幕張で開催された最新IT・エレクトロニクスの展示会「シーテック・ジャパン」に先週金曜日に行って来た。
展示を見てまわっている最中「随分混雑しているな」と感じていたら、昨年よりも3万人も多い18万人以上の人が訪れたという。
裸眼で見る東芝の立体テレビ「グラスレス3Dレグザ」、サムスン電子の「ギャラクシー・タブ」「ギャラクシーS」、シャープの「ガラパゴス」「IS03」など、注目の新製品が数多く登場し、メディアで大きく取り上げられた結果、日に日に来場者数が増えていったようだ(私が訪れたのは5日間の開催期間の4日目)。
また、客層も以前とは少し違ってきたような気がする。
かつてのシーテックは、情報収集のために訪れる業界関係者、ニュースのネタを探しに来る報道陣、そして、あたらしモノ好きのビジネスマンが集まる場所であった。
もちろん今年も来場者の大半はこれらの人達であったが、それ以外の人の姿も目立ち始めた。たとえば、学生のグループや家族連れ、定年退職後と思しき年配の方、といった具合だ。
大勢の多様な来場者で賑わう展示会場内では、待ち時間が60分を超えるような人気コーナーもいくつか見受けられた。
写真1 ドコモが展示したヘッドマウントディスプレイ「AR Walker」の体験コーナー
そんな見どころ満載の今年のシーテックの中で、個人的に最も興味をひかれたのは超薄型の「TLFスピーカー」を利用した、ヤマハの「サウンド・サイネージ」であった。
※TLFとはThin Light Flexible〔薄い・軽い・柔らかい〕の頭文字
一般的に利用されるコーン型スピーカーの場合、音は扇型に拡散していくが、TLFスピーカーでは音を「平面波」として発出するので拡散しないで直進する。そのため、正面にいる人だけに音を聴かせることが可能になり、看板(サイネージ)に利用するのに都合が良い。また、従来のスピーカーのように巨大な磁石を必要とせず1.5mmという薄さで実現することができるため、ポスターのように丸めて持ち運ぶことも可能になる。
写真2 TLFスピーカーを利用したヤマハのサウンド・サイネージ
このTLFスピーカー自体は、昨年のシーテックでも展示されていたのだが、今年は、それに「インフォサウンド」という技術を組み合わせて、インターネットとの連携を可能にする展示を行っていた。
インフォサウンドとは、デジタル情報を音響信号に変調して伝送する技術で、普通の人にはほとんど聞こえない18kHz以上の高域を利用して、最大約80bpsのデータ伝送を可能にする。音を媒介にするので、普通のスピーカーがあれば情報を発信することができ、また、情報の受信に必要な機器も普通のマイクで済む点がウリだ。伝送可能な情報量が少ないので「音響ID」と呼ばれる短い情報符号を送信し、サーバでURL情報に変換する仕組みを用いる。
つまり、TLFスピーカーで作った薄型の看板から、このインフォサウンド技術を使って情報を載せた音を流せば、それを携帯端末のマイクで受信することで、関連製品のクーポン券を受け取ったり、eコマースサイトにアクセスすることが可能になるというわけだ(今のところヤマハはiPhone用のブラウザ・ソフトをアプリケーションとして提供している)。
写真3 携帯端末で情報を受信するためのインフォサウンド・ブラウザ
広告からインターネット上のサイトに消費者を誘導する方法は、これまでにもいろいろ試みられてきた。URLを表示してサイトにアクセスしてもらう方法、製品名を表示して「ネットで検索してください」と呼びかける方法、QRコードを表示してケータイのカメラで撮影してもらう方法などだ。しかし、どれも定着したとは言い難い。
インフォサウンドがこれらに代わって、ネット連動広告の主役に躍り出ることができるのか、注目されるところだ。
ところで、この技術。応用分野は看板広告だけに限定されるものではない。
例えば、テレビの音声に音響IDを載せて放送すれば、ケータイで関連情報にアクセスすることが簡単にできる。スポーツ中継を行っている時に対戦中の各チームの情報を掲載したホームページへのアクセスIDを送ってもいいし、テレビショッピングで購入サイトへのアクセスIDを送るのもアリだろう。
従来のテレビのデータ放送は、主に、テレビだけで完結する仕組みとして考えられてきた。しかし、データ放送用に情報を作りこむのは手間だし、インターネットの情報を呼び出そうにも今のところネットに接続されているテレビの数はそれほど多くない。また、番組の視聴中に同じテレビ画面上に情報を表示させるとすれば、その大きさには制約があるし、肝心の放送画面が小さくなってしまう。
ところが、これらの課題は、スマートフォンなどの携帯端末と連携させれば一気に解決する。
今回のシーテックでは、この他にもKDDIが、テレビ画面に表示したマーカーにケータイをかざして関連情報を表示させる視聴スタイルを提唱していた。
これらの技術の登場により、テレビとケータイの連携サービスの提供が加速することになれば、コンセプト先行で、これまでなかなか具体的な展開が見えてこなかった「通信と放送の融合/連携」サービスが面白くなりそうだ。