ホーム > InfoComアイ2008 >
InfoComアイ
2008年7月掲載

注目集まるiPhone 3Gの発売

iPhone(アイフォーン)(c)Apple, Inc. 米アップル社は、第3世代携帯電話(3G)に対応した「iPhone 3G」を、7月11日から22カ国で同時発売すると発表。日本ではソフトバンクから発売されている。年内には世界中の70カ国に拡大する予定だ。キャッチフレーズは「倍のスピードで値段は半分」である。思い切った価格設定、企業情報システムへの対応、サード・パーティに対するアプリケーション開発環境の提供、携帯電話会社とのレベニュー・シェアの廃止、発売国の拡大など、「iPhone 3G」の導入はサプライズの連続だった。「iPhone 3G」のインパクトが何処まで広がるのかを考えてみたい。

■「倍のスピードで値段は半分」のiPhone 3G

 アップルのニュース・リリース(注1)の中で、同社のジョブCEOは、「iPhone (2G)を発売してからちょうど1年後に、われわれは『倍のスピードで値段は半分』の新しいiPhone 3Gを送り出そうとしている。iPhone 3Gは、Microsoft Exchange ActiveSyncをサポートし、iPhone SKD(アプリケーションの開発キット)によって作成されるサード・パーティの信頼性の高いアプリケーションを実行させ、世界中の70カ国以上で利用されるだろう。」と語っている。

(注1)Apple introduces the new iPhone 3G (Apple News Release / June 9 ,2008)

 同社のニュース・リリースによると、新iPhone 3Gの主要な特徴は次の通りである。

  1. 3Gに対応。(UMTS、HSDPA、GSM、EDGE、WiFiおよびBluetooth 2.0+EDRの各無線規格に対応)

  2. 新システム・ソフトウエアiPhone 2.0を搭載し、サード・パーティにアプリケーション開発環境を提供するiPhone SKDに対応。また、メール、アドレス帳、カレンダーなどの情報をプッシュで受け取れるMicrosoft Exchange ActiveSyncをサポートし、企業ネットワークのための暗号化されたアクセスであるCisco IPsec VPNにも対応。このほか、GPS機能を搭載し、グーグルの地図連携サービスなどが利用できる。

  3. iPhone SDKを使ってサード・パーティが開発した各種のアプリケーションは、新しいApp Storeからセルラー網およびWiFi経由でiPhone 3Gに供給(有料)される。

  4. 新ウェブ・サービス「MobileMe」を提供。アップルがMacユーザー向けにeメール、オンライン・ストレージなどのサービスを提供しているウェブ・サービス .Mac(ドットマック)をiPhone 3Gのユーザーにも拡張。20GBのデータ蓄積が可能で年間使用料は99ドル。

  5. 電池の持続時間が長くなった。iPhone 3Gの待ち受け時間は300時間、連続通話可能時間は、2G利用の場合10時間、3G利用の場合5時間、ウェブ・ブラウジングの場合5〜6時間、ビデオ再生の場合7時間、オーディオ再生の場合24時間。なお、ユーザーによる電池パックの着脱はできない。

  6. iPhone 3Gの米国における小売価格は、AT&Tと2年間の利用契約を結んだ場合、8GBメモリーの端末が199ドル、16GBの端末が299ドルで、これまでのiPhoneより夫々200ドル安い。7月11日にアップルおよびAT&Tの小売店から発売される。

■グローバル戦略を意識したiPhone 3G

 iPhone 3Gで強化された機能の中でまず注目すべきは、ビジネス利用を狙って追加されたアプリケーションだろう。マイクロソフトの統合ビジネス・ソフト「Office」で作成したドキュメントの閲覧機能はその一つである。ワードによる文書、エクセルによる表計算シート、パワーポイントによるプレゼンテーション資料などをサポートする。iPhone 3Gでは、企業内の情報システムの機能を、セキュリティを含めパソコンとほぼ同様の環境で利用できるようになる。アップルのクックCOOは、ビジネスで求められるすべての機能を備えている、と語っている。iPhone 3Gはビジネス向け端末としても市場拡大を狙っている。

 iPhone 3Gで追加されたもう一つの新機能は「MobileMe」である。これはeメール、アドレス帳、カレンダーなどを、オンライン「クラウド」(注2)からiPhone、iPod touch、MacおよびウインドウズPC上の夫々のアプリケーションにプッシュする新ウェブ・サービスである。例えば、MobileMeのeメールでは、メッセージは無線経由で即座にiPhoneにプッシュされるので、マニュアルでチェックする必要はなく、ダウンロードのために待たされることもなくなる。一つの端末からアドレス帳やカレンダーのデータを変更すれば、他の端末の情報も自動的に書き換えられる。アップルの上級副社長は、マイクロソフトの各種ツールの統合ソフト「Exchange」がビジネス用に広く普及していることに触れ、「MobileMe」は「それ以外の人達のExchange」であると強調している。「広告の入らない」有料サービスとしてアッピールしたいという。

