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「各国におけるモバイル・インターネット・サービスの料金施策の現状」

日本や韓国などの例外はあるものの、モバイル・インターネット・サービスの普及が世界的に遅れている要因として、サービス料金の高さがしばしば指摘されている。他にもコンテンツ不足を始めとする様々な要因が指摘されているが、事業者側から見て最も容易で、かつそれぞれ評価基準の異なるユーザーを広く刺激できる施策の1つとして挙げられるのは料金施策であろう。そこで、ここでは各国におけるモバイル・インターネット・サービスの料金施策に絞って、その事例をいくつか紹介する。

●無料提供期間の設定
 期間限定のプロモーションとして無料でモバイル・インターネット・サービスを提供する施策である。例えば英国では、ISPのブリーズ(Breathe)が2000年11月の1ヵ月間、オレンジおよびワン2ワン・ユーザーのアクセスについてサービス料金を無料とするキャンペーンを実施した。この施策により、同社のモバイル・ポータルへのトラヒックとユーザー数は前月比でいずれも4.5倍程度に拡大した。またボーダフォンは、2001年4月中に特定の契約型料金プランに加入したユーザーに対し、7月末までの3カ月間、WAPサービスを無料で提供(通常のサービス料金は下表を参照。以下同様)、オレンジ(英国)も2000年11月1日から2001年5月末までの毎週末(金曜24時〜日曜24時)において、プリペイドを含む全てのユーザーに対し、WAPサービスを無料で提供している。

●基本使用料の無料化
 欧州諸国では、WAPサービスの基本使用料を無料としている場合が多いが、シンガポール、香港、中国、韓国などのアジア主要国においては、基本使用料を設定しているのがむしろ一般的である。もちろん、香港や韓国では、一定の無料アクセス時間をバンドルして提供している場合が多いため基本使用料を設定しているのは当然であるが、バンドル時間を含まない場合でも基本使用料を設定していた事業者が、それを無料化する動きも見られる。例えば、シンガポールでは、これまで全ての事業者がWAPサービスの基本使用料を設定していたが、2000年4月、M1はWAPサービスの通信料を据え置いたままで(SG$10/分)これまで課していた開通料(SG$20)と基本使用料(SG$15/月)を無料化した。これにより、M1ユーザーはこれまでの様な申込みを必要とせず、WAP対応移動機さえ持っていれば誰でも利用できる環境となった。

事業者名(国名)

モバイル・インターネット・サービス

契約型通話料/分(ピーク/オフ)

SMS
送信料

サービス名

基本使用料

通信料

ベライゾン・ワイヤレス(米)

モバイル・ウェブ

US$6.95/月

音声通話料に同じ

US$0.35/0.35

US$0.10

ボーダフォン(英)

WAPサービス

なし

£0.10/分

£0.10/0.05

£0.12

オレンジ(英)

オレンジWAP

サービス

なし

£0.05/分(プリペイド:£0.10/分)

£0.09/0.05

£0.06

T_モビル(独)

WAPサービス

なし

DM0.39/分

DM0.68/0.39

DM0.15

フランス・テレコム・モバイル

iサービス

なし

FF2.00/分

FF1.50/1.50

FF1.00

テレコム・イタリア・モバイル

i_TIM

なし

L190/分

L190/190

L250

ソネラ(フィンランド)

WAPサービス

なし

FIM0.99/分

FIM0.99/0.81

FIM0.99

シングテル・モバイル

e_ideas

SG$10.00

(バンドルなし)

SG$0.10/分

SG0.20/0.10

SG$0.05

HKT(香)

@1010

なし

音声通話料に同じ

HK$1.30/1.30

HK$1.00

SKテレコム(韓)

n.TOP

W2,000

(30分バンドル)

W17/10秒

W12/10秒

W126.00

/90.00

W30

  • モバイル・インターネット・サービスの料金プランが複数ある場合は1プランを抜粋。
  • 英、独、仏、フィンランドは、付加価値税込みの料金。
  • 掲載した料金は、順番に、次の各プラン選択時の料金。シングルレート600、ボーダフォン150、トーク500、テリー、イチネリス6H、TIMファミリー、プライベート、クラシック100、1010ミディアム・ユーセージ、一般料金プラン。
  • 「契約型通話料」は、上記料金プランにおける自網内通話(例:オレンジ発_オレンジ着)の通話料。

●通信料金の差別化とデータ量課金への移行
 現状では世界のほとんどの事業者がモバイル・インターネット・サービスに時間課金を採用しており、単位時間通信料の設定を工夫することで差別化を図っている。例えば、英国ではボーダフォン、BTセルネット、ワン2ワンが通信料を_0.10/分(付加価値税込:以下同様)としているが、オレンジはその半額の_0.05/分で提供している他、MVNO(移動仮想網事業者)のヴァージン・モバイルは、音声通話料金同様、毎日最初の5分間以降のWAP通信料を_0.05/分と格安に設定している。シンガポールでも、基本使用料が同額のシングテル・モバイルとスターハブを比較した場合、シングテルのWAP通信料SG$0.10/分(1分以降SG$0.01/6秒)に対し、スターハブはSG$0.0025/秒と、課金単位自体を変えている。

一方、最近では欧州を中心にようやくGPRSが導入され始め、今後はデータ量課金が主流になることは明らかである。韓国の情報通信部も2001年4月、モバイル・インターネット・サービスを時間課金からデータ量課金に移行する方針を示し、近々全ての事業者がこれに対応する予定である。

●料金プランへのバンドル
 契約型の料金プランに、モバイル・インターネット・サービスの無料利用時間をバンドルして提供するものである。例えば、KTフリーテルは7種類の若年層向け料金プランで構成される「ナ・プラス(Na+)」を提供しているが、うち6種類については30分、残りのハイ・エンド・ユーザー向けプランには600分または900分の通信時間をバンドルして提供している。また、シングテル・モバイルは、3つのハイエンド向け料金プランのユーザーに限ってWAPサービスの無制限利用をバンドルして提供しており、米国スプリントPCSのワン・レートプラン「フリー・アンド・クリア」は、音声通話の無料バンドル時間をモバイル・インターネット・サービスの利用に充当できる無料オプションを選択できる設計となっている。既に一般的となった音声通話時間のバンドル・プランと異なり、モバイル・インターネット・サービスの通信時間をバンドルした料金プランは今のところ比較的少ないが、今後サービスが普及するに伴って、多くの事業者が広く導入していくものと思われる。

 このように各国の事業者は、モバイル・インターネット・サービスの利用促進にむけた様々な料金施策を行っている。しかし、ほとんどの事業者が回線交換でかつコネクションに要する時間も長い、コンテンツも魅力的でないと指摘される現状では、単純な料金施策だけでは十分な効果が期待できない。前述のブリーズのように無料提供が利用促進につながった例もあるが、一方ではデンマークのモビリックスや中国移動通信のように無料提供を試みたにもかかわらず大幅な利用促進にはつながらなかったという事例も見られる。今後は、GPRS等の高速パケット通信が導入され、データ量課金への移行や伝送速度の改善など基本的なアクセス料金に対するユーザーの不安要素を解消することで、ようやく個々の料金施策が有効に機能する環境が整うと言えるだろう。その上で、コンテンツを含めたサービス面をいかにユーザー・ニーズに合致させた形で設計できるかが、モバイル・インターネット・サービスを普及させるための重要な要素になるものと思われる。

高田 博樹(入稿:2001.5)


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