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ハイパーアジア
2000年12月掲載

英BT、アジア事業見直し

   2000年11月27日の日本経済新聞は、「世界の通信大手、アジア事業見直し」という見出しで、「英ブリティッシュ・テレコム(BT)が、アジアの出資先から手を引く構えを見せている」と報じている。「Hyper Asia」では、1999年3月に「BTのアジア戦略」に触れているが、今月号は、BTの戦略転換とアジア通信市場への影響について述べる。

■最近のBTの投資状況

 BTは、図表1に示すように、1998年からアジア・北米を中心に少額出資を行っていたが、2000年は欧州の経営権取得が中心となっている。

 2000年8月17日、BTは、ドイツ電力大手Eon(ViagとVebaの合併新会社)から、同社の保有する独第3位の通信企業Viag Interkomの株式45%を66.5億ユーロ(約6,800億円)で買収することに合意した。これによりBTは、Viag Interkomへの出資比率を現行の45%から90%にまで引上げ、同社の経営権を取得することになる。Viag Interkomは、約200万人の加入者を抱える国内第4位の携帯電話事業者でもあり、同日(8月17日)終了したオークションにおいて、独UMTS(次世代携帯電話の欧州標準)免許の1つを165億マルク(約8,700億円)で落札している。

 続く8月31日、BTはスウェーデンのTelenordiaへの出資比率を33.33%から50%に引上げると発表している。発表時に、Telenordiaは11月に交付が予定されるスウェーデンのUMTS免許の獲得に乗り出すことを明らかにしていた(その後、UMTS免許は審査後、無料で12月16日に交付することが決定)。このほか、BTは2000年1月にEsat Telecom(アイルランド)を、4月にTelfort(オランダ)を完全子会社化している。

 日経新聞(2000.11.10)によると、こうした一連の企業買収や入札で高騰したUMTS免許料の支払いなどで、BTの2000年7〜9月期の税引前利益は前年同期に比べ52%減少した。業績不振からBTの株価は年初の半値に落ち込んでおり、財務体質の改善を急ぐため、11月9日、大規模な事業再編が発表された。(BT事業再編の詳細は、AT&T、BT等での分社流行の背景〜AT&T、BT、ワールドコムが相次いで分社や再編成を発表。その狙いとインパクト〜『トピックス』2000年11月号参照)

図表1:BTの主な投資状況

KDD総研R&A(2000.9)、BT Annual Report等をもとに作成
時期 欧州 アジア 北米・その他
1998.5   BT、NTTが各20%出資した「StarHub」、シンガポールの通信事業者免許を落札  
1998.10   Maxis Communications(旧ビナリアン、マレーシア)に33.3%出資  
LG Telecom(韓国)へ23.5%出資
1999.8   AT&Tと共同で、日本テレコムに30%出資  
  AT&T Canadaへ9%出資 Rogers Cantel Mobileへ約17%出資
2000.1     AT&Tと対等出資した国債通信事業会社「コンサート」営業開始
Esat Telecom(Esat、アイルランド)を完全子会社化
  • 傘下にアイルランド第2位のEsat Digifoneを保有
2000.4 Telfort(オランダ)を完全子会社化    
2000.8 Viag Interkomの出資比率を45%→90%へ引上げ
  • ドイツの固定・携帯通信事業者
  • 傘下にISPを保有
2000.8 Telenordiaの出資比率を33.33%→50%引上げ
  • スウェーデン第4位通信会社
  • 企業ユーザー対象に固定・データ通信、インターネット等を提供
   

■BTの戦略転換とアジア市場への影響

BTは、欧州での次世代携帯電話免許落札で多額の出資を強いられており、アジア事業を見直す構えを見せている。 アジア市場に対する外資の消極姿勢が鮮明になれば、資金不足から域内通信インフラ構築が遅れる恐れもある。
(日本経済(朝刊)2000.11.27)

 BTの事業再編計画は、今後の重点分野として、「インターネット」と「ワイヤレス」を、重点地域として「西欧」と「日本」を挙げている。

 この発表を受け、「アジアの通信業界に『BTショック』が走った」と日経新聞(2000.11.27)は報じている。BTはマレーシアのマキシス・コミュニケーションズ(旧ビナリアン)、シンガポールのスターハブのほか、香港、韓国の通信会社に出資しているが、BTのアジアにおける重点地域が「日本」だけであったため、「アジア通信市場では、どの会社が売却対象になるか、うわさが飛び交っている」と言う。

 さらに同紙は、英国C&Wも、香港子会社をPCCWに売却しており(「旧香港テレコムの買収・合併完了」『Hyper Asia』2000年9月号参照)、他の通信大手が出資先のアジア企業から資本を引上げる可能性も指摘している。

 アジアでも今後、次世代携帯やインターネットのインフラ構築が広がるのは確実であるが、市場が大きい日本と中国を除けば外資を引きつける魅力は乏しい。欧州での次世代携帯免許の落札価格の高騰を受け、調査会社のガートナー・グループは「大手の通信会社とはいえ、全世界に手を広げるのは不可能で、BT以外の企業も投資の選別傾向を強めている」としている。アジア市場に対する外資の消極姿勢が鮮明になれば、資金不足から域内通信インフラ構築が遅れる恐れもある。

NTT西日本 企画部 武川 恵美
編集室宛 nl@icr.co.jp
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