ホーム > 情報通信 ニュースの正鵠2010 >
情報通信 ニュースの正鵠
2010年7月22日掲載

ダダ漏れコミュニケーションはサイバービアの必然?

[tweet]

 ツイッター、ユーストリーム、フォースクエアにブリッピー。昨年から今年前半にかけて話題になったウェブ・サービスのキーワードは「ダダ漏れ」であろう。

《参考》 各サービスの大まかな説明

ツイッター(twitter):140字の字数制限があるマイクロブログ。深く考えずに発信できる手軽さが受け「いまどうしている」のかをつぶやく人が増加中。
http://twitter.com/

ユーストリーム(Ustream):一般ユーザでも手軽にライブ放送ができる動画共有サイト。「そらの」さんが、いろいろな場所に出かけて行ってその様子を中継したことで「ダダ漏れ」という言葉が有名になった。 http://www.ustream.tv/

フォースクエア(foursquare):位置情報を利用したSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)。「チェックイン」することで、自分が訪れた場所の記録を残す。チェックイン回数などに応じてポイントが加算され、さまざまなバッジをもらえる。http://foursquare.com/

ブリッピー(blippy):登録したクレジットカードやオンラインストアの購買履歴が公開される。http://blippy.com/

 これらのサービスを利用して、「行動」や「居場所」や「購買履歴」をネット上で公開する人が増えている。購買履歴を公開するブリッピーはまだそれほどでもないようだが、ツイッター、ユーストリーム、フォースクエアは、既に大勢の人達が利用している。

 プライバシーは「守るもの」だと考えてきた旧世代の人々にとっては、理解しにくいかもしれないが、ソーシャル・メディアのユーザは、自分のプライバシーを「積極的にさらけ出す」ようになってきている。

 これまでも、登録制のサイトを見る時や、割引券を入手する時に、その対価として個人情報をネットで入力することはあった。しかしそれらの情報の取り扱いは、通常、「プライバシー・ポリシー」の下で規定された目的以外には利用されないし、一般に公開されることなどありえない。

 一方、前述したウェブ・サービスでは、特段それらの特典があるわけではないのに、ユーザ自ら個人情報を公開している。アフィリエイトなどと絡めて収入につなげることも可能ではあるが、今のところ多くのユーザの動機はそこにはない。また、個人情報をどこまでさらけ出すことができるかを競う「根性試し」をしているわけでもない(と思う)。

 じゃあ何のために公開するのか? それは「コミュニケーション」である。

 例えば、飲み会で初対面の人と会った時、最初は話がはずまなかったのに、出身地が同じだと分ったとたんに打ち解けられることがある。それと同じように、「少し知っている」程度の知人が、フォースクエアで自分と同じ場所によく出入りしていると分かれば、一気に心理的な距離が縮まる可能性がある。

 また、良い買い物ができたときや、逆に失敗したとき、それを話題にすることはよくあるだろう。同じように、ブリッピーで友人の購買記録に気になる製品が載っていたら、それについて話題を振って盛り上がることができる(「ショッピングのソーシャル化」)。

 いわば、ネタフリのようなものだ。しかし、話題を提供するためにプライバシーをさらけ出すと言っても、ピンと来ない人も多いだろう。

 「サイバービア(cyburbia)」という言葉を聴いたことがあるだろうか? これは、英国の社会問題研究所(SIRC: Social Issues Research Centre)のコンサルタントであるジェイムス・ハーキン氏が2009年に著した書籍「Cyburbia: The dangerous idea that's changing how we live and who we are(注1)」で提唱した概念で、サイバースペース(cyberspace)と郊外(suburbia)を組み合わせた造語。日本語では「電脳郊外」と訳されている。

 ハーキン氏は、人々がフェースブックなどのSNSやユーチューブなどの動画共有サイトにおいて、ますます多くの時間を過ごすようになっていく様子を、19世紀末から20世紀における郊外への人口移動になぞらえ、ネット上のコミュニティを「サイバービア(電脳郊外)」と表現した。そして、郊外での生活様式が都市におけるそれとは異なるものになったのと同じように、サイバービアでの行動様式もまた、それまでのネット世界とは少し違うものになる可能性があることを示唆したのだ。

 人々の生活の中心がネットに移れば、コミュニケーションの取り方も変わってくる。従来、昼食時などに少人数を相手に対面で話していた「映画を観て来た」とか、「ケータイを買い替えた」という話題もネット上にシフトする。ネットのコミュニケーションは、地理的な制約に縛られない分、知人の数は多い。そのため他愛もない話題は、いちいちメールや、読者を限定したSNSに書くより、ブログやツイッターに書いてしまった方が手っ取り早い。

 さらに、どこに行ったかは、スマートフォンやケータイの位置情報、何を買ったかはクレジットカードのアカウントで分るのだから、自動で公開してくれた方が楽でイイと考える人も出てくる。

 現実世界で「ウラオモテの無い人」というのが褒め言葉であるように、サイバービアにおいて「ダダ漏れな人」が好まれる可能性は十分あるのだ。

 10年以上も前の話になるが、サンマイクロシステムズのスコット・マクネリCEO(当時)が、「いずれにしてもプライバシーはもうない。そのことに馴染んだ方が良い(You have zero privacy anyway. Get over it.)」と語り物議を醸したことがある(注2)

 マクネリCEOのアドバイス通り、ソーシャル・メディアのユーザの間では、プライバシーのことなど気にしない新たな価値観が醸成されつつある。サイバービアのコミュニケーションにおいて、ダダ漏れがスタンダードになる可能性は決して小さくない。

(注1)日本では2009年7月に日本放送出版協会から訳書「サイバービア 〜電脳郊外が“あなた”を変える」が出版されている。

(注2)1999年に、同社が提供するJini(さまざまな電子機器を接続して利用するための技術)のプライバシー・セーフガードについて質問された際の発言


▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。