2016年1月21日掲載 ITトレンド全般 Global Perspective

日本と世界のPC市場~東芝・富士通・VAIOでPC事業統合はあるのか?



2015年12月4日「パソコン3社が事業統合 東芝・富士通・VAIO交渉へ」という記事が日本経済新聞の1面で報じられた。各社が正式なリリースを何も出していないのに、報道だけが先走っており、このニュースは日本経済新聞にとどまらず、他の新聞やテレビなどのニュースでも多く取り上げられて、注目の高さを伺わせた。 

日経1面に出た3社のPC事業統合?

2015年12月4日の日本経済新聞によると、東芝、富士通、ソニーのパソコン(PC)部門が独立したVAIOの3社はPC事業を統合する検討に入ったと報じられた。実現すれば国内シェアで3割強とNECレノボグループ(26.3%)を抜いて首位のPC企業が誕生することになる。3社は近く統合に向けた具体的な交渉に入る。年内にも基本合意し、来年4月に新体制を発足させたい考え、とスケジュールまで報道されて、真実味があった。

しかし、すぐ後に東芝や富士通から「当社が発表したものではない」というコメントが出された。否定も肯定もしないという微妙なコメントだった。

日本のPC市場:年間1,539万台の小さな市場に多くのメーカー

IDCによると2014年では1年間の日本におけるPC出荷台数は、前年比1.5%減の1,539万台だった。日本のPC市場は、1,539万台しか出荷されていない市場に、NECレノボ、富士通、東芝、VAIOなどの日本企業の他にも、Dell、HPなどの米国企業やAcer、ASUSといった台湾企業も参入している競争が非常に激しい市場である。昨年はWindows XPサポート終了に伴う買い替え需要が落ち着いたため、ビジネス市場が前年比3.8%減の939万台だったが、それでもビジネス市場の方がPCの出荷は日本では多い。

2014年のベンダー別動向をみると、上位5社の順位に変動はなかった。台湾のASUSは、低価格のノートPCの出荷が好調で、前年比35.8%増と大きく出荷台数を伸ばし、シェアも0.7ポイント上げ2.7%になったが、出荷台数はまだ42万台程度だった。

表1日本のPC

【表1】2014年と2013年の日本におけるPCのメーカー別出荷台数とシェア
(出典:IDC発表資料をもとに作成)

日本でのスマホ市場:iPhoneの方が出荷はPCよりも多い

2014年通年での日本における携帯電話出荷台数(スマートフォンと従来型携帯電話の合計)は前年比7.7%減の3,659万台だった。先述の日本でのPC出荷台数は通年で1,539万台なので、携帯電話・スマートフォンはPCの2倍以上出荷されている。なおスマートフォン出荷台数は前年比12.4%減の2,654万台だった。圧倒的にスマートフォンの方がPCよりも出荷されている。

メーカー別にみると、2013年に続き携帯電話全体およびスマートフォンの両方でAppleがシェア首位だった。Appleの日本でのスマートフォンのシェアは58.7%で、昨年の日本での販売総数は1,558万台だった。Appleが日本で販売したスマートフォンは、日本での通年のPC出荷台数より多いのだ。

タブレットも台頭している日本市場

2014年通年での日本でのタブレット端末出荷台数は前年比8.0%増の804万台だった。メーカー別にみると2013年に引き続き、Appleが年間シェア44.3%で首位を維持した。特に2014年第2四半期(4~6月)からNTTドコモ向けにAppleが「iPadシリーズ」の供給を開始したことは大きかった。日本でのタブレット好調の要因としては、個人市場では、Apple社の「iPadシリーズ」の出荷が好調であったこと、法人市場においては、教育市場向けを中心としてアンドロイドOS搭載、およびWindows OS搭載の需要が拡大し、それに伴い出荷台数が増加したことがある。Appleのタブレットは年間で356万台販売されており、これは日本でのPCメーカー2位以下の販売台数よりも多い。

世界のPC市場も縮小気味

IDCによると2014年通年での世界でのPC出荷台数は、前年比2.1%減の3億863万台だった。日本での年間でのPC出荷台数1,539万台はAppleの年間PC出荷台数1,982万台よりも少ないことになる(表2)。そして日本のPC市場の全世界のPC市場に占める割合は5%程度である。

表2世界のPC

【表2】2014年と2013年の世界におけるPCのメーカー別出荷台数とシェア
(出典:IDC発表資料をもとに作成)

2015年も減少した世界のPC市場

IDCは2016年1月12日に2015年の世界パソコン出荷台数は2億7,620万台で、前年実績から10.4%も減少したことを明らかにした。Appleのみが前年よりも出荷台数が伸びたが、それ以外のメーカーは軒並み前年よりも出荷台数が減少している。

2015年のメーカー別出荷台数は、Lenovo Groupが5,718万台でシェアは19.8%。次いでHP18.2%、Dell13.6%、ASUS7.3%、Appleの7.2%、Acer7.0%である。この世界のPC市場でお馴染みの上位6社で世界市場全体の73.1%を占め、その比率は前年の70.4%から拡大した。

米国のPC市場では奮闘する東芝

IDCによると2014年通年での米国でのPC出荷台数は、前年比4.6%増の6,637万台だった。東芝は日本での出荷台数188万台よりも、米国での出荷台数の方が2倍以上多い430万台である(表3)。

表3米国PC

【表3】2014年と2013年の米国におけるPCのメーカー別出荷台数とシェア
(出典:IDC発表資料をもとに作成)

PCよりも4倍多い、世界のスマホ市場

IDCによると2014年通年での世界でのスマートフォン出荷台数は前年比27.6%増の13億100万台だった。世界でのPCの年間出荷台数は3億863万台だから、スマートフォンはPCの4倍以上出荷されていることになる。特に新興国で低価格なスマートフォンの普及が広がっていることもあり、今後も増加が想定されている(表4)。

表4世界のスマホ

【表4】2014年と2013年の世界におけるスマートフォンのメーカー別出荷台数とシェア
(出典:IDC発表資料をもとに作成)

PCに迫る、世界のタブレット市場

IDCによると2014年通年での世界でのタブレット出荷台数は前年比4.4%増の2億2,960万台だった。PCの年間出荷台数が3億863万台であることを考えると、タブレットの出荷台数もPCに迫っていることがわかる(表5)。

表5世界のタブレット

【表5】2014年と2013年の世界におけるタブレットのメーカー別出荷台数とシェア
(出典:IDC発表資料をもとに作成)

前途多難な3社統合にメリットはあるのか?

