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Global Perspective 2012
2012年6月13日掲載

カナダ:NFCモバイルペイメントへの取組み

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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2011年5月14日、カナダの銀行やクレジットカード会社が集まって作っているCBA(Canadian Banking Association)はNFCを活用したモバイルペイメントのガイドライン「Canadian NFC Mobile Payments Reference Model」を発行した。そして5月15日、カナダの通信事業者Rogersと銀行CBICがNFCを活用したモバイルペイメント提供に向けて提携していくことを発表した。

有益な情報を掲載しているNFCを活用したモバイルペイメントのガイドライン

CBAが発行した「Canadian NFC Mobile Payments Reference Model」は133ページもあり、システムのことから導入に向けた店舗での取組みまで幅広く扱っており、カナダでのモバイルペイメント普及に向けたブループリントとなっている。ガイドラインというよりは仕様書に近い構成になっているが、カナダだけでなく全世界でモバイルペイメントを導入するにあたって有益となる情報が盛り込まれている。NFCを活用したモバイルペイメントの指南書としてここまできめ細かく書かれて公開された文書は世界でも稀である。
モバイルペイメント導入に向けた重要になる点について、文書より以下6点を挙げておく。

  1. オープン性
    市場がオープンでどのような事業者、店舗でもモバイルペイメントに参加でき、多様なビジネスモデルを追及できる環境であること。
  2. 安心・安全
    ユーザの個人情報、取引情報、システムが安全で個人、店舗が安心して利用できること。
  3. 顧客と店舗のニーズにあっていること
    顧客が導入しやすいか。利用者にとって簡単、便利に利用できること。
  4. 標準化技術
    金融機関間での決済システムは相互接続が可能であるために標準化技術を用いて構築されていること。世界の標準技術とアラインされていること。
  5. 持続可能性
    長期的視野に立ってモバイルペイメントのエコシステムが持続して発展していくこと。
  6. 他に考慮すべきこと
    プリペイド、ポストペイドのどちらを導入するか検討しておく。様々な通貨を扱うようにするにはどうしたらよいかを検討しておく。
    「おサイフケータイ」が日常生活の中でインフラとして普及しつつある日本人にとっては、特段目新しいことでもないだろうが、まだモバイルペイメントが普及していないカナダや諸外国にとっては、どのような点を考慮してモバイルペイメントのエコシステムを構築していくべきかの指針となるガイドラインである。

カナダRogersとCBICでのNFCモバイルペイメント

2012年5月15日、カナダ最大の通信事業者Rogersと銀行CBICがNFCモバイルペイメントで提携することを発表した。
CBICのクレジットカードを保有していれば、NFC対応のブラックベリー端末でのモバイルペイメントが可能となる。2012年末の導入を目指している。

カナダではスマートフォンのデータプラン利用者の38%に相当する約250万人が日常生活においてモバイル・バンキングを利用している。またモバイルペイメントへの関心も高いことをRogers Innovation Reportが以下のような調査結果を発表している。

  • モバイルウォレットによって生活が豊かになる:61%
  • 近い将来、スマートフォンでもっと買い物ができるようになる:79%
  • ここ数年のうちに旧来の買い物の方法はモバイルウォレットになると感じる:43%

(図1)NFCモバイルペイメントに対応したブラックベリー端末

NFCモバイルペイメントに対応したブラックベリー端末
(写真提供:CBIC)

いまだに不明瞭な通信事業者の儲け処〜カナダだけでなく全世界での課題

Berg Insightの調査によると、2011年末時点で、全世界において390万台のNFC対応POSが出ており、2017年までには4,340万台まで拡大すると予測している。そして2017年までには北米(アメリカ、カナダ)の86%のPOSがNFC対応になると予測している。また、Juniper Researchでは2017年までに、NFCでの決済額は1,800億ドルに達するとの予測である。

今回カナダCBAが発行した「Canadian NFC Mobile Payments Reference Model」はNFCモバイルペイメントの詳細について解説してある。銀行やクレジットカード会社にとっては顧客の支払手段が増えることは非常に良いことであろう。そしてカナダの銀行やクレジットカードらが一堂に会しているCBAがガイドラインを策定してモバイルペイメント普及に向けて積極的に取り組んでいくことは顧客や店舗にとって良いことだろう。

一方で、通信事業者にとってはNFCモバイルペイメントが新たなビジネス機会となれるような模索はカナダだけでなく全世界の通信事業者の課題である。

カナダは、面積は世界2位だが、人口や約3,400万で隣国のアメリカのカリフォルニア州より少ない。携帯電話普及率は77%と先進国では低い方である。Rogersはカナダ最大の通信事業者であり、スマートフォンの普及に伴ってデータ通信ARPUの増加とポストペイド利用者増加で増収増益を達成している。そのような環境でRogersはVoIPサービス「Rogers One Number」を2011年12月に導入するなど付加価値サービスの提供に非常に積極的である。スマートフォンが拡大してきた市場環境に合わせて通信事業者(MNO)としてVoIPを提供するという新たな試みである。
今回のNFCモバイルペイメントも付加価値サービスの一環である。今回のRogersのリリースを見ても通信事業者はどこで収益を上げるのか、将来予測としてどのくらい事業に貢献するのかは公開していない。
果たしてスマートフォンが拡大しつつあるカナダ市場において、次の一手としてモバイルペイメントが通信事業者の新たなビジネスとなるのであろうか。注視していく必要がある。

【参考動画】
RogersとCIBCのNFCモバイルペイメントに関するニュース(2012年)

(参考)

*本情報は2012年6月11日時点のものである。

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