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2008年5月掲載

米国の700MHz帯周波数競売とオープン・アクセス宣言

 注目を集めていた米国の700MHz帯の周波数(62MHz)の競売「オークション73」が3月18日に完了し、同20日に落札企業名が公表された。落札額の8割以上を、ベライゾン・ワイヤレスとAT&Tの既存大手キャリアが占め、「巨大企業が益々大きくなる」結果となった。しかし、注目の「オープン・アクセス」要件が課されたCブロック免許(11MHz×2)の主要部分はベライゾンが獲得し、端末とアプリケーションのオープン化が今年中に本格的に進展する見込みで、米国のモバイル市場の景観が大きく変わるのではないかと見られている。一方、Cブロック免許の入札で敗れたグーグルは、テレビの空きチャンネルを活用する免許不要の「ホワイト・スペース」の利用で新提案を行い、モバイル事業に参入する構想を明らかにした。これが実現すれば、米国におけるモバイル市場の競争は、既存キャリア対インターネット企業という新しい展開になる可能性もある。わが国でも、アナログ・テレビの終了にともなう余剰電波(デジタル化で周波数は約半分で済む)の再割当てを控え、オークション方式の導入の是非を検討すべきだし、携帯電話網の「オープン・アクセス」にも踏み出す時期に来ているのではないか。

■米国の700MHz帯周波数の競売が終了

 米国連邦通信委員会(FCC)は去る3月18日(米国時間)に、2008年1月から開始した700MHz帯の周波数競売「オークション73」(注1)が終了したと発表した。1,099の免許が214の応札者に競売され、1,090の免許が101の応札者によって落札された。落札額の合計は191億ドルだった。これは政府が設定した最低落札額の合計の2.2倍で、周波数の競売を1994年に開始して以来、史上最高の額となった。特にBブロックは、モバイルWiMAX向け周波数として人気を集め、最低落札額合計に対し6.6倍となった。

(注1)「オークション73」は、698〜806MHz帯の中の計62MHzをA〜Eブロックに分割して競売にかけている。その中でCブロック(11MHz×2/12免許)の落札者には、他社の「端末およびアプリケーションに対し、オープンなプラットフォームの提供」を義務づけている。また、Dブロック(5MHz×2/1免許)の落札者は、消防、警察および危機管理サービス当局などの公共安全部門が利用するブロードバンド網と相互運用性のある全国網を構築し、公共安全部門の無線ブロードバンド・サービスのアクセスを優先的に提供することを義務付けている。落札した周波数は、いずれも米国で地上波アナログTVが終了する2009年2月17日以降に利用可能になる。(「700MHz帯周波数の競売でFCCが「オープン・アクセス」原則を導入」本間雅雄 参照)

(表1)「オークション73」の結果

ブロック 帯域 免許数 エリア・タイプ 最低落札額(百万ドル) 落札額(百万ドル)
A 6MHz×2 176 EA 1,807 3,961
B 6MHz×2 734 CMA 1,374 9,144
C 11MHz×2 12 REAG 4,638 4,748
D 5MHz×2 1 1 全米 1,330 0
E 6MHZ×1 176 EA 904 1,267
合計
1,099
10,053 19,120

(注)FCC発表資料による CMA(Cellular Market Area)  EA(Economic Area) REAG(Regional Economic Area Grouping)

 FCCは3月20日に落札企業名を公表した。落札金額が最も多かったのはベライゾン・ワイヤレスで93.6億ドル(109免許)、次いでAT&T(モビリティ)が66.4億ドル(227免許)だった。両社の落札金額の合計は全落札金額の84%を占めている。この状況をビジネス・ウイーク(オンライン版)などは、予想されていたとはいえ「巨大企業が益々大きくなる」結果と評している(注2)。なお、米国携帯電話事業第3位のスプリント・ネクステルおよび第4位のT-モバイルUSAは、今回は競売に参加していない。

(注2)FCC auction:‘The big get biggerユ (BusinessWeek online / March 20,2008)

