2016年9月14日掲載 ITトレンド全般 Global Perspective

シンガポール、アメリカとサイバーセキュリティでMoU締結:国際社会で「弱い環」を作らないために



シンガポールとアメリカは2016年8月に、アメリカのワシントンD.Cにあるブレアハウスで、サイバーセキュリティで協力していく覚書(MoU)の締結をした[1]。シンガポールのCyber Security Agency of Singapore (CSA)とアメリカの国土安全保障省(DHS)傘下のNational Protection and Programs Directorate (NPPD)でMoU締結が行われた。

レジリエントなサイバースペース構築に向けての協力

両国はレジリエントなサイバースペースの構築で協力していくことを明らかにしている。例えばCERT感での情報交換、ベストプラクティスの共有、サイバー攻撃対策演習、サイバー攻撃が発生した時の協力、重要インフラへのサイバー攻撃発生時の対応や予防対策、最新のサイバー攻撃手法の調査研究などで協力していく。また両国間で共同して地域でのサイバー攻撃対策だけでなく、サイバーセキュリティにおける人材育成や支援などのキャパシティビルディング、啓発活動なども行っていく。

シンガポールCSAのChief ExectiveのDavid Koh氏は「シンガポールとアメリカは国際社会の安定に向けた同じビジョンを持っており、長期間にわたって2国間で様々な協力関係を行ってきました。サイバー攻撃は両国にとってもボーダーレスな問題であり、特に重要インフラへのサイバー攻撃は重大なインパクトを与えるものとなります。今回のMoUを通じて、両国間でサイバーセキュリティにおける協力を強化することによって、安全でレジリエントなサイバースペースを構築していくことが期待されています」と述べた。

シンガポールがサイバーセキュリティ分野での協力で二国間でMoUを締結するのは、フランス、イギリス、インド、オランダに次いでアメリカは5か国目となる。

サイバー同盟では「弱い環」を作らないこと

サイバースペースの安全保障の維持と強化は一国だけの問題ではない。サイバー攻撃はどこから侵入してきて自国のサイバースペースから情報窃取やシステム破壊を行うかわからない。自国のサイバースペースを強化するのは当然のことだが、自国だけを強化していてもネットワークでより緊密に接続されている同盟国や他の国々を踏み台にして侵入されることがある。そのためにも、安全保障協力の関係にある同盟国の間でサイバースペースにおける「弱い環」を作ってはいけない。二国間または多国間で協力しあいながら、相互でネットワークの強化、マルウェア対策の情報交換、人材育成に向けた交流などを行っていく必要がある。

協力関係にある二カ国や同盟国間でサイバースペースの能力を強化することは抑止力の強化にもつながる。サイバースペースでは優秀なエンジニア、プログラマーによって常に最新の修正ソフトウェアを開発し脆弱性への対応することが必須である。サイバースペースは不断の改善が必要な空間であり、その努力を怠って脆弱性を放置している国は、サイバースペースにおいてはネットワークを接続されなくなる恐れがある。サイバー攻撃は脆弱性を突いてくる攻撃であるため、脆弱性を放置しっぱなしの国は攻撃の標的にされやすい。それを踏み台にして別の国へ侵入してくることも多いにあり得る。そのような国は、どこの国もネットワーク接続を忌避するであろう。「弱い環」のままでは、どの国ともサイバーセキュリティで協力関係を締結することはできないし、同盟のネットワークから外されてしまう恐れがあるのだ。つまり、義務の不履行による他の同盟国から見捨てられる恐怖が作用する。そのため、各国は常に自国のサイバーシステムに脆弱がないか常時検出に努め、発見次第その脆弱の修正に注力することになる。そのようにしてサイバー同盟国のサイバーシステムはますます強固になっていく。

さらには国民一人ひとりのレベルにおいてもサイバースペースを守るために個人が利用しているパソコンなどのセキュリティ対策は重要になってくる。重要インフラ企業や、一般企業であれ、そこで働いているのは個人個人である。彼らが利用しているパソコンなどがサイバー攻撃の標的となり、ネットワークを経由してマルウェア感染が拡大し、そこから情報窃取やシステム破壊につながることもある。そのため、国民レベルへのサイバーセキュリティ対策への啓発活動も国家の重要な役割となってくる。個人ベースから民間インフラ、企業が常にサイバースペースでの防衛対策を講じることによって、国家の安全保障を維持することができる。

またこのような二国間でのサイバー協力やサイバー同盟は開放的で加盟国、連携国が増加していけば、相互に協力を行っていきサイバースペースの保全に努めるようになる。そして潜在的に敵対する国家もこのような同盟に対してサイバー攻撃を仕掛けることは低減するだろう。したがって、サイバー同盟はサイバースペースにおける国際体制を支える重要な要素となる。

[1] CSA(2016) 3rd Aug 2016, “Singapore Strengthens Partnership with the United States”
https://www.csa.gov.sg/news/press-releases/singapore-us-mou

Whitehouse(2016) 2nd Aug 2016, “Joint Statement by the United States of America and the Republic of Singapore”
https://www.whitehouse.gov/the-press-office/2016/08/02/joint-statement-united-states-america-and-republic-singapore

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