ホーム > 国内通信業界〜この一ヶ月2006 >
国内通信業界〜この一ヶ月
2006年7月掲載

通信・放送融合時代に生き残るCATV事業者とは?

>>2006年6月のネットワーク市場はこちら
(ニュース、各社幹部発言録、数字)

 議論の行方に注目が集まっていた通信・放送改革は6月22日の政府・与党合意で一応の決着をみた。様々な課題について十分な論議が尽くされたとは言い難いが、通信事業や放送事業をめぐる課題を表面化させ、議論の俎上に乗せたことは大きな前進ともいえる。
このような中、改革の焦点となっていた通信事業者や放送事業者にもまして、この議論の行く末を注意深く見守っていた事業者にCATV事業者がある。
CATV事業者は放送を基礎としつつ、インターネット接続や電話サービスの提供と、サービスのメニューを増やしてきた経緯があり、通信・放送融合の最前線。しかし最近では、通信事業者が光ファイバで映像配信を始めるなど、CATV事業者を取り巻く経営環境は厳しさを増している。全国約2,600万の加入世帯を抱えるCATV事業者はどのような生き残り策を考えているのか?今回は、激変する情報通信市場におけるCATV事業者の最新事情を追ってみる。

◇◆◇

6月14日に東京・有明の東京ビッグサイトで開かれた「CATV2006」の総合シンポジウムは、多数の来場者でにぎわっていた。「CATV2006」はCATV関連の機器メーカやサプライヤなど約170社が参加し、最新の技術動向やサービス等が紹介されるイベントで、今年で23回目を迎える。その一環で行われた総合シンポジウムは、慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所の菅谷教授による基調講演と、同教授と、総務省、ジュピターテレコム(以下:J:COM)、大分ケーブルテレコム、KDDIによるパネルディスカッションだった。
とりわけ参加者の関心を集めたのが、CATV最大手J:COMとKDDIの事業戦略。厳しさを増す経営環境の中、程度の差はあれ、自社の事業戦略に通信事業者との提携をとり入れながら生き残りを図ろうとするCATV業界の現況を端的に示した内容であった。

 まず、トリプルプレイ からグランドスラム への展開を図るJ:COMの事業戦略。J:COMはグランドスラムへの展開と同時に、各サービスの強化を打ち出している。実際、インターネット接続サービスでは既に集合住宅向けに100Mbpsの高速サービスを展開しており、来年にもこれを戸建て向けに提供することを発表しているし、放送サービスではHDチャンネルの増強を図っている。HDD内蔵型STBによるDVRサービスの提供状況も好調で、STB供給が追いつかず、顧客が「待ち」の状態であることも紹介された。モバイルサービスではウィルコムと提携して、グランドスラムの提供を狙う。
こうした事業戦略の推進を下支えするのがJ:COM自身が強みと認識している地域密着性だ。強みとしての地域密着性はCATV事業者全般に言われることだが、J:COMが特徴的だったのは、「セールス手法における地域密着性」と「提供コンテンツにおける地域密着性」の2つの意味で捉えている点。CATV事業者にとっての最重要商材は「テレビ」であり、しかもそれはマーケティング論的にいえば説明型商品である。そのため、戸別訪問を地道に重ね、加入を促す「セールス手法における地域密着性」が活きてくる。さらに、コミュニティチャンネルやインターネットで、その地域に住む住民にとって役立つ情報を提供する「提供コンテンツにおける地域密着性」が顧客満足度を高めることに寄与する。

 次に、CATV事業者とのアライアンスを推進したいKDDIの動き。このアライアンスは、CATV事業者にKDDIのIP電話サービスを各CATV事業者のブランドで提供してもらう内容となっている。
au事業好調の一方で、KDDIは固定事業に弱みを抱えてきた。6月1日から東京電力との提携による「ひかりone」 サービス提供開始、その提供エリアを順次広げていくのに並行して、全国のCATV事業者とのアライアンスを進めたい考えだ。その目的は、CATV事業者が持つ固定顧客基盤。アライアンスがうまく進めば、KDDIは獲得した固定顧客基盤に電話サービスのみならず、VODサービスの提供、携帯との連携など事業機会の可能性が増す。CATV事業者にとってみれば、自社のみで提供が難しいサービスを提供可能となり、Win-Winの関係が構築可能だ。アライアンス推進の方針について、KDDIとして資本をいれない、短期的収益よりも中長期的利益を重視、提携CATV事業者の規模を問わない、と強調された3点も、地域で生き残りを図りたいCATV事業者にとっては魅力的に聞こえただろう。シンポジウム後の取材では「KDDIとアライアンスを組むのも(今後の自社の事業展開上の)手かもしれない」との見解を示したCATV事業者もあった。

 今まさに、通信事業者はFTTHを武器に、CATV事業者の放送サービスに切り込まんと顧客への訴求を図っている。一方のCATV事業者も、ある部分では通信事業者との提携も選択肢の一つとして放送以外のサービスを充実させ、顧客の維持・獲得に躍起だ。それは一見、攻める通信事業者―守るCATV事業者という構図に見えるかもしれない。しかし、全国一律的にサービスを提供する通信事業者に対し、ある地域に限定してサービスを提供するCATV事業者という立ち位置の違いからすれば、一概にその構図で整理できない部分がある。むしろ、その地域の顧客に支持されさえすれば、CATV事業者が通信事業者以上に顧客にとって魅力的な価値を提供できる可能性を秘めている。そのためのCATV事業者の戦略目標は明確で、外部リソースの活用も視野に入れ通信事業者と遜色ないと顧客に思われるサービスの提供と、地域密着性を活かして核である放送サービスを通信事業者から守りきることの2点である。CATV業界の将来は個々のCATV事業者がそれらを実現できるかどうかにかかっているといえるだろう。

仁木孝典
▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。