 ベライゾンはオープン・アクセス義務のある注目のCブロックの12免許のうち7免許を落札し、全米モバイル・ブロードバンド網を展開できる基盤を確保した。Aブロックでは25免許を獲得したが、その中にはトップ20大都市のうちの15都市が含まれている。さらに、ロスアンゼルス、シカゴおよびマイアミ地域を含む75のBブロック免許を落札した。特に、シカゴはカバレッジ・エリア人口1人当たり1MHzの落札価格が9.19ドルとなり、今回のオークションで最高値だったという。ベライゾンが今回の「オークション73」で獲得した周波数は、米国で最大の周波数ポートフォリオを持つAT&Tをキャッチ・アップするのに役立つだろうという(注3)。ベライゾンは今回落札した周波数を、ノートブック型パソコンおよび携帯電話向けのモバイル・インターネットの高速化に充てると見られているが、長期的には現在クアルコム(MediaFLO)にアウトソースしている同社のモバイル・テレビ・サービス網を、自前で構築する可能性もあると見られている。

(注3)Verizon and AT&T win big in auction of spectrum (The New York Times online / March 21,2008)

 前掲のニューヨーク・タイムズ(08.3.21)によると、AT&Tが昨年秋に25億ドルで購入した(FCCの承認は08年2月)Aloha Partners社の免許(700Mhz帯の6MHz×2、全米カバー率60%)は、「オークション73」に比べるとかなり安かったという。アロファから購入した周波数は、人口1人当たり1MHzの価格が1.06ドルだったのに対して、今回の競売で落札した周波数は平均2.67ドルだった。今回AT&TはBブロックの周波数だけに応札し227免許を獲得した。その中には全米40大都市のうち最重要のニューヨークなど35都市の周波数が含まれている。これによって、同社がアロファから購入した700MHz帯周波数がカバーしていない地域の周波数を確保し、周波数ポートフォリオを一層充実させた。AT&TモビリティのベガCEOは、「オークション73」で獲得した周波数は、同社が現在提供しているブロードバンドおよび音声サービスの質と信頼性を一層高め、また、新世代のブロードバンドおよび音声サービスのための基盤となるだろうと語っている(注4)

(注4)AT&T,Verizon in airwaves grab:A win for Google?(The Wall Street Journal / March 21,2008)

(表2)「オークション73」の主要落札企業
順位 企業名 落札額(百万ドル) 落札免許数 ブロック別免許数
1 ベライゾン・ワイヤレス 9,363 109 C7 A25 B77
2 AT&T 6.637 227 B227
3 Dish(Frontier Wireless) 712 168 E168
4 クアルコム 558 8 E5 B3
5 US Cellular 401 152 A25 B127
6 MetroPCS 400 1 A1
7 Cox Wireless 305 22 A14 B8

(注)http://www.wirelessstrategy.com/auction.htmlによる

 「オークション73」でオープン・アクセスを主張して、Cブロックの入札条件とすることに成功したグーグルは、結局落札した周波数はゼロだった。グーグルはCブロックの周波数に、最低落札価格46億ドルを超える47億ドルで応札したが、結局ベライゾンの入札価格が上回った。FCCの公表資料ではCブロック12免許の落札額合計は47.5億ドルだったことから、ベライゾンはグーグルの応札価格を僅かに上回る金額で、主要なCブロックの周波数の落札に成功したことになる。しかし、グーグルは、ベライゾンの小売店を経由しないで販売される端末でも、ベライゾンのネットワークに開放することに自主的に同意させるという成果を挙げた。グーグルの「オークション73」への参加は、業界に対してオープンなプラットフォームの利用を促すための圧力を掛けるためであり、実際に免許を取得する気はなかった、という見方も出ているという。前掲のニューヨーク・タイムズ(08.3.21)は、「グーグルは幸せな敗者である」というアナリストの見方を紹介している。

