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Global Perspective 2012
2012年10月2日掲載

アフリカ:携帯電話は若者の農業離れを防げるか

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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アフリカにおける農民への携帯電話提供と若者の農業離れについてナイジェリアとケニアの最近の事例から考察していきたい。

ナイジェリア:政府主導での農民への携帯電話提供と若者の農業離れ

2012年9月、ナイジェリアの農業および地方開発を担当する当局(The Federal Ministry of Agriculture and rural Development)は、2013年までにナイジェリア全土の農民1,000万人に対して携帯電話を提供することを公表した。
 ナイジェリアでは農民に対して携帯電話を通じて、農業情報、天候、肥料の情報や値段、市場価格動向などの情報収集に役立ててもらうことが目的である。今回の農民への携帯電話提供の背景には、若者の農業への従事を促進することがある。またナイジェリアで雇用のない若者らが農業で新たなビジネスを始めることを目的としている。ナイジェリアでは、「YEAP(Youth Employment on Agriculture Programme)」と呼ばれる国家主導での農業分野における若者の雇用促進プロジェクトがあり、国家としてもNagropreneursと呼ばれる農業分野でのアントレプレナーを大量に創出していきたい。Akinwunmi Adesina大臣は、ナイジェリアの36州において、各州で10,000人(合計36万人)の若者の雇用創出を目指している。また2015年までに農業分野でのアントレプレナー(起業家)100万人創出を目標にしている。

ナイジェリアの人口は世界8位の約1億5,500万人で日本よりも多い。農業従事者が多いが、最近では若者(特に男性)の農業離れが目立ち、彼らは仕事を求めて最大都市ラゴスに集まってくる。ラゴスに来てもそんなに簡単に仕事が見つかるわけではない。ラゴスでは大学を卒業しても就職できない若者が大量にいることが問題になっている。このような背景もあり、政府は農業を新たなビジネスとして若者の雇用創出や農業離れを防ぐためのプロジェクトが組まれている。

ケニア:農民への携帯電話提供による農業の活性化

2012年9月、ケニアの通信事業者Airtel Kenyaはケニアの農民に対して25万の携帯電話を提供することを発表した。これは、GSMA(通信事業者の業界団体)での「mFarmer」(mobile Farmer)プロジェクトの一環で、アメリカのUSAID(アメリカ合衆国国際開発庁)、ビルゲイツ財団などから40万ドルの資金援助を受けてのプロジェクトである。「Sauti ya Mkulimaプロジェクト」と呼ばれている。
 ナイジェリアと同様に、農民に対して農作物に関する市場動向、肥料などの情報を携帯電話によって提供を行い、農産物の生産性向上が目的である。

若者の農業離れはアフリカだけの問題ではない。国際社会にとって直面する重要な問題

FAO(国連食糧農業機関)の調査によると、アフリカの経済は農業などの第一次産業に依存している。農業がGDPシェアの20%以上占めている国が30カ国にも上り、人口の約6〜7割が農村に住んでいる。世界銀行の発表では、農業主体の国々では、農村人口4億1,700万人のうち1億7,000万人が1日1ドル未満の生活を強いられている。アフリカにとって農業セクターは、国家の全体的な成長、貧困削減、食糧確保にきわめて重要な役割を担っている。こうした国々の大半はサブサハラ・アフリカにあり、農業が就労人口の65%を占め、GDP成長の32%を創出している。
 そのようにアフリカ諸国においては農業セクターが非常に重要な役割を担っているが、生活が向上しないことから、若者(特に男性)らが農業に従事しいで都会に出てくる。農業では儲からないから、都会に行けば儲かる仕事に就けて良い暮らしができるだろう、と考えてしまう。そして、都会に出てきても職があるわけではないから、犯罪につながり、それが社会問題になっている。

携帯電話を農民に提供することによって、その携帯電話を通じて様々な農業に関する情報を入手することができるようになるだろう。従来、農民が携帯電話を持っていなかった時代に比べると入手できる情報の量も質も大きく進化してくるだろう。今までは市場での農産物や肥料、種などの価格がわからなかったために、仲介、買取業者に騙されることもあったが、そのようなことが無くなるだろう。

今回のナイジェリアとケニアでの取組みは今後、新興国において携帯電話だけでなく、ICT(情報通信技術)と農業分野がどのように連携し、新たな市場創出に貢献していくことができるかの試金石にもなる。携帯電話を農民に提供することが、どの程度、若者(特に男性)の農業離れと新たな農業従事者、農業分野でのアントレプレナー増加につながるのか、注目が必要である。

現在、アフリカやアジアなどの新興国だけでなく全世界で農業に従事する若者が減少している。農業は人間の食生活を担う重要なセクターである。今後、アフリカだけでなく全世界70億人を養っていく食糧の生産を誰が担っていくのか、国際社会は真剣に考えなくてはならない。アフリカのような新興国だけでなく、全世界で「食料安全保障」が問題になってくる(※)。
 これから世界の胃袋は誰が担っていくのだろうか。農業就業人口が減少している日本にとっても決して対岸の火事の問題ではない。

※FAOによると、食料安全保障(Food Security)が達成できている状態とは、「すべての人々が、栄養価が高くて安全で十分量の食料を物理的にも経済的にも常に入手する手段を持ち、それら食料が活動的で健康な生活を送るための必要性と嗜好を満たしている時である」と定義している。

【参考動画】アフリカでの食料安全保障問題について(2012)

*本情報は2012年10月1日時点のものである。

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