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Global Perspective 2012
2012年9月28日掲載

イラン:サイバースペースにおいて独自ネットワークは成立するのか

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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2012年9月末の報道によると(※)、イラン政府はサイバー攻撃への対策強化が目的として、「独自ネットワーク」の運用を開始し、一般市民のネット利用も2013年3月までに独自ネットワークに切り替える計画であることが報じられている。そのイランの独自ネットワークが世界標準で利用されているインターネットと相互接続できるかどうかは不明とのことである。

※イギリスGuardian、米ロイターなど多数が報じている

ハード・ソフト両面から標的にされるイランのサイバースペース

イランは2010年にStuxnetによって核施設をサイバー攻撃の標的にされた経験を持っている。また、2012年9月にはムハンマドを冒涜する映像がアメリカで公開されて全世界のムスリムらが反米デモを展開しており、イランにおいても反米デモは行われている。
また、イラン当局は2012年9月23日、国営テレビを通じて声明を発表し、米グーグルの検索エンジンと電子メールサービス「Gmail」を遮断することを発表した。同サービスについて「さらなる通知があるまで、全土で情報制限をかける」と述べている。

2012年4月からイランは「クリーンなインターネット」を目指して、5カ月以内に「独自のネットワーク」の構築を画していることが報じられていた。
 イランは自国のサイバースペースをサイバー攻撃といったハードおよび、ムハンマド冒涜映像といったソフトの両面から攻撃を受けているから、世界標準のインターネットから切り離したいと考えるのは必然である。たしかに世界標準のインターネットで構築されているサイバースペースからは切り離されることによってハード、ソフト両面の脆弱性からも遮断されることになる。しかし、本当にそのことはイラン全体にとってよいことなのだろうか。

グローバル社会の中での「独自のネットワーク」

現代のサイバースペースは全世界の誰もが利用可能であることから、システム開発やデバイス販売において、規模の経済のメリットが大きく働いている。つまりアメリカでも日本でも標準化された同じ技術に基づいて開発された製品は、利用する人が多いほどコストも安くなり開発製造者も消費者にとってもメリットがある。
 しかし、イランでしか利用できないシステムやデバイスをメーカが製造するのであろうか。製造自体はできるだろうが、汎用性がない(イラン以外の他の国で活用できない)からコストも相当なものになることが想定される。

またイランだけ独自のネットワークで運用していて、世界標準のインターネットと相互接続できないとなると、イランは安全保障の観点からは一時的には安定するかもしれない。現在のサイバー攻撃に利用されているマルウェアは世界標準のインターネット技術の脆弱性を突いた攻撃を仕掛けてくるから、独自のネットワークであれば脆弱性を発見されにくいことにはなる。
 しかし、国民レベルが独自ネットワークに切り替えを行って、世界標準のインターネットと相互接続が困難になるとしたら、世界標準に則って通信を行っていた民間インフラや諸外国と商的取引を行っているビジネスに従事している人らは多いに困るだろう。現在のグローバル社会は世界標準のインターネット技術に基づいて様々な活動がサイバースペース上において営まれている。

イラン国内を安全保障の観点からサイバースペースを防衛することとイランが国際社会と民間インフラや経済・ビジネスの観点から、国際社会と相互接続性がなくなることのリスクを天秤にかけた時、イラン独自のネットワークを構築することがグローバル社会におけるイランにとって本当に得策なのだろうか。現代のグローバルガバナンスは安全保障だけではない。重要インフラはもちろん、経済や物流もサイバースペースに大きく依存しており、グローバルガバナンスの中でそれら経済活動を無視することはもはやできない。
 独自ネットワークはグローバル社会においてイランと諸外国(特にアメリカ)の関係にどのような影響とインパクトをもたらすか、注目である。

【参考動画】イランで独自ネットワーク構築を報じるニュース(2012)

*本情報は2012年9月26日時点のものである。

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