2015年1月5日掲載 ITトレンド全般 Global Perspective

アメリカ、ソニー・ピクチャーズへのサイバー攻撃で北朝鮮に追加制裁

オバマ米大統領は2015年1月2日、ソニー・ピクチャーズエンターテイメント(SPE)へのサイバー攻撃に対抗する措置で、個人10人と国営の3機関を対象として北朝鮮に追加制裁を科す大統領令に署名した(※1)。米当局者によると、これら個人・機関は、北朝鮮によるサイバー攻撃や武器取引、その他の不正行為で重要な役割を果たしているとのことである。時事通信が報じているニュースを下記に引用しておく(※2)。




オバマ米大統領は2日、ソニーの米映画子会社へのサイバー攻撃を含む北朝鮮の挑発行動や人権侵害などへの対抗措置として、北朝鮮政府と労働党に制裁を科すことを承認する大統領令に署名した。米財務省はこれを受け、北朝鮮の情報・工作機関の偵察総局など3団体10個人を制裁対象に追加指定した。


オバマ氏は先に、連邦捜査局(FBI)が2014年12月にサイバー攻撃への北朝鮮関与を断定した際、「相応の対応」を取ると警告していた。大統領令は米国内へのサイバー攻撃に対する制裁を初めて認めたもので、米政府は今後、北朝鮮のいかなる団体・個人にも制裁を科すことが可能になる。


アーネスト大統領報道官は2日の声明で「本日の行動は(北朝鮮のサイバー攻撃への)われわれの対応の第1弾だ」と説明した。制裁対象に指定されたのは、北朝鮮の人民武力部偵察総局、朝鮮鉱業開発貿易会社(KOMID)、朝鮮檀君貿易会社の3団体と政府当局者やKOMID幹部ら10個人。個人の一部は中国・瀋陽やロシア、イランなどで各団体の代表を務めており、北朝鮮の核・ミサイル開発を禁じた国連安保理制裁決議などに違反したと指摘されている。一方、米政府高官は記者団に対し、偵察総局やKOMIDなどの活動とサイバー攻撃の「直接的な結び付き」について明確にしなかった。3団体と10個人はいずれも、米国内の資産が凍結され、米国人・団体との取引が禁じられる。

(時事通信 2015年1月3日。下線筆者)



サイバー攻撃への「新たな抑止力」としてのリアルの制裁措置


ルー米財務長官は声明で、今回の措置の狙いは「北朝鮮の主要機関をさらに孤立させ、10人前後いる主な北朝鮮政府諜報員の活動を阻止する」と話した。「連邦捜査局(FBI)はSPEに対するサイバー攻撃を調査し続けているが、(追加制裁)措置は、米国の企業と市民を守る幅広い手段を駆使し、われわれの価値をむしばんだり米国の安全保障を脅かしたりする動きへの対処をはっきり示すものだ」と述べた(※3)


制裁対象の個人と機関は、アメリカの金融機関へのアクセスや商取引が禁じられるが、北朝鮮は既に国際社会の中で孤立しているため、今回の追加措置がどこまで有効かは疑問である。


北朝鮮はSPEへのサイバー攻撃を否定している。サイバー攻撃として本当に北朝鮮が行ったかどうかは不明であり、国家間のサイバー攻撃は「やられた、やってない」の『舌戦』となることが多い。そのようなサイバー攻撃に対して、リアルな制裁措置を取って対応することは新たな展開である。今回の制裁措置は、今後国家間のサイバー攻撃に対する新たな抑止力になる可能性がある。


国際関係における抑止について国際政治学者の土山實男は以下のように述べている(※4)


抑止とは相手国にわが方が望まない行動をとらせないために、もし相手国が(攻撃的)行動に出た場合、わが方は懲罰的報復措置をとるという威嚇態勢をとることによって、相手国がそうした行動に出ることを事前に思い止ませることをいう。

抑止が機能するには、抑止する側がその国の安全や国際秩序を守るという「公約」を実行しうるだけの「能力」とその「意思」をもっており、そのことが被抑止側に「伝達」され、「認識」されなくてはならない。すなわち、被抑止側が抑止する側の威嚇をただのブラフ(こけ脅し)ではなく、本物であると受け取るとき、威嚇は信憑性をもち抑止が効く。


今回のアメリカによる追加制裁措置は、アメリカに制裁措置を行う「能力」と「意思」があるから出来ることであり、抑止力として効果を持つ可能性が高い。


但し、北朝鮮はSPEへのサイバー攻撃を否定していることから、今回アメリカが追加制裁の措置を行うことによって、また新たなサイバー攻撃またはリアルな反抗を誘因することも懸念される。


いずれにせよ、今回のアメリカ政府の北朝鮮に対して追加制裁措置を講じたことは国際関係におけるサイバー攻撃に対する指標の1つとなったことは間違いない。


【参考動画】


*本情報は2015年1月3日時点のものである。

※1 White House(2015) 2 Jan 2015, “Statement by the Press Secretary on the Executive Order Entitled “Imposing Additional Sanctions with Respect to North Korea”
http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2015/01/02/statement-press-secretary-executive-order-entitled-imposing-additional-s

“Letter -- Imposing Additional Sanctions with Respect to North Korea”
http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2015/01/02/letter-imposing-additional-sanctions-respect-north-korea

※2 時事通信(2015年1月3日)『米、対北朝鮮制裁を強化=サイバー攻撃で対抗措置-工作機関など3団体10個人指定』
http://www.jiji.com/jc/c?g=int&k=2015010300027

※3 CNN(2015年1月3日) 『米、対北朝鮮制裁強化 サイバー攻撃への対抗措置』
http://www.cnn.co.jp/usa/35058558.html

※4 土山實男『安全保障の国際政治学』(有斐閣 2004年)PP177-178

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