(注2)アップルは「MobileMe」を一種のクラウド・コンピューティング・サービスとして位置づけている。ネット上に拡散したコンピューティング・リソースを使って、情報やアプリケーションを提供するという概念。インターネットという雲(クラウド)のどこかにサービスを提供するサーバーがあるが、ユーザーはその場所、台数および構成を意識することなく、サービスを受け取ることができる。

 今年3月にiPhone SDK(ソフトウエア開発キット)を無償で公開し、サード・パーティのデベロッパーにiPhoneのアプリケーションの開発環境を提供した。アップルの審査を経たサード・パーティのアプリケーションは、同社が新設するApp StoreもしくはiTunes経由(注3)でiPhoneのユーザーに提供される。販売価格はデベロッパーが決め、アップルは30%を受け取る。全世界の25万人がiPhone SDKをダウンロードしているという。6月9日のアップルの説明会では、米ネット競売最大手のイーベィがオークション・プログラム、セガとパンギア・ソフトウエアがゲームのシリーズ、無線の新興企業のLooptが友人の現在状況確認、医療情報企業のモダリティが一連の医療プログラムを夫々デモして盛り上がったという。

(注3)メモリー容量が10MB以下の小型アプリケーションはApp Storeからセルラー網経由でダウンロード可能。10MB超のアプリケーションは、WiFi接続を使うか、iTunesから直接インストールが必要。

■「手頃な価格」で発売されるiPhone 3Gの舞台裏

 アップルのジョブズCEOは先の説明会で、iPhone 3Gの特徴として、「3G対応」、「企業ユーザー向けのサポート強化」、「サード・パーティによるアプリケーション開発のサポート」、および「対応する国の増加」の4つを挙げている。しかし、ジョブズCEOは「従来のiPhoneは、値段が高くて買えなかったという人が56%もいた。」とも語っており、その反省もあって相当思い切った価格設定に打って出たことも特徴の一つと言えるだろう。

 iPhone 3Gの最大の目玉は、その「手頃な価格」設定と、年末まで70カ国を超えるという販売地域(国)の急拡大にある。6月9日の説明会で、アップルは7月11日から22カ国でiPhone 3Gを発売することを明らかにしたが、米国ではAT&Tとの2年契約の場合、8GB端末を199ドル、16GB端末を299ドルで発売すると発表した。現在のiPhone 2Gの8GB端末が399ドルであるから、文字通り半額という思い切った価格設定である。2007年6月末にiPhoneを発売以来現在まで、アップルは2G 端末を600万台販売しているが、同社のクックCOOは、「潜在需要はもっとあった。だが、いかんせん値段が高過ぎた。」と語っている。

 日本ではソフトバンク・モバイルが7月11日からiPhone 3Gを発売する。6月23日に同社は、2年契約の場合8GB端末を23,040円、16GB端末を34,560円(いずれも2年割賦の毎月実質支払額の合計)で発売すると発表した。これは、米国における価格設定にほぼ準じており、日本における最上位機種が5万円程度であることを考えると、かなり安い価格設定である。当然ながらiPhone 3GはiPodとしても使える。iPhone 3Gに相当するiPod製品はiPod touchで、その価格(ヤマダ電機のホームページ調べ、6%のポイントがつく)は8GBモデルが36,800円、16GBモデルが48,800円で、iPhone 3Gで利用できる数々の新機能を考慮すれば、iPhone 3Gの価格設定は「格安」である。

 iPhone 3Gの価格をどうしてこんなに安くできるのか。AT&Tは6月9日のiPhone 3G発売の発表の際、これまでアップルと締結していた「レベニュー・シェア(収入配分)」の契約を終了すると発表した。アップルに対する配分率は公表されていないが、iPhone で利用した料金収入の30%程度と見られている(注4)。収入配分契約の終了にもかかわらず、アップルがこれほどの値下げを敢行できるのは、AT&Tをはじめとする携帯電話会社が、iPhone 3Gが売れる都度、かなり高額の端末補助金をアップルに支払うことに合意したからだ。

(注4)The iPhone 3G unveiled (BusinessWeek online / June 9,2008)

