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Global Perspective 2012
2012年2月27日掲載

Orange:アフリカにおけるFacebookをトリガーにした顧客開拓

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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 2012年2月16日、フランス最大の通信事業者Orangeがアフリカで展開する同社グループ会社にて、どのような携帯電話からでもFacebookにアクセスできるサービスの提供を発表した。

Orangeグループが狙う成長の期待できるアフリカでのFacebook市場

 OrangeはアフリカでのFaebookの成長のポテンシャルの大きさに期待しており、今回もUSSD(Unstructured Supplementary Service Data)経由で、どのような携帯電話でもどのようなネットワーク環境下でもあらゆる人々が利用できるような仕組みになっている。
USSD経由のため、古い携帯電話でもネット接続環境がなくても、テキストベースの書き込み、および閲覧が可能である。日本では馴染みがないUSSDだが、アフリカなど新興国で出回っているほとんどの携帯電話では対応しており、携帯電話端末間でテキスト、メッセージの送受信が可能である。SMSと似ているが、USSDはセッションが行われている間のみトランザクションが発生する仕様である。Facebook専用のアプリケーションは不要で、ユーザはUSSD経由でPINコードを入力してFacebookにアクセスし友達検索・リクエスト・承認、近況アップデート、友達へのコメント、「いいね」ボタンなどFacebookの操作が可能である。料金は分・日・週・月単位から選択できて各国によって異なる。

 Orangeは2011年末に同社グループ会社でエジプトのMobinilで本サービスを提供して1か月で35万ユーザを獲得している実績がある。まずはコートジボワールから提供し、2012年中にアフリカでの同社グループ向けに提供する予定だ。アフリカでのサービス提供の最初1年で100万以上の加入者を目指している。
Orangeがアフリカで展開する16か国において携帯電話加入者数は既に約2億3,600万いる。そのうちOrangeのグループ会社で約8,000万のユーザがいる。本サービス導入に向けての大きなポテンシャルがある(表1)。
但し、アフリカではプリペイド式のSIMカードが多く1人で複数枚のSIMを保有しているので上記数字は人数ではないので、注意が必要である。

 Facebook利用者は16か国で約2,000万である。普及率が高いチュニジアでもまだ約27%程度なのでFacebookの同地域での成長の余地は大いにある。16か国中10カ国が普及率10%以下である。(コートジボワールとギニアビサウの2ヶ国はFacebookに関するデータなし)

(表1)Orangeがサービス展開するアフリカ諸国の携帯電話加入者数と普及率・Orangeグループの加入者数、シェア、同国内順位・Facebook利用者数と普及率

携帯電話
加入者数
携帯電話
普及率
Orange
グループ会社
グループ
加入者数
加入者
シェア
国内
順位
Facebook
利用者数
Facebook
普及率
1 エジプト 80,177,000 102.3% MobiNil 31,590,000 39.4% 2位 9,544,400 11.62%
2 モロッコ 36,151,000 113.5% Meditel 11,858,000 32.8% 2位 4,175,560 13.07%
3 ケニア 23,990,000 60.4% Orange Kenya 792,000 3.3% 4位 1,305,340 3.22%
4 コートジボワール 16,992,000 77.1% Orange Cote d'Ivoire 5,743,000 33.8% 2位 NA NA
5 ウガンダ 16,109,000 47.4% Orange Uganda 854,000 5.3% 5位 364,740 1.09%
6 チュニジア 12,990,000 123.2% Orange Tunisia 1,091,000 8.4% 3位 2,925,840 27.92%
7 カメルーン 9,970,000 48.8% Orange Cameroun 4,506,000 45.2% 2位 467,920 2.39%
8 マリ 9,780,000 78.0% Orange Mail 6,122,000 62.6% 1位 127,300 0.83%
9 セネガル 9,581,000 73.0% Orange Senegal 5,911,000 61.7% 1位 653,140 4.64%
10 マダガスカル 5,852,000 27.5% Orange Madagascar 2,329,000 39.8% 1位 213,060 1.00%
11 ギニア 4,883,000 47.3% Orange Guinea 5,911,000 28.7% 2位 41,080 0.40%
12 ニジェール 3,992,000 27.3% Orange Niger 1,142,000 28.6% 2位 44,000 0.28%
13 ボツワナ 2,779,000 151.1% Orange Botswana 811,000 29.2% 2位 174,140 8.58%
14 モーリシャス 1,227,000 95.8% Cellplus 701,000 57.1% 1位 305,940 23.64%
15 ギニアビサウ 959,250 58.3% Orange Bissau 276,000 28.8% 2位 NA NA
16 赤道ギニア 435,000 33.1%

Orange Guinee Equatoriale

370,000 85.1% 1位 19,160 2.94%
    235,867,250
(16か国合計)
72.8%
(平均普及率)
  8,0007,000
(16か国合計)
36.9%
(シェア平均)
  20,361,620
(14か国合計)
7.29%
(平均普及率)
(出所:Orange社およびITU、Socialbaker等の発表資料を元に筆者作成)

Orange専用のFacebook端末「Alcatel One Touch」シリーズ

 今回の取組とは別にOrangeは2011年11月に「Alcatel One Touch」シリーズで、100ドル以下の廉価版Facebook端末を欧州、アフリカ市場に向けてリリースしている。Orangeグループ向け専用にフランスのメーカーAlcatel社が開発した端末である。「ALCATEL ONE TOUCH 908F」というAndroid搭載の廉価版スマートフォンもある。

まとめ

 Orangeは今回のFacebookサービスの提供を通じてアフリカ市場での顧客獲得に積極的である。アフリカは携帯電話の市場としても非常に勢いがある。しかし携帯電話を保有している人々はSIMを複数枚保有し、携帯電話を保有できない多くの人々は日常のベーシック・ヒューマン・ニーズ(BHN)にも苦慮している。Orangeがターゲットとしているのは携帯電話を保有している人々で、さらにFacebookのサービスを活用したい既存および新規顧客である。

 「Facebookに代表されるソーシャルネットワークは家族や友人たちとの繋がり方を大きく変えた。どのような携帯電話であれ、USSD経由でFacebookに1人でも多くの利用者が繋がることができるようにするのがOrangeの役割である」とOrangeのVice President of Strategic Partnerships、Xavier Perret氏は語っている。

 急成長するアフリカの携帯電話市場だが、通信事業者各社ごとの差別化が難しくなってきている。ネットワークカバレッジと料金競争だけでは新規顧客を獲得すること難しい。付加価値サービス(Value Added Service:VAS)が必要なのだ。
OrangeはFacebookという付加価値を提供してアフリカ市場でのプレゼンス向上と顧客開拓、新たな収入源の確保を狙っている。
 但し、ご存知のようにFacebookはOrangeグループの独自サービスではない。両社には資本関係もない。今回のOrangeの取組みは他通信事業社も追随可能である。その点を留意しながらも今後、OrangeのアフリカでのFacebookをトリガーにした戦略は注目に値する。

(参考)アフリカでソーシャルメディアはどのくらい普及しているのか

【参考動画】
就職フェア(2011年)でのOrangeがアフリカ地域での事業展開を踏まえて人材獲得を積極的に行っていることがわかる。

Orangeの決算報告(アフリカでの事業に特化した部分)(2011年2月)
アフリカでの事業に今後も注力していくことがわかる。

*本情報は2012年2月22日現在のものである。

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