 「オークション73」でもう一つの目玉だったのがDブロックである。FCCが「700MHz Public Safety/Private Partnership」と呼んでいる5MHz×2/免許数1(全国免許)のオークションである。この周波数の落札者は、公共安全部門が利用するブロードバンド網と相互運用性のある全国網を構築し、公共安全部門の無線ブロードバンド・アクセスを優先的に提供する義務を負う。落札企業は、これらの義務を充たした上で、残余の伝送容量を商業ベースで販売することが認められる。オークションでは、本命と見られていたフロントライン(シリコン・バレーの起業家と元FCC委員長などのワシントン人脈による新興企業)が資金を集められず撤退し、クアルコム1社だけが4.7億ドルで応札したが、Dブロックの最低落札額13.3億ドルに達せず失効した。FCCは再トライを余儀なくされたが、議会筋からはこの仕組み自体を再検討すべきだという意見もだされている。

 落札金額で3位になったのはフロンティア・ワイヤレスで、Eブロック(6MHz×1)の168免許を7.1億ドルで落札した。この会社のオーナーは衛星放送のディッシュ・ネットワーク(エコスター・コミュニケーションズから今年名称を変更)であり、業界にはサプライズだったようだ。同社が取得した周波数(UHFチャンネル56のニューヨーク、ロスアンゼルス、サンフランシスコ、フィラデルフィアおよびボストンを除く全米の周波数)では、双方向の無線ブロードバンド・サービスを提供するのは困難と見られている。同社が狙っているのは、オン・デマンド・ビデオを含むブロードバンド・インターネット接続サービスではないか、など様々な憶測を呼んでいる。

 第4位はEブロック5、Bブロック3、合計8免許を7.1億ドルで落札したクアルコムである。同社のモバイル・テレビ網MediaFLOの拡充に充てられると見られているが、Bブロックの周波数を獲得した真意を訝る向きもある。第5位は 関連会社キング・ストリート・ワイヤレスで応札した全米第6位の携帯電話会社USセルラー(本拠シカゴ、26州189市場でサービスを展開、加入数600万)で、Aブロック25、Bブロック127、合計152免許を4億ドルで落札した。第6位は、子会社MetroPCSを経由してAブロック1免許を4億ドル獲得したMetroである。同社はボストンの地下鉄会社であるが、ベライゾン・ワイヤレスと提携して、地下鉄の乗客にデータを含むセルラー・サービスを提供する新システムを構築する計画である。

 第7位は、南部および南西部に展開するCATV大手のコックスで、子会社のコックス・ワイヤレス経由でAブロック14、Bブロック8、合計22免許を3.1億ドルで獲得した。大手CATV事業者はコンソーシアムを結成して06年の周波数オークションに参加し20億ドル超を支出しているが、それ以来活動を止めている。今回の競売にはコムキャストとタイム・ワーナー・ケーブルは参加していない。最大手のコムキャストは新クリアワイヤー社(注5)に出資して、モバイルWiMAX事業に参画する予定である。大手のCATV事業者でオークションに参加したのはコックスだけだが、取得した周波数をどう事業化しようとしているのかについて色々と憶測を呼んでいる。

(注5)スプリント・ネクステルとクリアワイヤーは07年11月に、モバイルWiMAX事業での協力関係を解消したが、このほど協力者を増やして再び事業化を進め、2010年までに全米人口1.2〜1.4億人をカバーするネットワークの展開を目指すことで合意した。参加するのは元のクリアワイヤーとスプリント・ネクステルのモバイルWiMAX部門「XOHMビジネス・ユニット」、他に、コムキャスト、インテル、タイム・ワーナー・ケーブル、グーグルなど。新会社の名前はクリアワイヤー(資産総額120億ドル超)、スプリントが51%、クリアワイヤーが27%、コムキャストなどが22%を出資する。(Tech firms to build WiMAX network in U.S./ The Wall Street Journal online / May 8, 2008)

■ベライゾンが「オープン・アクセス」の詳細を公表

 米国の移動通信業界では、「オープン・アクセス」が昨年の流行語になった。しかし、問題は人によって理解が違っていることだった。米国携帯電話事業第2位のベライゾン・ワイヤレスは、より多くのサード・パーティの端末およびアプリケーションを同社のネットワーク上で利用できるようにする「オープン・アクセス」プランの導入を昨年11月に表明して、「オークション73」に臨んだ。同社はFCCが「オークション73」の落札企業名を公表する前日の3月19日に、「オープン・アクセス」プランの詳細を初めて公表した。これによっても、多くの要素がいまだミステリーとして残っているものの、同社の「オープン・アクセス」が何を意味しているか、今ほんの少し分かるようになってきた、とビジネスウイーク電子版は報じている(注6)

