ホーム > Global Perspective 2014 >
Global Perspective 2014
2014年12月25日掲載

ソニー・ピクチャーズへのサイバー攻撃をめぐる国際関係とサイバーテロ

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
副主任研究員 佐藤 仁

最近は日本でも多く報道されているように、ソニー・ピクチャーズエンターテイメント(SPE)製作の映画に起因する北朝鮮からのSPEへのサイバー攻撃でオバマ大統領がテロ支援国家への再指定を検討したり、映画が中止になったと思いきや、公開に踏み切ったり、中国への協力を要請するなど、サイバー攻撃が国際関係をにぎわしている。

以下に国内外の公開情報から、SPEへのサイバー攻撃をめぐる動向を時系列に纏めてみた。

(1)2014年11月〜12月にかけて北朝鮮の金正恩第1書記の暗殺を題材にしたコメディー映画「ザ・インタビュー」を作成したSPEにサイバー攻撃。ハッキング画面には、「要求に応じなければ盗んだSPEの内部データを世界に公開する」との内容が記載。

(2)ハッカー側が映画を公開する映画館に対しテロ予告をしたことを受け、2014年12月16日、映画館経営会社が上映中止を決めた。(通常公開は12月25日だが、18日に先行上映がニューヨーク・マンハッタン南部の映画館で予定されていた)

(3)SPEは北朝鮮の金正恩第1書記の暗殺を題材にしたコメディー映画「ザ・インタビュー」を2014年12月25日に予定していたが、公開を中止すると発表した。

(4)2014 年12月18日、ホワイトハウスのアーネスト報道官は、深刻な国家安全保障問題との認識を示し、オバマ政権が相応の対処を検討中と説明した。この時点では「北朝鮮に攻撃の責任があるかは確認する立場にない、連邦レベルの捜査が継続中」と説明した。

(5)2014年12月19日、オバマ大統領は、SPEに対するサイバー攻撃について、北朝鮮の犯行との見方を示し、対抗措置を講じる考えを表明した。またオバマ大統領は記者会見で「ソニーの判断は誤りだった」と批判した。

(6)2014年12月20日、北朝鮮側は関与を否定する一方で、アメリカとの共同調査を提案した。ハッカー攻撃が北朝鮮政府に責任があると結論付けた米連邦捜査局(FBI)に、北朝鮮の朝鮮中央通信(KCNA)は「わが国を犯人に仕立てようとする者は証拠を示すべきだ」「米国の子どもじみた調査結果は、われわれへの敵対姿勢の表れだ」と非難した。米朝両国が共同でこの件を調査すべきだと提案し、米国が拒否した場合は「重大な結果」を招くことになると主張した。KCNAはまた、「われわれの最高指導者を侮辱しようとする者を許さないが、報復するとしても罪のない映画の観客にテロを実行することはない」として、劇場に対するテロ予告への関与を否定した。これに対して米国家安全保障会議(NSC)の報道官は、FBIの結論通り北朝鮮による攻撃に違いないとの認識を示し「北朝鮮政府が手を貸したいと思うなら、責任を認めてソニーの損害を賠償すればいい」と反論した。

(7)2014年12月21日、北朝鮮の国防委員会政策局は声明を出し、サイバー攻撃への関与を改めて否定。オバマ大統領が「対抗措置」に言及したことについて、「サイバー戦を含むすべての戦争で、アメリカと対決する万端の準備を整えている。我々の超強硬対応戦はホワイトハウスとペンタゴン、アメリカ本土全体を狙って果敢に行われる」などと警告した。

(8)2014年12月21日、オバマ大統領は、北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定するかどうか検討していると表明した。オバマ大統領は21日放送の米CNNとのインタビューの中で「テロ支援国家」指定について言及し「リストに戻すべきか事実関係を検証する」などと語った。『今回の攻撃は「戦争行為」ではなく「サイバー破壊行為」』との認識を示した。アメリカはブッシュ政権時代の2008年、北朝鮮を「テロ支援国家」リストから外している。

(9)2014年12月21日、中国の王毅外相はケリー米国務長官と電話会談し、中国はあらゆる形のサイバー攻撃やサイバーテロ行為に反対するとの考えを示した。

(10)2014年12月22日、菅義偉官房長官は午前の定例会見で、ハッキング行為を強く非難すると述べた。菅官房長官はアメリカの取り組みを支持しているとしたうえで「米国と緊密に連携をとりながら対応していきたい」と語った。

(11)2014年12月22日、北朝鮮のインターネットが12月19日から断続的に接続できなくなっていることがわ判明した。米国務省のハーフ副報道官は2014年12月22日の記者会見で「司法当局や国土安全保障省が状況を注視している」と述べ「我々は様々な選択肢を検討しているが、作戦の詳細は公表しない」とコメント、アメリカ政府が攻撃に関与したかの言及は避けた。中国外務省の華春瑩副報道局長は12月23日の定例記者会見で、北朝鮮でのインターネット接続できない状況に関して、中国の関与を否定した。また「米国と北朝鮮は意思疎通してほしい」と述べた。

(12)2014年12月22日、国連の潘基文事務総長は「サイバー攻撃の増加とその深刻さに、国連や私たち全員が大きな懸念を抱いている。無分別なサイバー攻撃を阻止するため、国連や国際社会全体が緊密に協調することを心から願う」と述べた。また同日、アメリカのパワー国連大使は「ハリウッドのコメディーをめぐって米国に『容赦ない対抗措置』をちらつかせ、数万人もの市民を悲惨な強制収容所に閉じ込めて何とも思わない政権が行うと予想した行動そのものだ」と北朝鮮を非難した。

