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国内通信業界〜この一ヶ月
2006年8月掲載

NTTのNGNとそれをを巡る通信機器ベンダの動向

>>2006年7月のネットワーク市場はこちら
(ニュース、各社幹部発言録、数字)

 NTTは7月21日に次世代ネットワークのフィールドトライアルのインターフェイス条件開示、及び参加受付の開始を行った。今回公表されたNTTの次世代ネットワークとは、インターネットの長所と電話網の長所を併せ持った次世代ネットワークとしてITU−Tにおいて標準化が行われているNGNを、NTTが世界に先駆けて構築しようというものである。ITUにおけるNGNに関する標準化作業は今後NGN実装してゆきたい機能の目標が設置された段階であり、実際の仕様については定まっていない部分が多い。しかし、NGNの実態が定まっていない現段階から、NTTのNGNの在り方は今後の他通信キャリア、通信機器ベンダ、サービスプロバイダの在り方、競争戦略等に大きく影響を与えると見ているものもいる。NTTのNGNをビジネスチャンスと見るもの、実態のない単なるかけ声にすぎないと見るもの、自社のビジネスを脅かす脅威として捉えているものなど、NGNに対するとらえ方は様々である。今回は、NGNの通信キャリアにとっての位置付けと、通信機器ベンダのNGNに向けた動向を紹介する。

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 今回のテーマとなるNGNとは、インターネットの長所と電話網の長所を併せ持った次世代ネットワークの事である。インターネットの長所とはIPプロトコルを利用した最小限の機能によってネットワークを構築しているため、ネットワーク構築費用は安価であり、多様なサービスを提供することができる。他方、インターネットには限界も存在しており、通信形態が1対1のP2P転送に限定されていること、ネットワークをセキュアに利用するためには利用者側で様々な対策を取らなければならないこと、通信品質はベストエフォートであり帯域保証が必要なサービスを提供しにくいこと、等が問題とされている。通信網のIP化は世界的な潮流であるものの、こうした欠点があるために従来電話が担ってきた社会インフラという地位を現在のインターネットは担うことができないのではないかという考えから、新たなネットワークを構築することでインターネットの欠点を補おうとする試みがNGNなのである。

 もちろんこうした課題に対するうち手はNGNが唯一のものという事はない。例えばP2P技術を用いて効率的に多人数に対するコンテンツ配信を行うための技術開発が盛んに行われているほか、NGNを利用したとしても「おれおれ詐欺」を防ぐためには通信ネットワークの外部での対策が必要となる。また、QOSに関しても欧州で議論されているNGNのQOSはアクセス回線に帯域の狭いDLSを用いた場合にサービス品質を確保するためのQOSであり、光で構築されたバックボーンネットワークは特にQOSを設けなくてもエンドユーザに対して品質保証されたサービスを提供する事ができるのではないかとの見方が多数派である。日本ではアクセス網の広帯域化が非常に早く進んだが、技術進歩によってアクセス網に対するバックボーンネットワークの帯域が相対的に大きくなれば、QOSを管理せずとも十分な品質を確保することができるかもしれない。

 実は、通信キャリアがNGNを推進するのは、単にインターネットの通信機能の限界を超えるためだけではなく、もう一つの狙いがあるからである。NGNはデータ転送機能とサービス制御機能の2つの機能を併せ持ったネットワークとして設計されており、インターネットにおいて端末側の担っている機能をネットワーク側に移すことで通信キャリアのビジネス領域を拡大し、端末とサーバ、端末と端末間を接続するだけの受け身の立場から脱却する事ができる。特にNTTはサービスを提供するサーバからユーザ端末までのエンド・トゥ・エンドのQOSを提供する事がNGNの重要な特徴としており、それを増収の機会としたいのではないかと見られている。この点に関するISP・サービスプロバイダ・他通信キャリアなどから寄せられた危惧については別の機会に紹介したい。

 NGNを増収の機会と見ているのは通信キャリアだけではない。今後数年の間、世界中の通信キャリアの間でNGNの導入が始まることから、NGN対応の通信機器に特需が訪れると見込まれており、通信機器ベンダのNGNに向けた期待は大きい。特に、NGNへの移行の際に通信キャリアが導入する通信機器は高度な処理能力を持ったプロセッサや大容量メモリを利用したサーバとルータの複合製品となるため、一部の通信機器ベンダはNGNへの移行をシスコに奪われた市場を取り戻すチャンスと見ている。

 NECはNGN対応の通信機器の開発にはコンピュータと通信の両方の動向を見通す力が必要であり、長年培ってきたサーバやプロセッサなどの技術の蓄積はシスコよりも優位であると主張している。実際、NECは既にNGNで利用されるサービスプロトコルであり、3G携帯電話で利用されているIMS(IP multimedia subsystem)対応製品をNTTドコモに納入している。NTTドコモの「プッシュトーク」はこのIMSを利用した商用サービスの先行事例であり、NECは世界に先駆けてIMSを用いたサービスの実績を積んでいる。

 他方、従来の通信機器は通信向けに特化し製品として作製されていたが、NGN向けの通信機器はコストダウンのため企業システム向けのサーバ等で用いられている汎用プロセッサやLinux等の汎用OS、PCIバスのような汎用バスが多用されており、コンピュータ業界の大手であるインテルやヒューレットパッカード等のコンピュータ関連メーカーもNGNに向けた取り組みを始めている。また、シスコは通信とコンピュータの分野に長年の蓄積を持つ富士通と大型ルータ分野で提携しており、NTTのNGNのコアネットワーク部分には既にシスコのルータが採用されている。また、アルカテルとルーセントの合併を後ろ押ししたのはNGN対応を強化するためであると言われており、NGN時代に対応すべく通信機器業界は大きく動き出している。

 このように、通信キャリアと通信機器ベンダはNGNをビジネスチャンスと捉え、精力的な取り組みを見せている。現在NTTはNGN向けのエッジルーター納入事業者の選定を行っている。今回のフィールドトライアルでは多数の事業者のエッジルーターを混在させた互換性の検証等も実施されるのではないかと考えられ、通信機器ベンダの実力が試される。NTTのフィールドトライアルでの実績は今後の他事業者のNGN構築の際に参考にされる可能性があり、通信機器ベンダにとっては今後の動向を大きく左右するイベントとなるであろう。

黒田敏史
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