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Global Perspective 2013
2013年12月19日掲載

海外でも多発する通信障害

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
佐藤 仁

2013年も日本で通信障害は発生していた。昨年に比べると大きな通信障害は減少したと言えるだろう。それでも「繋がりにくい状況」という事象も含めるとまだ存在している。特に2013年は7月に総務省がKDDIに対して、2012年末から2013年5月末までの期間に大規模な通信障害が続いたことに対して総点検の実施と報告、および再発防止策の報告を求める文書での指導を行ったことは記憶に新しい。その後、日本では特段大きな通信障害は報じられていない(大雨や地域による繋がりにくい事象はたまにある)。

日本では通信障害が発生すると大きくメディアでも取り上げられ社会問題となることが多い。それでは海外ではどうだろうか。海外でのネットワーク障害の事例を見ていきたい。

海外でも多発している通信障害

日本語のニュースとして報じられることはほとんどないので、気がつかないだけだが、海外でも通信障害は多発している。その原因はトラヒックの急増、人為的なミスやハードウェアの障害など様々である。

スマートフォンが登場した頃にはトラヒック急増に伴う通信障害もあった。iPhone 3Gの登場以降、世界の通信事業者はトラヒック急増に悩まされるようになった。アメリカAT&TではiPhone 3G導入後、トラヒックが急増しネットワーク帯域の逼迫により「3G網よりもGPRS(General Packet Radio Serviceの略称。2.5Gと言われることもある)網の方が速い」と言われることもあった。しかし、最近では諸外国の事業者もトラヒック対策は落ち着きを見せている。

海外におけるネットワーク障害の原因は、スマートフォンによる大量のデータトラヒックが発生したことによるネットワーク障害よりも、ソフトウェアのアップデート時やハードウェア故障などに起因する様々なネットワーク障害の方が目立っている。イギリス当局Ofcomが発表したデータによると2011年にイギリスで発生したネットワーク障害の原因の50%が電源トラブルで、40%がハードウェア故障であり、日本のようにトラヒック急増が直接の引き金になるものではなく、もっと基礎的なトラブルに起因している。さらに海外ではネットワーク障害が発生しても、詳細な原因説明を公表しない場合もある。またユーザが通信障害に気がついてTwitterやFacebookなどに投稿して通信障害が明るみになることもある。

海外での通信障害:日本との違い

海外でもネットワーク障害は頻繁に発生しており、各通信事業者や当局は対応に追われている。社長が謝罪会見を行ったり、当局から罰金を請求されるケースも少なくない。

しかし、海外ではネットワーク障害が発生していてもユーザが気付かないことも多い。また日本のように社会に混乱を与える程のことにならないことも多い(もちろん大規模な通信障害の場合は、大きな社会問題になっている)。
その背景を見ていこう。

(1)ネットワークのハンドオーバー
 例えば、3G網でネットワーク障害が発生していたとしても2Gへ自動でハンドオーバーすることが多い。利用者は3G網が利用できなかったとしても2Gへハンドオーバーしていることによって2G網で音声やテキスト(SMS)送信が可能である。さらに、利用者がハンドオーバーに日常から慣れている。
 この背景には欧米アジア諸国においての3G網のカバー率が影響している。日本では3G網は全国でほぼ100%であるが、海外諸国においてはまだ3G網のカバレッジは100%ではない。欧州では3Gの加入率は50%以下の国もある。

 電車や車での移動中に3G網カバレッジのエリアから2G網カバレッジのエリア(3G網が敷設されていないエリア)に入り、ハンドオーバーすることは日常茶飯事である。そのため、利用者はネットワーク障害かどうかを意識しないことが多い。また2Gエリアでは利用者の多くは音声とテキスト(SMS)のみしか利用しないことが多くデータ通信の障害が発生していたとしても気付かない場合もある。LTE(4G)でも同じである。

(2)公衆無線LAN(Wi-Fi)の利用
 国や通信事業者によって異なるが、上述のように3G網が整備されていないことが多い地域や国ではデータ通信にWi-Fiを利用することが多い。またデータ通信はプリペイドであれポストペイドであれ通信費がかかることから、無料でWi-Fi通信が利用可能な場合はそのスポットでWi-Fiを利用しインターネットにアクセスしていることが多い。日本や欧米のような先進国ではWi-Fiはオフロードに用いることが多いが、新興国ではインターネットにアクセスするデータ通信は無料のWi-Fiが利用できるスポットに行って利用する人も若者を中心に多い。スマートフォンを保有していても、音声とSMSを利用して、データ通信はWi-Fiのスポットに来て利用するということが多い。その方が安くて済む。そのためネットワーク障害が起きても気が付かないことがある。

(3)1人で複数の回線契約
 続いて利用者の日常での携帯電話利用方法の違いが挙げられる。海外では1人で複数のSIMを契約していることが多い。多くがプリペイド方式で「1人複数回線利用」なのだ。利用者は、ある事業者のSIMで繋がらない場合、別の会社のSIMを利用して通信を行うことが可能である。
 日本では、ほぼ全てが3G網であり、2G(日本ではPDC方式など)はほとんどない。3G網がネットワーク障害を起こしてもハンドオーバーすることはない。また利用者の多くがポストペイド方式(利用した額を後から支払う方式)で「1人1回線」ということが多い。そのため、利用者はネットワーク障害が発生すると、音声・テキスト(日本の場合はメール)・データ通信の全てが止まってしまい、混乱を来すことになる。

無くならない通信障害、「いざ」という時に備えて

海外と日本では通信環境とユーザの立場も異なるので一概に比較することはできないが、海外でもネットワーク障害は多発している。通信障害で多くの人が被害に遭っている。しかし、それでも日本よりは、1社の通信障害でユーザの通信手段が途絶えてしまうということは少ない。また最近では海外でもWi-Fiが非常に普及してきており、データ通信はWi-Fiスポットに行って接続する人が非常に多いことから、データ通信の通信障害は気がつかれないこともある。

上記のように海外の多くのユーザは平時から1社の通信サービスに電話、テキスト(SMS)、データ通信の全てのコミュニケーションを委ねていない。またコミュニケーション手段の分散として、代替の方法を心得ているから障害時に慌てたり大騒ぎすることが比較的少ない。ポストペイドが主流で1人1回線が当たり前の日本ではコミュニケーション手段を分散することは難しいかもしれないが、「いざ」という時に備えて考えておくのが良いだろう。

(表1)ここ数年の主要な国内外でのネットワーク障害の事例

(表1)ここ数年の主要な国内外でのネットワーク障害の事例

(出典:公開情報を元に筆者作成)

*本稿は2013年2月6日掲載「海外での通信障害:日本との違い」(筆者)を加筆修正したものである。

*本情報は2013年12月19日時点のものである。

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