(注6)Open questions for Verizon's open access (BusinessWeek online / March 20,2008)

  FCCが「オークション73」の落札企業名を公表する前日にベライゾンが「オープン・アクセス」の詳細を公表したことは、落札したCブロックの11MHz×2だけでなく、同社の保有するすべての周波数にこの原則を適用することを表明したものだ。

 ベライゾンの新しいポリシーの下では、6,500万の顧客を擁する同社のモバイル・ネットワークに接続できるモバイル端末やその他の製品は、ベライゾンの最小限の技術的要件(同社の幹部によれば面倒なものではなくモバイル産業の標準をベースにしている)に合致する限り承認される。承認のプロセスは、長い期間、高い費用および複雑な手続きを必要とするものではないという。端末メーカーなどは、エンド・ユーザーに対して自社で生産した製品のマーケティングおよび流通の責任を負うことも選択肢の一つになる。「ワイヤレス産業の成長の利益にフルにあずかるためには、ベライゾンもこれらの次世代の製品とサービスを創造する発明家や起業家と、密接に提携する必要がある。」とベライゾン・コミュニケーションズのサイデンバーグCEOは語っている(注7)

(注7)Verizon Wireless unveils open-network policy (The Wall Street Journal online / March 20, 2008)

 これまでベライゾン・ワイヤレスは、同社のネットワークに接続する端末を、同社の販売店もしくはその代理店で販売する端末に限定していたが、規制当局、消費者およびハイテク企業などからのワイヤレス産業の一層の「オープン化」要求が強くなるのに応えて、考え方を変えた。同時に、この方針転換はオープン・アクセス義務のある「オークション73」のCブロック免許に応札するためでもあった。同社は3月19日にニューヨークで「Open Development Conference」を開催し、オープン化のガイドライン(技術的要件)を公表し、そのためのテストを5月中旬から開始する予定である。

 ベライゾンは、新オープン・モデルによる端末の承認を、今年遅くには実現できるとしている。消費者は、承認を受けた端末であればどのメーカーからでも購入できる。承認された端末を保有する顧客は、電話もしくはオンラインのアクセスにより、ベライゾン・ワイヤレスのネットワーク上でそれらの端末をアクチベートすることができる。また、顧客は承認されたアプリケーションのダウンロードも可能になり、支払い方法にもいくつかのオプションが用意されている。ベライゾンは2つのビジネス・モデルを明らかにした。1つは、サード・パーティの端末に対しベライゾンが料金を請求する「小売パートナーシップ」、もう1つは、サード・パーティが全ての顧客サービスと料金請求インフラを取り扱う「卸売りパートナーシップ」である。このほかのカスタマイズされたモデルでもベライゾンは認めるという(注8)

(注8)Verizon Wireless touts simplicity of open network(Dow Jones Newswires / 19 March 2008)

 ベライゾンの「Open Development Conference」の出席者は、このイベントはオープン・アクセス・モデルを定義する有意義な第一歩だったと受け止めているという。しかし、彼らは多くの疑問が残っていることも指摘している。その中で最も大きな懸念は、ベライゾンが、「オープン・アクセス」によって利用できるようになった端末に対する料金プランの詳細を明らかにしていないこと、また、ソフトウエア開発者がベライゾンのネットワークに適合するアプリケーションを作成するのを助ける仕様書が公開されていないことであるという(注9)

(注9)Open questions for Verizon's open access (BusinessWeek online / March 20,2008)

 さらに、新端末の試験と証明に要する期間が僅か4週間であるとベライゾンの幹部が何回も主張しても、会議の出席者はそのプロセスがそれほど容易なのかと疑念を抱き、試験のより詳細な内容を知りたがっているという。前掲のビジネスウイーク電子版(08.3.20)は、キャリアから新端末の承認を得るのに現在平均20ヶ月を要している、というベテランのコンサルタントの発言を載せている。