(13)2014年12月23日、SPEはアメリカ国内の複数の劇場で12月25日から上映することを発表した。シュルツ大統領副報道官は「アメリカは表現の自由を最も重んじる国だ。ソニーと映画館の決断により、人々は映画を観賞するかどうか自分で選択でき、政府は歓迎する」と声明を出した。SPEのマイケル・リントン最高経営責任者は「表現の自由を抑圧しようとした人たちに立ち上がっていることを誇りに思う」と述べた。共同監督で主演のセス・ローゲンさんはツイッターで「人々の声が届いた。自由が勝った」とつぶやいた。

(14)2014年12月24日、中国外務省の華春瑩報道官は定例記者会見で「インターネットの安全を維持する面において中国の立場は明確で、一貫している。中国はいかなる方法、いかなる形のサイバー攻撃とサイバーテロに反対する」と述べた。

(公開情報を元に作成)

これからも続く「サイバーテロ」との戦い

サイバー攻撃を「サイバーテロ」と表現されることが多い。国際政治学者の山本吉宣は、テロと戦争について、以下のように述べている(※1)。(下線は筆者)

 テロと戦争は、実際に軍事力を用いて、テロ集団と矛を交えるということであり、相手を打ち破り、殲滅するというのはまさに戦争である。もちろん、テロ集団も非対称的手段で、相手国に対抗し、圧力をかけよう。テロ集団は、政治的な目的のため、隠密裏に直接の相手ではない市民等を狙い、相手を恐怖に陥れるという行動をとる。したがって、テロ攻撃を受ける側からすれば、きわめて不明確なとらえようのない、いつどこから攻撃してくるかわからない集団を相手とすることであり、また明確な相手を想定した抑止は効かないと認識される。そうするとテロに対しては、先制攻撃を辞せずという戦略が取られることになる。またテロとその相手となる政府は、戦略的相互作用をすることにもなり、テロ攻撃に対してテロ集団の要求に屈すると、さらなるテロ攻撃を受けるという経験則などが得られる。国際テロ集団と国家との妥協はありえず、ゼロサム的な状況である(テロ集団がなくなるか、あるいはテロを使うことをやめるまで、この戦いは続く)。(中略)

 国際テロにいかに対処するかは、国際テロに対する禁止規範を作っていくことを重視する考え方であり、テロとの戦争を重視する立場もあろう。テロの背景にある政治的な問題を解決したり、また経済的な発展を図ったりすることは多いに必要であるが、テロが実際に発生すれば、それに強制力をもって対応する以外には道はないであろう。

サイバー攻撃を用いた「サイバーテロ」は自爆テロなどとは異なるが、今回はSPEへのサイバー攻撃だけでなく、実際に映画館や観客への攻撃を予告していたということから、実際にそのような行動に出れば、それはリアルなテロ行為である。実際には公開することに踏み切ったが、このようなリアルな予告を受けた場合、映画会社としてはまずは観客(一般市民)の安全確保を優先する対策を講じざるを得ない。

今回は、まずはサイバー攻撃をしかけて、相手を脅迫し、それでも相手が屈しない場合は、リアルな攻撃の予告をすることによって、相手を屈服させようとする行動が特徴的だった。サイバー攻撃とリアルの攻撃(予告)の併存によって、相手に威嚇を与えるというテロ活動は今後も国際社会で増加するかもしれない。なぜならサイバー攻撃のみでは、関係者のみが被害を受けることになるが、リアルなテロでは一般市民も攻撃対象であることから被害も相当に拡大することが想定される。

今回の北朝鮮からとアメリカが断定したサイバー攻撃は、イデオロギーの違いによる対立に基づく、北朝鮮の主義主張がサイバー攻撃という形になって現れたことである。つまり、サイバー攻撃の目的が当初からはっきりしていた。明らかに映画放映中止を要求することが明確だった。このようなサイバー攻撃は主義主張と目的が明確なので、ある意味、わかりやすい。つまり見方を変えると「起こるべくして、発生したこと」であり、今後の対処方法も明確であろう。

現代社会はサイバースペースに依拠している。サイバースペースなしでは社会生活も経済活動も行えない。しかしサイバースペースはシステムの塊であり、そのシステムは脆弱性の塊である。そしてその脆弱性を突いた攻撃が「サイバー攻撃」なのである。これからもサイバー攻撃が減少することはないだろう。本当のサイバー攻撃の脅威は、「わかりにくく、怖いのは、気が付かないうちにシステムに侵入されて情報摂取やシステム破壊される」ことである。
今回は映画会社へのサイバー攻撃であったが、これは他の重要インフラや軍事施設へのサイバー攻撃を行う能力を所有していることの証明にもなった。そしてそれは既に行われているかもしれない。

今回、アメリカはしかるべき対抗措置を取ることを明言した。「テロ支援国家」の再指定検討も報じられた。これは攻撃を受ける側にとっての抑止力にもなりうる。テロに対しては、強制力をもって対応する以外に道はないのだが、それは「サイバーテロ」においても同じである。但し「サイバーテロ」に対しては「サイバー攻撃」による報復や強制力は、ほとんど有効ではない。やはりリアルな形での何かしらの対抗措置が講じられることになるのだろう。

*本情報は2014年12月25日時点のものである。

※1 山本吉宣『国際レジームとガバナンス』(有斐閣、2008年)Pp324-325

このエントリーをはてなブックマークに追加
▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。