 アップルはiPhone 3Gでは、「収入配分」を放棄し、代わりに携帯電話会社が支払う端末補助金によって端末価格を引き下げ、販売拡大を目指す構えだ。AT&TモビリティのヴェガCEOは、iPhone 3Gの価格設定に関連して、米国ではこの種の機器がマス・マーケットに受け入れられる「マジカル・プライシング・ポイント」は200ドルであると語っている。端末補助金については、アップルとAT&Tは何も公表していないが、米国のハイテク機器調査会社iSuppliは、1端末当たり300ドル(8GB端末の場合)とみている(注5)。つまり、AT&TはアップルからiPhone 3Gを1端末499ドルで購入し、2年契約の顧客に199ドルで提供することになる。アップルが携帯電話会社からの「収入配分」を放棄した分は、端末補助金と販売数の増加によって十分カバーできる、と米投資銀行はレポートに書いている。ある投資ファンドの予測によると、今年末までに販売されるiPhone 3Gは1,600万台で、1台当たりの販売額は120ドル増加し520ドルとなり、アップルの利益を19億ドル押し上げるという(注6)

(注5)iSuppli in the news;New iPhone carries $173 BOM and manufacturing cost, according to a preliminary estimate from iSuppli (June 24,2008)

(注6)New iPhone rules: more Apple revenue, fewer unlocked phones (Dow Jones Newswires / 03 July 2008)

 一方、AT&Tなどの携帯電話会社にとって、アップルとの「収入配分」契約は大きな足かせだった。第1に、この契約があるため「端末補助金」を出す余裕がなく、戦略的な販売価格の設定ができなかった。第2に、「端末補助金」を出していないので加入者を複数年契約で縛る(途中解約の場合違約金を課すことができる)ことができなかった。第3に、そのため解約する加入者が増加し、iPhoneが「ロック解除」されて他社のネットワーク上で利用されるようになった。これまで販売された600万台のiPhoneのうち、4分の1が「ロック解除」されたと見られている(注7)。AT&Tにとっても、販売数を増やし「ロック解除」端末を減らすためには、「収入配分」よりは販売時点で支払われる「端末補助金」の方が、まだましだという思いがあったのではないか。

(注7)前掲Dow Jones Newswires / 03 July 2008

 AT&Tは7月1日に、iPhone 3Gの料金の詳細を発表した。それによると、iPhone 3Gを199ドルもしくは299ドルで購入できる顧客は、(1)7月11日以前にiPhone 2Gを購入した顧客  (2)AT&Tと新規契約を結ぶ顧客  (3)アップグレード割引を受けられる既存のAT&T顧客(既存契約の残存期間と支払い履歴で判断)である。新規契約者には36ドルのアクチベーション料金、既存加入者には18ドルのアップグレード料金が別にかかる。これらの条件を満たさない顧客には、AT&Tとの2年契約を条件に、8GB端末を399ドル、16GB端末を499ドルで販売する。将来、契約不要のiPhone 3Gを発売する計画で、その場合は、8GB端末が599ドル、16GB端末が699ドルとなる。通信料金については、無制限のデータ通信がセットになった4プランを用意した。最低は月額69.99ドルで音声通話450分プラス夜間週末5,000分のプラン(AT&T Nation 450)で、最高は月額129.99ドルで音声通話無制限のプラン(AT&T Nation Unlimited)である。データ定額料金が従来の月額20ドルから30ドルに上がった。しかも、データ料金にテキスト・メッセージ料金が含まれず、無制限の場合は月額20ドル、1500通まで同15ドル、200通まで同5ドルのオプション契約の必要がある(注8)

(注8)AT&T announces iPhone 3G pricing and tips to be iReady (AT&T News Release / July 1,2008)

 このほかiPhone 3Gの販売では、従来と大きく変わった点が2つある。一つは、一国一社独占販売がiPhone 3Gの契約では盛り込まれなかったことだ。イタリアではテレコム・イタリアとボーダフォン・グループの2社がiPhone 3Gを販売する。オーストラリアとポルトガルなどでも2社による販売となる予定だ。日本でも、NTTドコモは株主総会での質問に答えて、iPhone 3Gの販売権獲得に向け引き続き努力していくと答えている。もう一つの変更点は、iPhone 3Gの販売チャンネルをAT&Tとアップルの小売店に限定し、アップルによるオンライン販売とオンライン(iTunes経由)によるiPhoneのアクチベーションを止めることである。アップルが携帯電話会社側の意見に歩み寄ったと見られる。