 ベライゾンのようなモバイル・キャリアは、自社のネットワーク上で利用できる端末とアプリケーションを常に厳しくコントロールし、自社の小売店もしくは代理店経由で販売される端末だけをサポートしてきた。そして、このアプローチが顧客によりよいサービスと少ない故障を保証してきたと主張している。しかし、これらの制約がキャリアに収入を確保し易くする一方で、パートナーにコストを負担させ、イノベーションに対するインセンティブを窒息させているという批判も根強かった。

 ベライゾン・ワイヤレスは昨年11月に、米国のモバイル市場が飽和状態に近づいている中で新しい収入源を創出するためには、思い切った方針転換が必要だという決定を行った。ベライゾンは、新顧客の増加が減少する中で、ライバルから利用者を惹きつけ、現在の加入者に毎月より多く料金を支払う気にさせることのできる、新機軸の新端末およびアプリケーションを生み出す仕組み「オープン・アクセス」を自ら望んで選択したのだという。もちろん、ベライゾンの方針転換は、何ヶ月にも及ぶFCCやグーグルなどのインターネット企業からのモバイル・ネットワークに対するオープン化の圧力もあって実現したものだ。「オークション73」では全体の3分の1にあたるCブロック(11MHz×2、12免許)免許に「オープン・アクセス」要件が加えられたが、ベライゾンは「オープン・アクセス」宣言を行なうことによって、主要なCブロック免許の落札に成功し、第4世代モバイル・ネットワーク(LTE)への展望を拓くことができた。

 ベライゾンの「オープン・アクセス」宣言は、グーグルが提起したオープン・ソースによるモバイル端末のプラットフォーム「アンドロイド」に対抗するためというのが大方の見方だが、米国ではこれらの「オープン化」に追随する動きが相次いでいる。アップルは今年3月に、サード・パーティがiPhoneのアプリケーションを開発できるようにするための「ソフトウエア・デベロプメント・キット」(SDK)を公開した。AT&Tも同社のモバイル・サービスに関して、サード・パーティの開発者がアプリケーションを創るためのガイドラインをウェブ上に公表している。これはソース・コードを開示しておらず、完全なオープン化ではないが、いずれ同社はよりオープンな開発環境を提供すると期待されている。「オープン化」は競争が激しくなる中で、携帯電話会社のサバイバル・ゲームに欠かせない選択肢になったのではないか。

■グーグルは「ホワイト・スペース」を利用するモバイル事業に進出

 「オークション73」でグーグルが「幸福な敗北者」となったことが明らかになった直後の3月21日に、未利用の無線周波数であるTV「ホワイト・スペース」(注10)を、同社のモバイル・ブロードバンド・サービスを提供するために活用する計画をFCCに提出した。グーグルがFCCに送った書簡(注11)で、検索エンジンの巨人である同社は、より広範で低廉なインターネット接続を無線で可能にすることを期待し、TV「ホワイト・スペース」の免許なしでの開放を政府に強く働きかけた。「以前にグーグルが指摘したように、米国の現用の無線周波数の大部分は、未利用であるか、もしくは酷く利用効率が低い。」「他の自然資源とは違って、無線周波数を休閑地にしておくことに利益はない。」と同社は書簡の中で指摘している。

(注10)TV「ホワイト・スペース」はテレビ放送のチャンネル周波数の間に設けられた、干渉回避を目的として利用を制限された周波数である。グーグルはこの「ホワイト・スペース」を免許なしで利用できるようにする(グーグルの幹部は「WiFi 2.0」と呼んでいる)ため、マイクロソフト、HP、デルなどとともに「White Space Coalition」を結成しロビー活動を続けている。

(注11)Unlicensed operation in the TV broadcast band(March 21, 2008 / グーグル社ワシントン通信およびメディア担当法律顧問Whitt氏からFCC秘書室Dortch氏に宛てた公式文書)

