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Global Perspective 2012
2012年4月24日掲載

中国・フィリピン:南シナ海問題をめぐるサイバー攻撃

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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 以前から中国とフィリピンが互いに領有権を主張している南シナ海の中沙諸島の島嶼スカボロー礁(中国語名:黄岩島)において2012年4月、中国の海洋監視船とフィリピン海軍の艦船が一触即発の状態となっていることは日本でも多くのメディアが報じているからご存知の方も多いだろう。領海での中比両国の緊迫した関係がサイバー空間にも飛び火していったことも現地では多く報じられている。

中国・フィリピンのサイバー攻撃

 2012年4月20日、フィリピン大学のサイトがサイバー攻撃を受けダウンした。サイトにアクセスすると「Huangyan Island is Ours!(黄岩島は我々のものだ) 」とのコメントが表示されていた。翌日(4月21日)には回復したとのことだ。また4月23日には政府機関であるPCDSPO(Presidential Communications Development and Strategic Planning Office)のサイト大統領記念博物館のサイトもDOS攻撃を受けたと報じられている。

  中国のサイトもサイバー攻撃を受け、「Scarborough Shoal is ours!(スカボロー礁は我々のものだ)」Anonymous #OccupyPhilippinesとのメッセージ画面が表示されていた。アノニマス集団「Anonymous #OccupyPhilippines」 はFacebookページも開設されており、今回の中比間でのサイバー攻撃に関するニュースや情報の多くが掲載されている。

 攻撃を受けた中国のサイトは中国政府のサイトも含む以下の4つと報じられている。(攻撃が報告された中国のサイト)

 フィリピン外務省スポークスマンのRaul Hernandez氏は、今回のサイバー攻撃について以下のようにコメントし、両国のネチズンたちに対してサイバー攻撃をやめるように呼び掛けている。

"We denounce such cyber attacks regardless from which side they are coming from. They are counter-productive and will only add to the tensions. We call on both Filipino and Chinese netizens to be more responsible and encourage dialogue rather than discord.”
(どちらが先に攻撃を仕掛けたかにせよサイバー攻撃は緊張を増加させるだけである。両国のネチズンたちには責任ある行動を求め、仲たがいするよりも対話をしてもらいた)
"Cyber attacks are nothing new. Our Government has already taken these things into consideration and is doing all it can to protect our computer systems so as to prevent any disruption in our day-to-day operations."
(サイバー攻撃は目新しいものではない。フィリピン政府はすでにサイバー攻撃に備えてコンピュータシステムを防御するために日常のオペレーションで対策を講じている)

リアルとサイバー並行の争い

 サイバー空間というインターネットの世界に国境はないが、国家間の諸問題がサイバー上での争いに発展していくのは最近の国際社会での1つの大きな特徴である。国家間の角逐や軋轢が民間レベルを巻き込んで、ネット上での攻撃や争いに発展している。従来、国家間の軋轢があった場合、大使館周辺でプラカードを持って反対運動を行ったり、非買運動(経済制裁)などを行うなど目に見えた反抗やデモであった。現在でもそのような行動はあるが、並行してそれらがネット上での反抗(デモ運動)、攻撃も行われている。

 2011年は中国とベトナムの南沙諸島問題でサイバー攻撃が両国間で頻発していた。
今回の中比問題ではフィリピン外務省(政府)が「ネチズン(netizens)」という呼び方を用いて、サイバー攻撃をやめるように呼びかけたのは興味深い。

 サイバー攻撃では攻撃をしかけてくるアクターも個人レベルなのか、集団(組織)なのか、政府なのか判明もつかない。また攻撃されるサイトも政府や重要インフラだけでなく大学や民間レベルまで多様になってきている。

 インターネットが登場してから、国家間のリアルな紛争や軋轢は、ネット空間でも並行してサイバー攻撃にも転じるようになってきている。各国政府は「目に見えない敵」がサイバーからの攻撃してきた場合の対応策をシステム、キュリティ上の問題だけでなく、新たな国際問題として真剣に考えなくてはならない。サイバー空間は国際公共財なのか、国家として守るべき安全保障空間なのかも重ねて熟慮する必要がある。

【参考動画】
サイバー攻撃を受けたことを伝えるフィリピンのニュース(2012年4月)

(参考)佐藤仁「アジア:サイバーテロ〜リアルからサイバーへ。見えない敵との戦い」, InfoComモバイル通信ニューズレター 268号(2011年7月号)pp47-48

(*本情報は2012年4月24日時点のものである。

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