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情報通信 ニュースの正鵠
2010年11月4日掲載

「無かったことにする」技術の使いみち

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 ちょくちょく展示会に足を運び、さまざまな新技術を日ごろから目にしているので、たいていの新製品には驚かなくなった私だが、10月22日付のTech Chrunch Japanで紹介された「減損現実(Diminished Reality)」の動画には驚かされた。

 ドイツのイルメナウ工科大学の研究チームが、映像の中の指定したモノをリアルタイムで消す編集技術を開発したというのだ。

 近年、画像や映像の中から特定のモノを識別する認識技術の水準がレベルアップしてきていることはよく知られている。しかし、多くの場合その技術の用途はセンサーとしての役割に限定されてきた。

 例えば、デジタルカメラでは、人の顔を認識して、ピントを合わせたり、被写体の笑顔を検出してシャッターを切ったりする機能として利用される。

 また、トヨタの最高級車レクサスには、2006年以降、「ドライバーモニターカメラ」が搭載され、運転者が脇見運転をしていないかどうかをチェックしている。同システムはその後、2008年に、顔の向きだけでなく、眼を閉じているかどうかも検出できるようになり、居眠り運転に対して警報を鳴らすことも可能になっている。

 このような利用方法ではいろいろな応用例があるが「映像のなかの特定物を認識して消してしまう」という使いみちは盲点であったし、さらにそれが「リアルタイムで実現できる」ということは衝撃的だ。それは他の多くの人にとっても同様だったらしく、このニュースはネット上で大きな反響を呼んだ。

 記事についたTwitterのコメントをざっと眺めてみたところ、SFアニメ攻殻機動隊の「笑い男」のエピソードを連想した人が多かったようだ。同エピソードでは、脅迫事件の犯人が生放送のテレビカメラの前に堂々と姿を現しているのに、映像で見ると犯人の顔を確認することができない。犯人は特A級のハッカーで、テレビや監視カメラなど、ネットワークに接続されたあらゆるカメラ映像に映る自分の顔をリアルタイムで書き換えていた、という設定になっている。

 個人的には、渡辺浩弐さんの小説に出て来た「認知コントローラー」という装置を思い出した。これは、「自分に見えるもの、聞こえるものを制御するマシン」で、見たくないモノを入力すると、自分の世界から消してしまえるという設定だった。Twitterのコメントの中でも指摘されていたが、減損現実の技術をメガネ型のヘッドマウント・ディスプレイに搭載すれば、見たくないものを視野から排除して生活することが可能になる。

 減損現実技術の登場は、単なる映像の編集技術というレベルを超え、その用途について人々のイマジネーションを刺激するものになりそうだ。


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