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情報通信 ニュースの正鵠
2013年4月5日掲載

ベライゾンとAT&Tによるボーダフォン買収報道の読み方

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Financial Timesオンライン版に4月2日、“Vodafone-Verizon: $245bn solution”と題したブログ記事が掲載され大きな注目を集めた。

ベライゾン・コミュニケーションズ(以下「ベライゾン」)とAT&Tが共同でボーダフォンを買収し、米国事業をベライゾンが、米国事業以外をAT&Tが取得する方向で調整中だというのだ。買収総額は2,450億ドル(約23兆円)に達する可能性があるという。これは2000年のAOLによるタイムワーナーの買収を上回り史上最大の規模である。報道を受け、ボーダフォンの株価は6%程度値上がりした。

しかし、同日中にベライゾンは証券取引委員会に書類(Form 8K)を提出し、「ボーダフォンとの合併や買収提案を行う意図は、現時点ではない」ことを表明した(注)。

ということで、とりあえずこのような買収提案が今すぐ行われるわけではないことがハッキリしたわけだが、報じられた取引が、荒唐無稽なものかというとそうでもない。

そこで今回は、背景情報を整理しつつ、ベライゾンとAT&Tによるボーダフォン買収の妥当性について考えてみたい。

1. 3社の概要

AT&Tとベライゾンは、いずれも米国の通信事業者。携帯電話以外に、固定通信サービスも提供している。米国の通信業界には、この他にもスプリント、TモバイルUSA、センチュリーリンクなどの事業者が存在するが、AT&Tとベライゾンの2社が規模の上で突出しており、2強と呼ばれている。両社の事業の中心は米国で、海外事業は多国籍企業のグローバル展開のサポートが中心である。

一方のボーダフォンは、本社は英国だが、欧州、中東、アフリカ、アジアなど多くの国の携帯電話事業者を傘下に有する多国籍企業で、売上高に占める英国事業の比率は12%弱に過ぎない。「携帯電話ユーザー数4億人」は、中国移動に次いで世界第2位で、現在の株式時価総額は約13兆円。報道された買収金額23兆円というのは、少し大きすぎるような気がするが、プレミアムを2割程度に設定しても、15〜16兆円の大規模M&Aになる。

2. ベライゾンとボーダフォンの関係

ボーダフォンは1999年に米国の携帯電話会社エアタッチを買収し、その翌年、同事業をベルアトランティック社の携帯電話事業と統合した。これが現在の、ベライゾン・ワイヤレスである。したがって、ベライゾンの携帯電話事業「ベライゾン・ワイヤレス」は、ベライゾンとボーダフォンの合弁事業となっている。

しかし、合弁事業とはいっても、出資比率がベライゾン55%、ボーダフォン45%となっており、経営はベライゾンが主導している。配当をどうするとか、次世代携帯網の技術に何を採用するのかといった重要な判断に対して、ボーダフォンの意向は反映されにくい。

実際、ベライゾン・ワイヤレスは業績が好調であるにも関わらず、2011年まで配当を実施していなかった。そのため、ボーダフォンの経営陣は「ベライゾン・ワイヤレスへの出資分を売却して還元するよう」株主からプレッシャーを受けていた。

もともと、ボーダフォンは、経営権を握ることができないマイノリティー出資については、長期保有せずにタイミングを見計らって売却する傾向が強い。一方のベライゾンも、携帯事業の完全子会社化を希望しており、両社の経営陣は、合弁事業の解消の可能性も含め、ベライゾン・ワイヤレスの扱いについて定期的に話し合いを行ってきたと報じられている。

3. 合弁解消に向けた選択肢

ベライゾンとボーダフォンの両社が合弁を解消する場合、やり方は大きく3つほどある。

まず、一番シンプルなソリューションは、ベライゾンがボーダフォンの出資分を買い取るという方法である。ベライゾン自身も、「ボーダフォンが保有する45%の株式を買い取る意思がある」ことを公に表明している。

