2015年9月30日掲載 ITトレンド全般 Global Perspective

米中「サイバー攻撃を行わないことで合意」はどこまで実現可能なのか?


イメージ

2015年9月25日、アメリカを訪問していた中国の習近平国家主席とオバマ大統領が首脳会談を行った。その中にここ数年、米中両国で常にあらゆるレベルで問題になっているアジェンダの1つに「サイバーセキュリティ」の問題があった。

そして今回、米中では相互にサイバー攻撃を行わないことで合意した(※1)。また両国はハイレベルでの共同対話メカニズム、つまりサイバースペースにおける信頼醸成措置を構築していくことも明らかにした。

舌戦が続いていた米中サイバー攻撃

今まで米中ではサイバー攻撃問題については、お互いに「やられた」「やっていない」の舌戦を繰り広げていた。

オバマ大統領は2015年4月、安全保障を脅かすようなサイバー攻撃を実行したアメリカ国外の個人・団体を対象に、資産凍結やアメリカ企業との商取引禁止の制裁、渡航禁止の措置等を科す権限を財務長官に与える大統領令に署名した 。2014年5月にはアメリカ司法省は、2006年から2014年にかけて、原子力・太陽光発電や金属分野のアメリカ企業などにサイバー攻撃を行ない、企業秘密を盗んだとして、中国人民解放軍当局者5人を訴追したことを発表しており、中国に対する牽制を繰り返し、中国からのサイバー攻撃に対する抑止力を働かせようとしていた。

今回も習近平国家主席の訪米前にはライス大統領補佐官が「中国は国家ぐるみのサイバー攻撃を行っており、情報摂取が頻繁に行われている。それが米中関係に重大な影響を与えている」とコメントしていた(※2)。さらに、ライス大統領補佐官は2015年8月に訪中した際、アメリカ政府内で策定したサイバー攻撃への制裁案と、対象としてアメリカ企業から知的財産を窃取したと特定した中国企業約25社を、中国側に示して、資産凍結など具体的な制裁内容にも言及していたと報じられている(※3)。

このようにアメリカは会談前からかなり中国を牽制していたことから、今回も平行線になると想定されていたが、結果として米中両国でサイバー攻撃を行わないことに合意した。

本当に米中はサイバー攻撃を行わないか?

果たして米中間でのサイバー攻撃は今回の合意によって低減するのだろうか。当面は抑止力も機能するだろうが、どのくらいもつだろうか。サイバー攻撃は、領土問題と異なって、相手から見ることができない。今までも「やられた」「やってない」の舌戦を繰り返してきた。本当に中国政府や軍がやっているのか立証することも難しい。アメリカ側はスノーデンが暴露したにもかかわらず、いまだに公式にはサイバー攻撃を行っていたことを認めていない。

つまりサイバースペースにおいて「サイバー攻撃を行わない、支援しない」と口で言うことは簡単だが、「本当に行っていない」ことを証明することは難しい。そして例えば、中国やアメリカが他の国にサイバー攻撃を仕掛けて、その国のパソコンを踏み台にして相手国にサイバー攻撃を仕掛けることもありうる。

情報窃取、諜報活動は「サイバーセキュリティ」ではない

米中が今回合意したのは、主に経済分野での情報窃取や諜報などを対象としたサイバー攻撃である。そもそも諜報活動は、インターネットが登場するずっと以前の国際関係の歴史とともに存在しており、その手段がサイバー技術に変わっただけであり、諜報や情報窃取はサイバーセキュリティとは言えない。「サイバーセキュリティ」の用語である「セキュリティ」、すなわち「安全保障」に関わるサイバースペースでの本当の脅威は、アメリカとイスラエルがイランの核施設に仕掛けたStuxnetのようなサイバー攻撃である。但し、このような安全保障に関わるようなサイバー攻撃は米中ともに核保有国であり、核の抑止力が働くため、実際に起きることはほとんどないだろう。

米中で問題になるサイバー攻撃は、これまでも情報窃取や諜報がほとんどであり、古来の歴史から行われてきたような諜報活動が現代社会はサイバー技術を用いて容易にできるようになっただけであり、それをサイバー攻撃と呼んでいる。インターネットというサイバー技術(手段)を介して、つまりサイバー攻撃によって、相手から「情報窃取」をしているのだが、これは昔からどの国でも行っていた情報収集の手段がサイバー技術に依拠するようになっただけである。果たして本当に米中両国はサイバー技術を用いての情報収集や諜報活動を行わなくなるのだろうか。

サイバー攻撃を行わないのは米中のみ?

またアメリカも中国も相互にサイバー攻撃を行わないことで合意したが、攻撃対象は米中両国の相互への攻撃であり、日本や他国へのサイバー攻撃を行わないとは述べていない。上述のように、日本や他国を踏み台にして、それぞれ相手国のサイバースペースへ侵入、すなわちサイバー攻撃をしかけることは可能である。米中がサイバー攻撃を行わないことで合意したからといって、国際社会のサイバースペースが平和になったとは言えない。

サイバー攻撃はこれで終わりではない

オバマ大統領は会談後の記者会見で「米中での合意は進歩だが、これで終わりではない」とコメントし、習主席は「米中は対立をやめるべきだ。サイバー攻撃の問題を政治化すべきでない」とコメントした。国家が表立って関与するサイバー攻撃は当面は減少するかもしれないが、サイバー攻撃は国家以外でも技術力さえあれば可能であり、それらを完全に取り締まることは不可能に近い。習主席が述べている「サイバー攻撃の問題を政治化すべきでない」というのは、政府や軍が関与していないサイバー攻撃まで批難の対象にしないで欲しいというのが真意であろう。

そしてオバマ大統領の認識通り「サイバー攻撃は今回の米中合意で終わりではない。」これからもまだまだ続くであろうし、表面上での合意がなされた今後の方が複雑な戦いと交渉が待ち受けているだろう。

【参考動画】President Obama and the President of the People’s Republic of China hold a Joint Press Conference

*本情報は2015年9月27日時点のものである。 

※1 Whitehouse(2015) 25th Sep 2015, “FACT SHEET: President Xi Jinping’s State Visit to the United States”
https://www.whitehouse.gov/the-press-office/2015/09/25/fact-sheet-president-xi-jinpings-state-visit-united-states

※2 VOA(2015) 21st Sep 2015, “Rice: Chinese Cyber Spying Threat to US-China Progress”
http://www.voanews.com/content/susan-rice-china-cyber-threat/2972755.html

※3 朝日新聞(2015年9月27日)「米、中国にサイバー攻撃制裁案示す 25社特定し警告」
http://www.asahi.com/articles/ASH9W45C9H9WUHBI004.html

関連レポート

会員限定レポートの閲覧や、InfoComニューズレターの最新のレポート等を受け取れます。

ICR|株式会社情報通信総合研究所 情報通信総合研究所は情報通信のシンクタンクです。
ページの先頭へ戻る
FOLLOW US
FacebookTwitterRSS