東芝、富士通、VAIOのPC事業における統合が事実かどうかは各社が正式なリリースを出していないので、何とも言えないが、「火のない所に煙は立たない」ので、何かしらそのような動きがあるのだと推測される。

日本でも世界でもPCが売れない時代になってきている。世界的にみても、2014年のPC出荷台数は3億863万台だが、スマートフォンは13億100万台とPCよりも4倍以上も多く出荷されている。また世界規模でPC市場をみると、聯想集団(Lenovo)、HP、Dell、Acerといった中国、米国、台湾のメーカーが強い(東芝は米国市場では奮闘してシェア5位だが、世界規模では決して大きくない)。そこに統合された3社が入り込んだとして勝算があるとも考えにくい。

また、タブレットも日本だけでなく世界的に急速に普及してきている。特に学校などの教育現場や法人市場でも、PCよりもタブレットを導入するところが増加してきている。このように日本だけでなく世界的にPCの勢いはスマートフォンやタブレットに押されて落ちてきている。

こうした市場環境の中で、PC事業を1社でやっていくのは、コスト面、競争力などいろいろな点で各社ともに大変になってきている。統合することによって効率化を図っていきたいという思惑は3社にあるだろう。また各社がそれぞれの強みを活かして、1つのブランドとして統合して市場に出すことによって、製品に付加価値をつけられるメリットはあると考えられる。

ただし、これまでバラバラでPC事業を展開してきた3社なので、統合までには「人員の整理」や「ブランドをどうするのか」、「販売チャネルをどうするのか」などといった、乗り越えなくてはいけない壁はかなりあるだろうから、事業を統合して一つの製品を出すのはそう簡単ではないだろう。それを考えると、そのような社内での体制整理や製品ロードマップを検討している間に、世界の他のメーカーには大きく差をつけられてしまうだろう。

日本企業がハードで戦うのは厳しい時代

世界市場で日本企業がハードウェアで勝負するのは非常に厳しい時代になってきている。PCもスマートフォン、タブレットもコモディティ化してきた。現在、インドネシアやインドでも2010年以降に設立された新しい地場メーカーが、スマートフォンやタブレットを製造し、現地で販売して人気を得ている時代だ。例えばインドのMicromaxは日本では誰も聞いたことがないだろうが、インド人なら誰でも知っているスマートフォンメーカーのブランド名だ。インドネシアのスマートフォンメーカーAdvanも同様だ。このような地場メーカーの台頭で、世界一のスマートフォンメーカーのSamsungもその煽りを受けて、新興国でシェアを落としている。現在では新興国においては中国製品でも高価な時代になってきた。そのような市場では価格面では日本企業にアドバンテージがない。日本企業の製品は品質は良いが、その分価格も高い。しかし、既にPCやスマートフォンはコモディティ化してしまい、高品質でなくともある程度は使える時代になってしまっている。さらにiPhoneなどの高級機種のスマートフォンでは日本企業の部品が多く使われているが、コモディティ化されたスマートフォンで、そこまで高機能な部品を求めている利用者は多くない。また高機能な部品は品質も高いので、長年にわたって利用できるため、買い替えスパンも長い。そのため次の新製品が登場しても多くの出荷台数は期待できない。

また、高品質を求められる先進国では、日本企業はブランド力や保守などのサポート面で米国、アジア企業に敵わない。PCもスマートフォンもコモディティ化したとはいえ、精密機器なので、壊れたときにすぐにサポートできる体制が必要になる。このようなことからPCというハードウェアでの競争は日本企業にとっては非常に厳しい時代であることは間違いない。PC事業で東芝、富士通、VAIOが統合しても世界市場で戦って勝てる可能性は決して高くないだろう。

日本のICT産業の将来は?

ここまで日本のハードウェア部門が世界市場で戦っていくのは厳しいと論じてきた。それでは日本のICT産業にとって有望な分野は何だろうか。

ハードウェアで戦うのが厳しい日本のICT業界にとって有望なのは、コンテンツ分野ではないだろうか。日本のアニメ、アイドル、ゲーム、マンガは東南アジアや欧米など世界中で人気が高い。ICT産業の中でもハードウェアやインフラではなく、そのハードウェアで流通される「コンテンツ」、いわゆるソフトで勝負する方が良いだろう。コンテンツはコモディティ化されても、ハードウェアのように簡単にキャッチアップされにくい分野である。さらにハードウェアのようにキャッチアップされたことによってすぐに低廉化されるものでもない。

ただし、ゲームやマンガの場合は海賊版対策や有料課金モデルなど、どうやってマネタイズしていくかを考える必要がある。そしてコンテンツは「当たるも八卦当たらぬも八卦」である。常に新しいものを開発していく必要がある。

(本レポートは2016年1月12日時点の情報。初出「InfoCom World Trend Report 2016年1月号」から一部情報をアップデート)

<関連レポート>
「世界のPCメーカーの現状とこれから進む道」(2013年7月29日掲載)

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