しかし問題が二つある。一つは支払う金額をいくらにするのかという点だ。ベライゾン・ワイヤレスは上場していないため、評価額の決定が難しい。

報道によれば、ボーダフォンが保有する45%株式をベライゾンが買い取る場合に、支払う金額は1,060億ドル〜1,370億ドル(10兆円〜13兆円)程度になるという。

これだけの金額を支払うのはベライゾンといえども容易ではない。株式交換という手段もあるが、そうすると今度は、ボーダフォンがベライゾン本体(ベライゾン・コミュニケーションズ)の大株主になってしまう。

もう一つの問題は税金である。現在の評価額で持ち分を売却すれば、ボーダフォンは多額のキャピタル・ゲインを得ることになり、それにかかる税額もバカにならない。やり方によって税額は変わってくるようだが、数兆円規模に上る可能性があるようだ。

二つ目のソリューションは合併である。ベライゾンとボーダフォンの企業規模は似通っており、両社は過去に、対等合併の可能性について話し合いを行ったと報じられている(両社の株式時価総額はいずれも現在約13兆円)。

しかし対等合併の交渉は、新会社のリーダーシップをどうするのかを巡ってしばしば難航する。また、ベライゾンとボーダフォンのように国をまたがる合併の場合は、本社をどこに置くのかを巡って意見が食い違うことも多い。

実際、合併に関する両社の話し合いはこれまでのところ結実していない。

三つ目のソリューションは買収である。報道によれば、ボーダフォンはかつて、ベライゾン・コミュニケーションズの買収をひそかに画策したことがあるという。しかし「Project Vulture(ハゲタカ計画)」というコードネームで呼ばれたこのプランは、結局実行に移されなかった。

反対にベライゾンがボーダフォンを買収するという選択肢もあり得る。しかしベライゾンは米国事業を完全子会社化したいだけで、ボーダフォンが世界中に保有する携帯電話事業を傘下に収めることにはあまり興味がない。そのため、ベライゾンがボーダフォンを買収する場合には、ボーダフォンの米国以外の事業を第3者に売却するというシナリオが考えられる。Financial Timesの記事は「AT&Tがその引き受け手になれば、すべてうまくいくのではないか」というアイディアについて、三社が交渉を行っているというものである。

4. 取引の妥当性と今後の展開

ベライゾンとAT&Tが連携してボーダフォンを買収するというアイディアには合理性がある。

ベライゾンは長年望んできたベライゾン・ワイヤレスの完全子会社化を実現できるし、ボーダフォンは米国事業への出資を株主への還元につなげることができる。また、AT&Tは今年の初めころから、欧州における買収ターゲットを探していると報道されており、ボーダフォンの米国以外の事業を取得することは、その方針に合致しているといえる。

つまり、総論では各社の思惑は一致している。しかし、実際に三社のいずれもが納得できる条件を調整することは容易ではない。また、ベライゾン・ワイヤレスは、昨年から配当の支払いを開始しており、ボーダフォンは株式を保有し続ければ、年間数十億ドルの配当収入を得ることができる。そのため、合弁会社解消に向けたボーダフォン側のインセンティブはかつてよりは低下しており、良い条件が得られないのであれば、無理して撤退する必要もない。

ボーダフォンが買収されるということになれば、史上最大規模のM&Aになる。一方、ベライゾンがボーダフォンの出資分を買い取るとしても10兆円規模の取引になり、そこで得た利益をボーダフォンが何に振り向けるのかが注目される。いずれにしても、ベライゾン・ワイヤレスの合弁解消は、世界の通信業界の再編に大きなインパクトをもたらすことになる。当面現状維持が続く可能性も小さくないが、その動向については、引き続き注目が必要だ。

(注)ベライゾンが証券取引委員会に提出した資料の原文は以下の通り:
Verizon Communications Inc. (“ Verizon ”) notes the recent press speculation regarding a potential merger with or purchase by Verizon of Vodafone. As Verizon has said many times, it would be a willing purchaser of the 45% stake that Vodafone holds in Verizon Wireless. It does not, however, currently have any intention to merge with or make an offer for Vodafone, whether alone or in conjunction with others.

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