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Global Perspective 2012
2012年8月3日掲載

オバマ大統領からのメッセージ:サイバー空間は国家として守るべき重要なドメイン

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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2012年7月19日、アメリカのオバマ大統領はウォール・ストリート・ジャーナルA11面に「Taking the Cyber Threat Seriously」と題するサイバー攻撃の脅威に関して寄稿している。(アジア版ウォール・ストリート・ジャーナルでは7月23日13面)
 オバマ大統領は、その中でアメリカの重要インフラがサイバー攻撃の標的として狙われていることをあげて、官民での脆弱性対策などの安全強化に向けた取組みの必要性を国民や議会に対して訴えている。将来の紛争においては、敵軍はアメリカ国内のコンピュータ脆弱性を攻撃してきて、金融、電力、水道などの重要インフラを標的として社会混乱を生じさせる可能性があると警告している。

以下にオバマ大統領の寄稿から示唆される3点について考察してみたい。

(1)サイバー空間は国家として守るべきドメイン

現代社会は個人の生活から国家の重要インフラに至るまでのほとんど全てが、コンピュータシステムやネットワークで構成された「サイバー空間」に大きく依存している。そして複雑なシステムになればなるほど、システムの見えない脆弱性も多くなる。
 そして、サイバー空間は国家として守るべき重要なドメイン(領域)となってきており、それは政府だけで守ることは不可能でありサイバー空間を活用してシステム運用を行っている民間企業、ひいては各個人の日常からの脆弱性対策によって国家はサイバー攻撃から守られることになる。サイバー攻撃によって国家の重要インフラが狙われ社会混乱を招くことは国家としては安全保障にも関わる問題である。
 インターネットには国境の概念がない。世界中のたいていの場所ではインターネットを経由して、様々な情報発信や受信が可能である。それはあくまでもインターネット上を流通するコンテンツであり、サイバー空間は国家が守るべき重要なドメインである。

(2)アメリカは本気でサイバー空間を守る、という敵へのシグナル

ウォール・ストリート・ジャーナルにオバマ大統領自らが寄稿し、サイバー攻撃によるアメリカの重要インフラが標的にされている脅威を国民に訴えていることは、アメリカが国家として本気でサイバー空間の防衛を行う意思があることを全世界に対して訴えていることにもなる。そしてアメリカへサイバー攻撃を仕掛けてくる敵に対しても、アメリカは本気でサイバー空間を防衛する意思があることのシグナルを送ることもできる。そのようなシグナルはなんらかの抑止力になるかもしれない。
 一部のアメリカの報道では、今回のオバマ大統領のメッセージは2012年の大統領選挙を踏まえてのアピールではないかと言われている。もちろんそのような意図もあるだろう。しかし、アメリカは社会の重要インフラがサイバー空間に依存していることから、大統領が民主党であれ共和党であれ、サイバー攻撃に対する脆弱性対策などのサイバーセキュリティに関する方針は大きくは変わらないだろう。アメリカだけでなく多くの国が、サイバー空間に依存している現代社会では大統領や政権が変わったとしてもサイバー攻撃に対する政策や方針が緩くなることは考えにくい。

(3)サイバー空間の脅威に対する国民の意識改革

最近のサイバー攻撃は非常に緻密で巧妙である。どこから攻撃を仕掛けられるか不明であり、知らないうちに自分のパソコンが攻撃元になっていたということもありうる。現代社会においては、サイバー空間に依拠しないで生活することはほとんど不可能に近い。国民が常日頃からサイバー空間の脅威を常に意識し、最新のソフトウェアがリリースされたら脆弱性対策のためにアップデートを行うといったことが重要になってくる。
 オバマ大統領のメッセージによって、アメリカ国民自身がサイバー空間の脅威を認識して国民の意識改革にもつながる。

「今こそ、増加するサイバー攻撃からアメリカの防衛を強化する時だ」とオバマ大統領のメッセージは締めくくられている。これはアメリカだけでなく日本をはじめ全世界の国家でも同じことが言える。今回のウォール・ストリート・ジャーナルでのオバマ大統領の寄稿は短文で見逃してしまいがちだが、サイバー攻撃に対するアメリカの姿勢を理解する上で重要なことを示唆している。

【参考動画】

(参考)

*本情報は2012年7月28日時点のものである。

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