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情報通信 ニュースの正鵠
2008年9月掲載

人型ロボットが街を闊歩する日は近い?

グローバル研究グループ 清水 憲人

 先週木曜日(9/18)に東京国際フォーラムで開催された「イノベーション・ジャパン2008-大学見本市」に行ってきた。これは大学の研究成果を展示して産業界とのマッチングを図るイベントである。「環境」「エネルギー」「アグリ・バイオ」「医療・健康」「ナノテク・材料」「ものづくり」など、展示分野は多岐にわたる。私は「IT」のコーナーを見学してきた。

 展示を見て印象に残ったのは、「動画の認識や処理に関する技術がずいぶん進んでいる」ということだ。

 長時間の映像の中で動きがある部分だけを検出して短時間に編集する「映像要約」(東京農工大学)、映像の中から人物や交通標識を検出する「動画像理解」(中部大学)、ロボットなどの大きく動くシステムに搭載したカメラで的確に対象物を追尾できる「視線安定化システム」(東京工業大学)、動画のブレを補正する「ビデオ映像のリアルタイム安定化」(静岡大学)など、なるほどと思わせる研究がいくつもあった。

 この中で、中部大学の動画像理解の技術については、自動車の安全対策利用に向けて、既に関連メーカーと開発を進めているらしい。歩行者や交通標識を車載カメラで認識して、ドライバーに注意喚起するというものだ。

 ただ、技術がここまで進んでくると、完全な「自走車」に対する期待も高まってくる。今でも、前方車両との距離を測定しながら、アクセル/ブレーキを自動で操作する「クルーズコントロール」機能が搭載されている車がある。これは高速道路など、信号での停止や歩行者の横断がない状況での利用を想定したものだが、交通標識や歩行者の認識ができるのであれば、一般道での「クルーズコントロール」を実現することも可能になるはずだ。またハンドル操作についても、カーナビ機能やGPSの位置情報を組み合わせれば自動化できないことはない。

 そして「自走車」ができるのなら、「自走人型ロボット」もできそうだ。

 ロボットの場合、移動時のカメラの揺れ対策が課題となるが、東京工業大学が展示していた「視線安定化システム」を使えば、揺れが生じた場合にも対象物を追尾することが可能になる。また撮影した映像のブレを補正しながら再生する静岡大学の「ビデオ映像のリアルタイム安定化」技術を利用すれば、細かなブレについては修正できる。

 カメラまわりの問題が解決すれば、残る課題はロボットの移動性能ということになりそうだが、二足歩行ロボットは既に存在している。

 ホンダのASIMOのデモを見たことがあるだろうか? 2年ほど前に私がラスベガスの家電ショー(2007CES)で見たASHIMOは、歩くだけではなく、走ったり、サッカーボールを蹴ったり、階段を上ったり下りたり。驚くほどスムースに動いていた。完全に自走させるためには、より多くのシチュエーションに対応できるようにするとともに、想定外のトラブルが生じた時のリカバリーも考えなければならないが、ここまでくれば「不可能はない」という気にさせる出来だ。

 コストの問題や「そもそも必要があるのか?」という疑問はあるが、GPSで位置情報を把握しつつ、周囲の環境をカメラで認識しながら「自分の判断で移動する人型ロボット」の実現に向けて、技術的環境は整いつつあるようだ。

 映画「ターミネーター」で、現代に人型ロボットを送り込んできたのは、2029年の軍事用コンピュータという設定だった。現実世界で人型ロボットが街を闊歩する日が訪れるのは果たして...

階段を上るホンダASIMO(2007CESにて筆者撮影)

階段を上るホンダASIMO(2007CESにて筆者撮影)

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