2019.11.1 5G/6G 風見鶏 “オールド”リサーチャーの耳目

ローカル5G電波免許-不動産所有(利用)と電波免許の関係の意味?

ローカル5Gの制度化が総務省で進められていて、特に28GHz帯の100MHz幅については先行して電波監理審議会を経て12月に制度化(省令制定)、免許申請受付開始の手順となっています。既に6月には技術的条件の取りまとめが終了しており、当面の間、「自己の建物内」又は「自己の土地内」の利用を基本とすることと、他者の建物又は土地等の利用は一定の条件の範囲で固定通信の利用に限定することを表明しています。電波免許におけるこうした条件は今後さらに検討するとの留保が付いているものの、電波の混信や干渉を避け、周波数の共用を進めるために基本となる考え方を定めています。特に「他者の建物又は土地等」での利用限定については、移動利用を禁止して無秩序に面的エリアカバーが進んでしまうことを防ぐことが目的であると述べていることから、逆説的にみるとローカル5Gは自己の土地建物内の利用が基本なので不動産の所有権(賃借権や借地権等)と結びついた電波の利用と言うことができます。つまり、土地建物の権利に付帯した新たな権利が生ずることになる訳です。土地建物の所有権(賃借権・借地権等)が排他的な占有となることから、特定の周波数免許という制約の下ではあっても、混信や干渉を避けて電波を排他的に占有する免許までも国から与えられることになります。もちろん、貴重な電波資源の免許なので、単純に土地建物の所有権等だけでは根拠は不十分で、電波の有効利用確保に向けた取り組みとして、一定期間経過後に、帯域の利用度が低い、非効率な技術を活用していることが明らかになった場合に利用方法を見直すなどの一般的な制約が当然加えられることになります。

ローカル5Gの通信サービス上のユースケースや提供事業者を巡っては、NTT東西の事業参入に対して競合事業者から公正競争の論点提起があり、総務省の有識者WGで議論がありました。こうした新しい事業の開始・変更局面では必ず公正競争論議があって、市場の先行きを検討して政策的意義付けを明確にする以前に先回り的に規制しようとするセンチメントがしばしば働くようです。サービス提供者の視点ではなく、今こそ、サービス利用者の立場に重きを置いた施策が求められていると思います。その意味でローカル5Gの電波免許は「自己の建物内」又は「自己の土地内」の利用が基本となるだけに、不動産利活用の拡張と捉えてどうしたら効用を高めることができるのかの観点が何より重要であると考えます。不動産の利活用に際して通信をどうするのか、始めて所有者等が直接的に判断し行動することができる環境が整うことになるのです。公共サービスでは、自家発電(電気)、プロパンガスの利用(ガス)、地下水利用(水道)など土地建物の利用と結びつく例はありますが、通信、特に電波免許のように排他的な占有に繋がるのは初めてのことです。所有権等という個別の権利に結びつけた電波免許、電波管理はこれまでにないまったく新しい制度的・経済的・社会的事態を生み出すことになりそうです。電波利用はより高い周波数に向って進んで行くので、利用にあたっては排他性と共用とを共存させる仕組み作りがまずは大きな課題となります。電波免許という国家管理政策と不動産所有というプライベートな権利とを結びつけて管理する手法の開発こそ、何より必要な基盤です。

まずは公共利用を含めて電波利用全体の実態把握のためにデータベースを構築することから始めて、ローカル5G免許状況と不動産登記等とを照合できるシステムへの拡張が必要となります。特に利活用の進んでいる不動産の所有権等はしばしば移転するので、ローカル5G免許の移転(承継や返上・再免許)などを現行化できる方策も必須になります。こうなると、従来の電波管理当局だけでも、また情報通信政策当局だけでも十分な対応は難しくなるので、不動産所有まで目配りできる体制が必要になると考えます。こうした行政サイドの変革だけでなく、情報通信サービスの提供事業者も自己の通信サービスの提供だけでなく、土地建物の所有権等のプライベートな排他的な権利・権益にも着目した取り組みが事業面で求められることになるでしょう。

要するに、ローカル5Gの具体的なニーズ、ユースケースは土地建物の所有権等というプライベートな、ある意味で絶対的な権利に結びついた電波免許及び電波利用であり、また世界的にみて最も先覚的な取り組みとなるものだけに、難しい舵取りが要求されるところです。電波の国家管理や電波管理行政の根幹に触れる施策であるだけに、結果が裏目に出て制度は作っても申請者が十分に現われず市場が成立しないようなことがないよう、電波免許の条件、手順、審査手続などで透明性のある、可能な限り簡便で低コストな方策となるようお願いしたい。また、前述の総務省の会合でみられたような先回り規制論によって市場が萎縮することのないことを願っています。先行した地域BWAの実状に陥ることのないように前広な取り組みを期待しています。

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