先月、2010会計年度(2009年10月〜2010年9月)の業績発表を行った株式会社ドワンゴは、同社が運営する動画共有サイト「ニコニコ動画」の事業が通年で黒字を達成したと発表した。
一般メディアでの扱いはあまり大きくなかったようだが、ネット業界的にはこれは大ニュースだ。
2005年にサービスを開始したYouTubeが人気を博したことで注目を集めた動画共有サイトは、世界中に数多く存在する。しかしながら、ビジネスとしては「儲けを出すことが難しいネット・サービス」の代表格でもある。
今年の1月〜3月期に四半期単位で黒字を達成したときに、ドワンゴの夏野剛取締役がコメントされていたが、おそらくユーザ投稿型の大手動画共有サイトで黒字化したのはニコニコ動画が世界で初めてであろう。
このニュースにおいて、もう一つ特筆すべきことは、売上の約8割を有料会員が支払う料金が占めている点だ。
ニコニコ動画の売上構成
出展:株式会社ドワンゴ2010年9月期決算説明資料より筆者が作成
一般的に、動画共有サイトでは、エンドユーザにお金を支払ってもらうビジネスモデルは成立しにくいと考えられている。なぜかというと、ユーザがアップロードする動画は、どんな内容のものになるのか未知数だからだ。
ケーブルTVやIPTVなどの場合、チャンネル・ラインアップを見れば、提供されるコンテンツのイメージはだいたいわかる。例えば、「FOXのドラマとディスカバリーチャンネルのドキュメンタリーがパッケージに含まれているなら、この金額を払ってもいいかな」という判断が可能になる。
しかし何がでてくるのかわからない動画共有サイトの場合、そのような判断をするための材料がそもそもない。そのため、多くのサイトは、アクセスは無料とし、広告モデルに活路を見出そうとしている。
その中で、ニコニコ動画が採用した仕組みは秀逸だ。登録すれば無料で動画を視聴できるようにしておいて多くのアクセスを集める一方、より快適に利用したいユーザ向けには月額525円のプレミアム会員という制度を用意した(プレミアム会員になると、例えば、混雑時にも画質が低下しないなどのメリットがある)。ドワンゴの発表によれば、プレミアム会員数は今年の10月に100万人を突破している。
しかし、仕組みが良ければ黒字化できるというほど話は単純ではない。
ドワンゴの川上量生会長が以前あるイベントで仰っていたが、海外でニコニコ動画を真似したサイトはいくつかあったがいずれも成功していないという。「ニコニコ動画の成功は日本のユーザのクリエイティビティ抜きには語れない」というのはまさにその通りだろう。
一方、世界最大の動画共有サイトYouTubeについてもビジネスが軌道に乗り始めたという指摘がある。グーグル傘下のYouTubeについては事業単独の収支が公表されていないため、はっきりしたことはわからないのだが、黒字化が近いという報道が目立つようになってきた。
YouTubeの事業を好転させる転機となった一つの大きな要因は、コンテンツ・ホルダーのスタンスの変化だと言われている。
動画共有サイトの登場以来、テレビ局や映画スタジオなどのコンテンツ・ホルダーは、違法コピー動画を削除するよう、サイト運営者に対してはたらきかけてきた。
ところが最近は、無断アップロード動画を検出した場合に、「削除する」のではなく、「その動画に広告を付けて広告収入の一部を受け取る」という選択をする権利者が増えているのだという。ニューヨークタイムズの記事(注1)によれば、YouTube上で視聴される広告付き動画の3分の1以上は、もともとは無断でアップロードされた動画である。また、動画共有サイトにアップロードされやすいように、番組を短時間のセグメントに分割するテレビ番組もでてきているという(注2)。
YouTubeが登場した5年前とは随分と状況が変わったものだ。
(注1)New York Times 2010.09.02 "YouTube ads turn videos into revenue"
(注2)「ネットバカ−インターネットがわたしたちの脳にしていること」ニコラス・G・カー著/篠儀直子訳(p.137)