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情報通信 ニュースの正鵠
2008年11月掲載

どうなるヤフー、どうするマイクロソフト!?

グローバル研究グループ 清水 憲人

 米ヤフーのジェリー・ヤンCEOは5日、サンフランシスコで開催されたイベント「Web 2.0 conference」において、「マイクロソフトにとっての最善策はヤフーを買収することだ」「我々は会社を売る準備がある」と語ったと報じられた。

 同氏のマイクロソフト・アレルギーを知る人にとっては、にわかに信じがたいコメントかもしれないが間違いではない。ヤフーがそれだけ追い込まれてきたということだ。

 ここで、今年さまざまな動きがあった、米ヤフーを巡る出来事を簡単に振り返ってみよう。

 2月1日にマイクロソフトは米ヤフーに対し、1株31ドル(総額446億ドル)の買収提案を提示。これは直前のヤフー株価に対して62%のプレミアムを付けたものであった。これに対してヤフー経営陣は、タイムワーナーのAOL事業やニューズコープのマイスペース事業など他のネット事業者との統合を模索したが実現しなかった。一方、検索連動広告にグーグルの技術を採用するトライアルを実施するなどグーグルとの連携姿勢を強めた。また、退職金制度の見直しなどでマイクロソフトの買収意欲を損なう試みも行った。条件面については1株31ドルを「過小評価」と主張。マイクロソフト側は1株33ドルまで条件を引き上げたが合意には至らず、5月3日に買収提案を撤回した。

 マイクロソフトの買収提案を拒否したヤフー経営陣の判断は、株主から批判を受けた。なかでもアクティビストとして著名なカール・アイカーン氏は、独自の取締役候補者を立てて株主総会までに委任状争奪戦を展開する構えを見せた。これを受け、ヤフー経営陣は5月18日に「企業価値を最大化する取引についてオープンである」と宣言し、マイクロソフトとの交渉を再開した。ヤフーはその一方でグーグルとの交渉も進め、6月12日に検索連動型広告等についての提携を発表した。

 アイカーン氏は、6月12日のグーグルとの提携は企業価値を十分に向上させないとして、マイクロソフトに働きかけ、ヤフーに対する新たな提案を7月11日に行った。同提案は、ヤフーの検索事業をマイクロソフトが買収し、ヤフーの検索サービス事業者になるというもの。マイクロソフトはヤフーに対して5年間一定の収入を保証するなどし、1株あたり33ドルに近い価値をもたらすものと説明した。しかし、ヤフーはこれも拒否した。この新提案にはアジア事業の売却も含まれていた。

 ヤフーがマイクロソフト/アイカーン提案を拒否したことを受けて、焦点は、このような判断を行った現経営陣を株主が信任するかどうかという点に移った。株主総会を控えたヤフー経営陣は、委任状争奪戦を展開する構えを見せていたアイカーン氏と交渉を行い、7月21日に和解した。その結果、アイカーン氏を含む3名が新たに取締役に就任することになった。8月1日に開催された株主総会においては、全取締役が株主の信任を得た。

 株主総会を乗り切ったヤフーにとって、次の課題は、6月に発表したグーグルとの提携を成功させることである。最大のライバルの検索広告技術を採用するという選択は、中長期的な経営戦略としては疑問符が付くものの、年間約8億ドルの増収機会をもたらすものと説明された。しかし、インターネットの検索及び広告市場における1位・2位の事業者の連携となるこの提携については、司法省反トラスト局が懸念を示した。ライバルであるマイクロソフト、ネット広告料金の値上がりを心配する広告主協会、競争の阻害やプライバシー問題を懸念する消費者団体や議員などからも反対を受けた。4ヶ月間以上にわたる交渉を経ても規制当局の懸念を払拭することができなかったグーグルは、11月5日に提携解消を発表した。


 これがヤフー買収を巡るこれまでの主な動きである。それからもう一つ、ヤン氏の発言の背景には、重要なニュースがある。第3四半期の業績発表だ。

【図表1】米ヤフーの2008年第3四半期業績(2008年9月30日までの3ヶ月間)
【図表1】米ヤフーの2008年第3四半期業績(2008年9月30日までの3ヶ月間)

 10月21日に発表された第3四半期業績において、ヤフーの売上は前年同期比でわずか1.1%の伸びに留まった(図表1参照)。景気の悪化という外部環境を考慮したとしても、インターネットをメイン・ビジネスとする企業として売上がほとんど伸びないという事態は深刻だ。これまでもグーグルと比較して低成長であることを批判されてきたが、それでも2007年は8.5%の増収を達成している(図表2参照)。

【図表2】ヤフーとグーグルの業績推移比較
【図表2】ヤフーとグーグルの業績推移比較

 ヤフーは、マイクロソフトの買収提案を拒否する理由の一つとして「独立路線でも成長は可能である」と主張していた。3月18日に公表した事業計画では、2010年の売上を132億ドルと予想している(2007年度実績より89%増)。しかし、今のままでは増収どころか、減収となる可能性さえある。

 また利益も大きく減少した。特に、マイクロソフトの買収提案を受け、グーグルとの提携を含むその他の選択肢を検討したり、委任状争奪戦や訴訟に備えたりするために支払った外部コンサルタントへの支払い費用が3,700万ドルに上り、利益を圧迫した(表中の「一般管理費」に含まれる)。ヤフーは大幅減益となったこの業績発表にあわせて、1,500人以上の人員削減(全従業員の約10%)を行うことを明らかにした。

 しかし当然のことながら、人員削減では売上は増えない。グーグルとの提携が白紙となった今、増収のためには新たな戦略が必要となる。そこで出てきたのが冒頭のジェリー・ヤンCEOの身売り発言というわけだ。

 この発言に対し、マイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOは7日、「我々は、後戻りして買収を再検討することに関心はない」とコメントしたと報じられている。もちろんこの発言は、マイクロソフトがヤフーに関心を持っていないことを意味するものではない。「以前の交渉の延長線上での買収提案はない」と言っているだけだ。マイクロソフトにとって、インターネット事業の梃入れが引続き戦略的に重要な課題であることに変わりはない。適正な価格で必要な資産が手に入るならば、買わない理由はない。その価格は以前よりも大きく下がりそうである。

 2月から始まったヤフーを巡る米国インターネット業界の騒動は、結局、マイクロソフトによる買収というかたちで決着を見るのだろうか?

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