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情報通信 ニュースの正鵠
2012年8月16日掲載

米ヤフーの軌跡を振り返る

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先月、グーグルのマリッサ・メイヤー氏が米ヤフー(注)のCEOに就任するというニュースが大きな話題となった。

 かつてのネット企業の雄も、最近ではすっかり影が薄くなってしまい、注目を集めるのは、トップの交代や、情報漏えい問題、フェイスブックとの特許紛争など、人事とスキャンダルともめ事ばかりになってしまった。

 今回は、インターネット黎明期の花形企業であった米ヤフーの軌跡を簡単に振り返りつつ、同社の現在の状況を確認しておきたい。

 まずは業績の推移を見てみよう。

(図表1)米ヤフー業績推移と主な出来
(図表1)米ヤフー業績推移と主な出来

1994年に設立された米ヤフーは、インターネットの普及に伴い急成長を遂げる。2000年にいわゆる「ネット・バブル」が弾けると一時的に業績を悪化させるが、2002年以降は再び成長軌道に乗り始める。しかし、ネット広告の主役がバナー広告から検索連動広告にシフトし始めると旗色が悪くなり、2005年頃から成長が鈍化。利益率も悪化していく。そうしたなか、2007年に創設者の一人であるジェリー・ヤン氏がCEOに就任する。

そのヤンCEOは、2008年2月にマイクロソフトから持ちかけられた買収提案(総額446億ドル;当時の為替レートで4兆7,500億円)を拒否。グーグルとの連携を目指すが、司法省反トラスト局が懸念を示したことなどを受け頓挫。その後マイクロソフトとの再交渉を模索するもうまくいかず、業績も引き続き悪化していった。

会社を高値で売却するチャンスを逃したヤンCEOへの風当たりは次第に強まり、2008年11月に辞任を表明。翌1月にキャロル・バーツ氏が後を継いだ。

バーツCEOが手掛けたのは選択と集中。コンテンツの充実を図る一方で、グーグルとの競争で劣勢が明確になっていた検索エンジンの自社開発からは撤退。コスト削減も大胆に推進した。ところが、そのバーツCEOは、2011年9月に突如解任される。

普通はクビになったとしても、「新たなキャリアを模索するため」とか「家族との時間を大切にしたい」などといった、お決まりのフレーズを残してさりげなく去っていくものだが、バーツ氏は全社員宛てに「たった今クビになりました」というメールを送って、世間を騒然とさせた。

バーツCEO解任の理由は明らかにされていないが、検索エンジン開発からの撤退が失敗であったと見なされたことや、キーパーソンの離職が相次いだことなどが要因ではないかと報道された。

もっとも、仮に検索エンジンの自社開発を継続していたとして、状況が今よりもマシだったかというと、そうとは限らない。その時点ですでにグーグルに大きく差を付けられていた米ヤフーが、勝ち目の薄い検索分野に開発費を投じ続けるよりも、撤退して得意分野に集中した方が良いというのは現実的な判断と言える。実際にその後、売上は減少したが利益は増えた。

しかし「ネット企業」に投資する人達は、新しい技術を次々に投入して成長を続けるグーグルのような姿を期待している。コスト削減による縮小均衡で利益を捻出するような経営では、なかなか支持を得られない。

(図表2)米ヤフーとグーグルの売上推移
(図表2)米ヤフーとグーグルの売上推移

バーツ氏が解任された後、暫定CEOを挟んでスコット・トンプソン氏(元ペイパル社長)がCEOに就任するが、「経歴詐称」問題によりわずか5カ月で辞任。そして今回、グーグルのマリッサ・メイヤー氏に白羽の矢が立ったというわけだ。

米ヤフーの売上構成を図表3に示した。2011年度は43%がディスプレイ広告、37%が検索広告によるもので、この二つが同社の経営を支えていることがわかる。

(図表3)米ヤフー売上構成推移
(図表3)米ヤフー売上構成推移

しかし、ディスプレイ広告市場では、ユーザの詳細なプロフィールを把握しているフェイスブックに分があり、ヤフーは劣勢だ。また、検索エンジン開発をやめたいま、ヤフーにとって検索広告収入を自力で増やす方法はあまりない。

このように非常に厳しい状況のなかでCEOに就任したメイヤー氏。米ヤフーを再び成長軌道に乗せるために、どのような戦略を展開していくのか注目されるところだ。

(注)本稿で取り上げているのは米国のヤフー(Yahoo! Inc.)であり、日本のヤフー(ヤフー株式会社)とは別法人です。米ヤフーは日本のヤフーの35%を保有しており、米ヤフーにとって日本のヤフーは会計上「持ち分法適用会社」になります。


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