ホーム > Global Perspective 2012 >
Global Perspective 2012
2012年5月30日掲載

ロシア:MTSのモバイルペイメント〜急増するクレジットカードに便乗できるか

グローバル研究グループ 佐藤 仁
[tweet]

2012年5月17日、ロシア通信事業者MTSがNFCを活用したモバイルペイメントを開始することを発表した。

ロシアでも始まる通信事業者主導のモバイルペイメント

MTSは2012年5月より、MTS銀行およびマスターカードと提携してロシアでNFCを活用したモバイルペイメントを開始する。NFC対応のSIMまたはNFC対応携帯電話(まずはSony Xperia Sola)でモバイルペイメントを実現する。システム構築はTietoが担当している。
ユーザはPINの入力なしで1,000ルーブル(約30ドル)までの買い物が可能である。利用に際してユーザはMTSのショップでSIMの交換またはNFC対応携帯電話への乗り換えは必要である。マスターカードのPayPassが利用可能な店舗などで利用ができる。

MTSはNFCを活用したモバイルペイメントにおける通信事業者のビジネスモデルは公表していない。今回はSvyazExpocomのイベントでアナリスト向けに説明したのだが、その際の資料も同社が展開するLTEなどネットワーク関連ばかりであった。

(図1)モバイルペイメントのデモを行うMTS

(図1)モバイルペイメントのデモを行うMTS

ロシアで急速な拡大を続けるクレジットカード
〜モバイルペイメントも伸びるのか

VisaやMasterもロシアを急成長する巨大市場と考えてビジネス展開に注力している。
2010年10月13日のロシア「The Moscow Times」によると、ロシアにおけるVisaカードの発行枚数は2000年6月まで92万4,000枚だったが、2010年6月には7,000万枚までと約7,500%も急増している。
また平均利用金額も2000年には106ドルだったが、2010年には50ドルになっている。ロシア人がクレジットカードに慣れ親しみ、小額決済でもカードで買い物するようになったと分析している。

このようにロシアではクレジットカードが急速に成長している。もちろんロシアの金融や経済には不安定な要素も多く残っているが、資本主義の象徴ともいえるクレジットカードは着実に人々の生活の中に浸透してきている。

今回のMTSのモバイルペイメントでは約30ドルまでPINコードなしで利用できる。しかし利用者はNFC対応の専用SIMカードへの変更(またはNFC対応端末への切り替え)、およびカードへの登録(加入)などが必要であるため、利用するまでのハードルは残っている。

ロシアの携帯電話市場は普及率が約180%と世界でも相当に高い。一人複数枚を保有しプリペイドでの利用が主流である。データ通信が好調でロシアの多くの通信事業者が増収増益である。MTSは今回のモバイルペイメントのビジネスモデルを公表していない。

世界中で多くの通信事業者がモバイルペイメントへの取組みを表明しているが、通信事業者はモバイルペイメントにおいて存在感を出し、データ通信に代わる新たな収入源となるのだろうか。クレジットカードが急速に普及しているロシア市場でのモバイルペイメントと通信事業者の取組みは、今後も注目していきたい。

MTS

ロシアの携帯電話加入者は約2億5,000万で普及率は約180%である。上述のようにプリペイドの利用が非常に高い。MTSのシェアは約27%で1位だが、2位のMegafon、3位のVimpelcomも20%以上で拮抗している。

MTSは2012年第1四半期の収入は1.1%増の30億ドル、純利益は59%増の5億1,200万ドル。ロシアではデータ通信収入が貢献し6%伸びている。またウクライナ8%、ウズベキスタン10%、アルメニア2%と各国とも増加している。

MTSは以下の旧ソ連圏諸国でビジネス展開を行っている。かつてはトルクメニスタンでも事業展開を行っていたが、2010年12月にトルクメニスタン政府当局によりトルクメニスタンでのライセンスを剥奪された。同社のサイトは残っているが、事業が復活した内容、情報は掲載されていない。(参考

(表1)MTSの事業展開

 

会社 加入者 同国シェア
1 ロシア MTS 約6,750万 約27%
2 ウクライナ MTS Ukraine 約1,920万 約36%
3 ウズベキスタン MTS Uzbekistan 約930万 約39%
4 アルメニア Vivacell 約154万 約64%

*本情報は2012年5月28日時点のものである。

(参考) 佐藤 仁 「通信事業者が取組むNFCを活用したモバイルペイメント:動向と課題」, InfoCom REVIEW 56号(2012年3月)pp13-pp26

▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。