 地上波テレビの2〜51チャンネルの間に存在する「ホワイト・スペース」の活用は、全ての米国民にユビキタス・ワイヤレス・ブロードバンド接続を供給する、またとない機会を提供するとともに強く期待されている既存ブロード・バンド・プロバイダーとの競争を促進するだろう、とグーグルは語っている(注12)。また、前掲の同社の書簡では、「TV『ホワイト・スペース』は、一般向けモバイル端末のオープン・ソース・プラットフォーム『アンドロイド』を使用することで、全ての米国人に比類のない低コストでモバイル・ブロードバンドのカバレッジを提供できる。昨年(2007年)秋に公表したように、OS、ミドルウエアおよびユーザー・アプリケーションを含む完全なオープン・ソースのソフトウエア・スタックを開発するため、30以上の企業がOpen Handset Allianceを結成し、グーグルと協力して働いている。今年後半に商用化される見通しのアンドロイド搭載携帯電話端末での利用に、TV『ホワイト・スペース』は極めて適している。」と述べている。

(注12)Google asks FCC to open up TV white space for WiFi (Dow Jones Newswire / 25 March 2008)

 今回の同社の公開書簡は、終了したばかりの700MHz帯のオークションで、1免許も取得できなかったグーグルが、モバイル事業にどう取り組んでいくかを示すものだ。しかし、グーグルがFCCに対して、TV「ホワイト・スペース」の開放を迫ったのは今回が初めてではない。しかし、今回の提案でグーグルは、テレビ放送や無線マイクロフォンとの干渉を確実に避けるための新たな提案を行っている。さらに、最近(5月)同社は、スプリント・ネクステルが主導してWiMAX事業の全米展開を目指す新クリアワイヤーに、5億ドルの出資を行なう意向を表明した。

 これまでの「White Space Coalition」などの提案では、他の無線サービスとの干渉を避けるため、TV「ホワイト・スペース」端末が「ホワイト・スペース」内で発信する場合、発信前に他の機器からの発信を検知し、空いているチャンネルを探して発信するという考え方だった。しかし、昨年12月にこの技術を搭載した2社のプロトタイプ端末で行ったFCCによる実験は、フィリップス電子の端末では満足すべき成果が報告されたものの、マイクロソフトの端末では失敗に終わり、この技術の信頼性が疑問視されていた。このことは、従来から干渉を危惧して「ホワイト・スペース」をモバイル・ブロードバンドに活用することに反対していた放送事業者の態度を一層硬化させることになった。

 グーグルが今回新たに提案した周波数保護の強化策は、TV「ホワイト・スペース」端末は、発信するチャンネルについての「オール・クリア」信号を受信しない限り、発信できないようにするというものだ。「オール・クリア」の確認は、「ホワイト・スペース」内で発信する前に最大4Wの予備発信を行ない、免許を受けた発信機器の情報を蓄積したデータ・ベースにアクセスして行なう。さらに、すべてのTV「ホワイト・スペース」端末は、発信するチャンネルに検知しやすいように特別に設計された無線マイクロフォンの「ビーコン」がでていれば、発信がブロックされる。それに加えて、36〜38チャンネルを無線マイクロフォンの「セィフ・ハーバー」とし、TV「ホワイト・スペース」端末の発信ができないようにする。医療テレメトリー端末および無線天文学には37チャンネルを利用する免許が付与されているが、それらも保護される。

 グーグルはこの提案を「ホワイト・スペース」に対する「ベルトとサスペンダー」のアプローチと呼んでいる。周波数のどの部分を干渉回避に使っているかを識別するマイクロソフトなどによる「周波数監視」のアプローチと、特定の「オール・クリア」信号をローカル送信装置から受信しない限り、端末から特定の波長の送信をさせないようにするモトローラのプランの両方をグーグルは支持している。「ベルトとサスペンダー」の両方を使って干渉の懸念払拭に万全を期そうというものだ(注13)

(注13)Google in fresh WiFi access push (The Financial Times online / March 24 2008)

 FCCの委員は従来から、干渉回避が可能であれば「ホワイト・スペース」の活用を推進すべきだという意見で一致しており、今後はグーグルなどの干渉回避プランが実際に機能するかを実験で確かめるプロセスに入るものと見られる。干渉の問題が解決しても「ホワイト・スペース」が利用できるようになるのは、来年(2009年)2月17日に予定されている地上波テレビのデジタル移行終了後になる。

特別研究員 本間 雅雄
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