ホーム > Global Perspective 2012 >
Global Perspective 2012
2012年5月15日掲載

米中国防相会談とサイバー攻撃
〜「誤解や思い込みによる衝突の回避」に向けて

グローバル研究グループ 佐藤 仁
[tweet]

2012年5月7日、パネッタ米国防長官と、中国の梁光烈国防相がワシントンで会談し、米中両国がサイバー攻撃に対処するため、協力関係を強化していくことで一致したと報じられている。

米中国防相会談から見る「サイバー攻撃」

会談後に両氏は会見を行った。中国からのアメリカに対するサイバー攻撃が増加していることについて、梁国防相は「アメリカに対する全てのサイバー攻撃が直接中国から来たということには同意できない」とコメントした。パネッタ長官は「米中両国はサイバー空間における高度な能力を保有しており、他国やハッカー集団などからの攻撃を回避するためにも協力をしていく必要がある」、
「サイバー攻撃の問題は、すべての国にとって非常に重要になっている」とコメントし、米中両国でサイバーセキュリティに関し今後も協力していくことで合意した。

また、パネッタ長官は、「サイバー空間で、誤解や思い込みによる衝突を回避するための相互の協力が重要である。」(原文:It's extremely important that we work together to develop ways to avoid any miscalculation or misperception that could lead to crisis in this area,”)とコメントしている。

国家間における「サイバー攻撃」や「サイバー戦争」というのは非常にわかりにくい。今回の米中会談でも梁国防相は、アメリカへのサイバー攻撃が直接中国からの攻撃であることを否定している。また実際に他国やハッカーからの攻撃もあるだろう。攻撃元が特定できないことが非常にわかりにくいものにしている感がある。まるで映画かゲームのような世界の話をしている感覚の人もいるのではないだろうか。

今回のパネッタ長官のコメント「サイバー空間で、誤解や思い込みによる衝突を回避するための相互の協力が重要である。」によって多くの人は気が付いたかもしれない。
「誤解や思い込みによる衝突」は冷戦以前の遥か大昔から国際社会における戦争、紛争、対立の主要な原因である。国家間のサイバー攻撃も、サイバー空間において「誤解や思い込みによる衝突」の回避を行うことが重要になる。これは「Confidence Building Measures(信頼醸成措置)」のサイバー版と考えられる。そのようなフレームワークで考えると、サイバー攻撃においても国際社会での過去からの戦争回避プロセスや経験が活かせるのではないだろうか。

サイバー空間で守るべきものは。認識の一致に向けて

国家間相互での回避すべき点が明確になった次のステップとしては、

  • 「サイバー空間とは何か?」
  • 「サイバー空間を構成するコンポーネントは何か?」

の定義と国家間での認識の一致が重要になってくるだろう。

現代社会は、軍事施設や重要インフラだけでなく、あらゆるものがインターネットに接続されている。「No Internet, No Life」な世の中である。サイバー空間を構成するものが何で、どこまでがサイバー空間か、そしてどこまでの安全を担保すべきか、どこまでを守るべきかの認識の一致が重要になるだろう。

しかし、多国間において相互でサイバー空間に関する認識を一致させるには、相当な時間がかかり、難しい点になるだろう。なぜなら、サイバー空間で守るべきものととらえ方が国によって異なるからだ。

Adam Segalが外交誌「Foreign Affairs(Vol 91,No.2  2012)」において米中のサイバーに対する認識を以下のようにとらえている。

(表1)米中のサイバーに対するとらえ方
サイバー空間に対する考え方 概要
アメリカ サイバーセキュリティ
(Cyber security)

サイバー空間の強化とは、通信など重要インフラのネットワークを護るという狭い意味でとらえている。

中国 情報セキュリティ
(Information security)
中国にとってはネット上のコンテンツ自体を規制することも含めた広い概念でとらえている。
中国政府の正統性、統治を護っていくことが重要。
(Foreign Affairs Vol 91 No.2, 2012の内容を元に筆者作成)

このように米中における「サイバー空間」に対する捉え方は大きく異なる。この認識を一致させて相互で協力していくための規範を作るのは相当に時間がかかり難航することは想像に難くない。
Adam Segalは、アメリカは中国との議論を進めるよりも、アメリカと同じ懸念を抱いている国々(例えばブラジル、インド、インドネシア、南アフリカ)と連携してサイバー空間に関する共通認識を形成することが中国に対する囲い込みになるから重要だと主張している。

米中は今後も二国間だけでなく、多国を巻き込んでサイバー空間の認識一致に向けた対話を継続して行っていく必要があるだろう。

(附記)サイバー分野における日本の海外諸国との連携

現在、多くの国々でサイバー攻撃が問題になっており、各国で様々な協力や連携を推進していこうという動きがある。日本での最近の動向を記しておく。

(表2)日本のサイバー分野における最近の動向
国・地域 時期 概要
アメリカ 2012年4月 野田首相がワシントンDCでオバマ大統領と会談を行い「サイバー協力」を行っていくことで合意した。
インド 2012年4月

玄葉外相がニューデリーでクリシュナ外相と会談し、サイバー空間の安定的利用の確保のため、両国が国際行動規範案の議論等において協力することで一致し、サイバーに関する二国間協議を立ち上げることで合意した。

EU 2012年5月

川端総務相とEUのネーリー・クルス欧州委員(デジタル戦略)がブリュッセルで会談し、サイバー攻撃の情報を共有する枠組みを年内にも創設することで合意した。

(参考)Adam Segal “Chinese Computer Games: Keeping Safe in Cyberspace”,Foreign Affairs Vol 91 No.2 March/April 2012

【参考動画】
米中国防相会談に関して報じるニュース(2012年)

*本情報は2012年5月11日のものである。

▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。