■iPhone 3Gは成功するか

 2008年第1四半期に世界で販売された「スマートフォン」のシェア1位はノキアで45%、2位はRIM(ブラックベリーのメーカー、カナダ)で13%だった。ノキアが弱い米国市場に限っても、RIMが42%を占め、2位のアップルは20%だった。しかし、アップルがiPhoneでこの業界に与えるインパクトは、そのシェアが示すよりも大きい、とエコノミスト誌(注9)は指摘している。iPhoneは、そのデザインと使い勝手の良さで、携帯電話端末の新しい標準の設定に先鞭をつけた。ジョブズCEOによると、iPhoneユーザーの98%がウェブをブラウジングし、94%がeメールを利用し、80%が10以上の新機能(当然これには内蔵されたiPod音楽プレーヤーが含まれる)を利用している。しかし、他社のスマートフォンの利用者の多くは、その使い勝手の良くないメニューのせいで、10の新機能を見つけるのさえ難しい、とジョブズCEOはジョークを言っているという。

(注9)Follow the leader (The Economist / June 12 2008)

 今やアップルは、iPhoneをハンドヘルド・コンピュータに変え、その上で実行するソフトウエアを書くことをサード・パーティにも開放しようとしている。他の携帯電話メーカーも同様なことをやろうとしているが、iPhoneのOSとプログラミング・ツールは、アップルが6月9日に開催したソフト開発者会議で明らかなように、他社よりも優れている。ジョブズCEOが、彼の生涯における消費者技術に関する第3次革命(注10)をリードしようとしていることは明白だ、と前掲のエコノミスト誌(2008年6月12日)は書いている。

(注10)第1次革命はアイコン・ベースのグラフィカル・インターフェイスのMac、第2次革命はユーザー・フレンドリーなデジタル音楽プレーヤーiPod、第3次革命はエレガントなタッチ・スクリーン・インタフェイスのスマートフォンiPhoneで、夫々新時代の幕開けを先導した。

 これらの機能やデザイン面での優位に加え、手頃な価格」設定によって、iPhone 3Gはかなりの顧客を集める可能性が高い。7月7日の日本経済新聞に掲載されたヤフーバリューインサイトの調査によると、現ユーザーの18%がiPhone 3Gの「購入を検討する」と答えた。買いたい理由は「タッチパネル方式のスマートなデザイン」、「iPod機能を持つ」が多く、「ワンセグ」や「おサイフ携帯」の機能がないことを不満とする声はほとんどなかったという。iPhone 3Gが、ビジネス・ユーザーにどれだけ受け入れられるかは未知数だが、ハイエンド商品としてはかなり手堅い反応といえる。

■端末価格と通信料金の関係が再び不明確に

 ソフトバンク・モバイルは6月23日、7月11日から日本で発売されるiPhone 3Gの端末価格や通信料金を発表した。1台当たり4万円超の販売奨励金(日本経済新聞6月24日)を投じ、端末販売価格を8GBモデル23,040円、16GBモデル34,560円((いずれも2年割賦の毎月実質支払額の合計)に抑える。この価格は、現在の国内メーカーの最上位機種が5万円前後で発売されていることから格安の価格である。まず端末を広く普及させ、音楽や動画などのデータ通信で収益を稼ぐビジネス・モデルの確立を狙っているのだろう。

 月額料金は、ホワイト・プラン基本使用料(i)(980円)、パケット定額フル定額料(5、985円)およびS!ベーシックパック基本料(i)(310円)がセットで、合計7,280円が最低料金になる。「パケット定額フル」はソフトバンクのデータ通信料(PCサイトブラウザ)の最も高い料金プランであるが、iPhone 3Gは「1台当たりのデータ通信量が他の携帯の10〜20倍になり、ネットワークに負荷がかかる」からと同社の孫社長は説明している。(日本経済新聞6月24日)

 ソフトバンク・モバイルが発表したiPhone 3Gの販売価格と月額料金は、おおむねAT&Tのそれに準じている。問題は、1台当たり4万円超の販売奨励金(実質は端末補助金)の存在である。8GBモデルの場合、端末補助金を仮にAT&Tの300ドル(推定)とみると、これに販売価格23,040円を加えた実質仕入れ原価は55,000円と推定できる。これは6割の値引きに当たる。値引き分は、最低月額7,280円のセット料金プラス利用に応じた通話料金やコンテント料などで回収することになる。このセット料金は、値引き分を積み増した料金ではないが、利用者に選択の余地がなく、必要のない料金プランが含まれる場合もでてくる。

 総務省は2007年9月に、携帯電話の端末価格と通信料金の透明性や公平性を高める観点から、各携帯電話会社に端末価格と通信料金の内訳を明確化した「分離プラン」の導入を要請している。今回のiPhone 3Gでは、端末補助金が多額である(是非その額を明らかにして欲しいものだ)ことも考慮して、端末価格を割引かない代わりに、安い料金プランの選択が可能な「分離プラン」も用意すべきだったと思う。

特別研究員 本間 雅雄
▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。