通信事業者、地方公共団体などに依存しなければならないことにある。なかでも最大の提供者であるNTT東西は、光アクセス回線の設置を促進しても、コスト(NTTによると2万円/月)以下で競争相手に回線提供を義務づけられ、さらにそれによって自らの経営基盤の空洞化を招くことになるのだから、投資に意欲的になれないのは当然で、光アクセス・インフラの構築スピードが鈍る可能性がある。「光プラス」が光アクセス回線の適切な提供を競争他社に期待するのであれば、アクセス回線の光化リスクを、インフラ提供者事業者とシェアする必要があるのではないか。

 現時点ではIPサービスは「高速インターネット接続プラスIP電話」と受け取られているようだ。KDDIの「光プラス」でこれに放送が加わったが、IP電話は依然として安い電話という位置付けである。IPサービスの最重要アプリケーションが音声サービスであることは否定しないが、IP化のメリットはもっと別なところにあるのではないか。例えば、音声と映像を組み合わせたリアルタイム双方向通信であるテレビ電話やテレビ会議サービス、同じ資料を画面で見ながら対話するコールセンター向けサービスなどマルチタスクのサービスである。ネットワークがIP化すれば、ソフトの追加で従来困難だった多様なサービスが経済的に実現できるようになる。付加価値のあるサービスを提供してこそ料金の値下がりに歯止めが掛けられるのではないか。

■パケット通信料に定額制を導入したKDDIの携帯新サービス「WIN」

 KDDIは下り最大2.4Mbpsの高速データ通信ができる第3世代携帯電話(3G)サービス「CDMA 1X WIN」を11月28日から開始すると発表した。新サービスの「WIN」は、3Gの「CDMA2000 1x EV−DO」技術を使い高速データ通信を実現するとともに、月額4,200円でEメールを含む同社のEzwebサービスが使い放題になる「携帯電話初の」(KDDIのニュースリリース)のパケット定額サービス「EZフラット」を導入する(注)。

 現在サービス提供中のCDMA2000 1x、cdmaOne方式とは互換性があり、全国でシームレスな音声・データ通信の利用が可能である。当初のサービスエリアは関東、中部、関西の3大都市圏だが、2004年3月末には全国主要都市(人口カバー率70%以上)、同9月末には全国(人口カバー率90%以上)を予定している。KDDIは2003年3月末の目標を45万としている。

(注)「EZフラット」は携帯電話機単体で行うEメール・EZweb通信が使い放題・カードタイプのデータシングル契約は、月額基本料1,500円で1パケット0.1円.電話とデータのデュアル契約(4プラン)はCDMA 1xと同程度.パケット割引は (1)定額料1,200円/月で1.2万パケットを超える分が0.1円/パケット  (2)定額料4,000円で16万パケットを超える分が0.025円  (3)定額料7,500円で50万パケットを超える分が0.015円.(NTTドコモのFOMAの「パケットパック80」は、定額通信料8,000円で40万パケットを超える分が0.02円で「WIN」の方が安い。ノートパソコンなどに対応するDDIポケットのカードタイプの「AirH"」(PHS)は、利用無制限で4,930円/月)。

 KDDIは、パケット通信料を毎月4,000円以上支払っている利用者は全国で約1,000万人で、「EZフラット」によってこれらのヘビー・ユーザーを取り込むと強調している。
 「いくらかかるか分からないのでは3Gサービスは浸透しない。高速接続と定額料金の「WIN」の登場で本当の3G時代が始まる。」とKDDIの社長が語っているように(注)、オンライン・ゲームなど情報量の多いコンテンツ利用で、現在の料金ではパケット料金が高額になりすぎるというユーザーの不満を意識したものだ。また、様々なジャンルの番組を定期的に自動配信する新サービス「EZチャンネル」や、見たい映像をリアルタイムで自動配信する「ライブカメラ」など、「WIN」の高速接続機能と定額料金制を生かせる専用コンテンツを用意する。

(注)産経新聞 2003年10月23日

 「WIN」は最大2.4Mbps、携帯電話単体からの利用に限られるもの、平均800Kbps程度の高速データ通信が可能で、かなりの速度で移動中も利用できるうえ、定額料金も手ごろな水準でありADSLの需要を取り込むことも考えられる。「WIN」は移動通信の新たな可能性(固定通信のブロードバンド市場の取り込み)に一歩踏み出したのではないか。

 高速接続と定額料金制、それにそれを生かす魅力的なコンテンツと端末が揃って3G時代が始まるというのはその通りだと思う。競争他社はどう対抗するのか。NTTドコモは2005年にもFOMAの通信速度を17Mbpsまで向上させる計画だ。また年末商戦で新端末の「505iS」シリーズを売り出す。年明けにはテレビ電話などの最新機能を搭載したFOMAの新シリーズを投入する予定だ。KDDIが「WIN」を発表した当日に、ドコモの携帯電話機にソニーの非接触型ICカード「フェリカ」を導入することで両社が合意したことを明らかにした。実現すれば携帯電話に、定期券、乗車券、各種チケット、電子マネーや身分証明書などの機能を持たせることができる。差別化に大きく寄与するだろう。しかし、「WIN」に対抗してドコモが料金値下げや定額料金の導入に踏み切るかどうかは分からない。

 ボーダフォンは土日・祝日の自社加入者相互の通話料金を1分5円にするサービスを10月から始めた。また同社の3Gサービス「VGS」のテレビ電話料金を、音声通話料金の1.8倍の水準から同額に引き下げた。11月からはPDCのユーザーを対象に定額料金で企業のイントラネット内の業務用コンテンツを利用できるパケット通信サービスを始めた。年末にはアナログTVチューナーを搭載した携帯電話機を売り出す。さらに年内には、PDCとVGS両方のユーザーを対象に、パケット通信料の割引サービスを追加する予定である。携帯電話事業も、KDDIの「WIN」の導入を契機にサービスと料金競争の新たな段階に入ったようだ。

特別研究員 本間 雅雄
編集室宛>nl@icr.co.jp
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