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情報通信 ニュースの正鵠
2010年1月27日掲載

「アバター」を観て考えた、2Dテレビ・チャンネルがなくなる可能性

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 1月7日から10日にかけて米国ラスベガスで開催されたCES(国際家電ショー)では、今年も3D映像が大きな注目を集めた。

 一年前のCESでも既に立体映像の可能性を感じさせる展示が行われていた(「3D映像の時代、いよいよ」参照)が、ひとつわからないことがあった。それは「どのくらいのスクリーン・サイズがあれば3D映像の魅力を堪能するのに十分なのか?」という疑問だ。

 昨年観たパナソニックの3Dシアターの映像は非常に素晴らしかったのだが、そこで利用されていたのは103インチのプラズマ・ディスプレイ。一般家庭で購入するには少し大きすぎる。いくつかのメーカーが50インチ程度の3Dテレビを展示していたが、正直なところ、そちらの方はあまりピンと来なかった。

 「自宅に3Dシアターを導入できる裕福な家庭以外は、映画館で立体映像を楽しむしかないのだろうか?」

その答えが今年示された。

 今回のCESでは数多くの3Dテレビが展示された。今年発売予定のパナソニックの3D対応プラズマテレビ・ビエラ(50〜65インチ)とソニーの3D対応液晶テレビ・ブラビア(40〜60インチ)は、いずれも立体映像の魅力を十分実感できる出来となっている。さらに、ソニーとサムスンが展示していた、有機ELの3Dテレビは、20〜30インチというスクリーン・サイズであっても立体映像が視聴者にアピールし得るということを明らかにした。

 3Dテレビに対する関心は、もはや「売れるかどうか」ではなく、「どのように売れるのか」に移っている。「一部のコア・ユーザー向けのニッチなハイエンド商品にとどまるのか、それとも多くの家庭に広く行きわたることになるのか?」 「リビング・ルームに置く大型テレビだけが3Dになるのか、子供部屋や書斎にある個人用の小型テレビも3D化するのか?」 「メガネをかけて観る3Dテレビがそのまま主流になるのか、あるいはいずれ裸眼で観る3Dテレビに切り替わっていくのか?」

 少し前にちょっとした実験をした。ジェームス・キャメロン監督が製作した3D映画の大作「アバター」を3Dで観た後に2Dで観たらどう感じるのか、を試してみたのだ。2D版だと迫力不足だろうと予想はしていたが...結果は、思った以上に味気なかった。

 まるで「演劇やミュージカルをテレビで観た時のよう」とでも言おうか。ストーリーを楽しむだけであれば十分だが、リアルさがまったく違う。例えば、主人公のジェイクとヒロインのネイティリが木々と交信するシーンは幻想的な名場面なのだが、2D版だとなんだか感情移入ができない。3D版では自分も森の中に紛れ込んだような臨場感を感じることができたが、2D版では「スクリーンの向こうの出来事」にしか見えない。「奥行きのない映像」がこんなにも不自然に感じられるとは、正直予想していなかった。

 今後映画を観る時、3D版と2D版の両方の選択肢があれば、私は躊躇なく3Dを選ぶ。同じように考えている人は決して少なくないだろう。

 「テレビは自宅でくつろいで楽しむメディアだから、観る時にわざわざ3D用メガネなどかけないだろう」など、3Dテレビの普及可能性について懐疑的な意見もある。しかし、出来の良い立体映像を体験した後だと、「メガネをかける」という程度の手間が、大きな障壁になるとは思えない。

 もちろん、コンテンツの内容によって3Dのメリットが大きいものとそうではないものがある。例えば、バラエティ番組やニュースを立体映像にする必要性はあまり感じない。しかし、スポーツ中継やSF映画、大河ドラマなどは、3D化することで迫力が格段に増加する。

 ほとんどの家庭に3D対応テレビが普及し、同じ番組について3D・2Dのどちらでも選べるような環境になったとしたら、大半の人が3Dを選ぶのではないだろうか。「視聴者が3D番組を選ぶ」ということが明らかになれば、コンテンツも続々製作される。そしてそれは3D人気をさらに高めることにつながっていく。問題は、「どのようにしてそのような環境を創り出すのか?」ということなのだが...

 本格的な3D放送が始まってさえいない状況でこんなことを言っても笑われそうだが、いずれ各家庭に3Dテレビが行き渡り、ほとんどの視聴者が3D番組を選択するようになれば、2Dでしか観ることができない番組を放送するテレビ・チャンネルはなくなるかもしれない。アバターを観ながらそんなことを考えた。


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