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ハイパーアジア
2001年10月掲載

ベトナム、通信市場自由化に向けた道のり

 ベトナムは、アジア経済危機で、最も打撃を受けたアジア地域の1つである。ベトナムのGDPは1990年代半ばまでは10%近い成長を続けていたが、98年以降の成長率は半減している。このような後退にも関わらず、幾つかの明るい兆しも見える。ベトナムの電気通信市場の現状と、2000年7月、米国との間で合意した米越通商協定における電気通信分野の合意内容をまとめる。

■規制機関の構造改革

 ベトナムの電気通信は、運輸通信省(Ministry of Transport and Communications)の外局である郵電総局(Department General of Post and Telecommunications、DGPT)が政策決定を行っている。ベトナム政府は、ITを重要分野と認識し、DGPTの拡充・格上げにより、情報インフラ分野(郵便、電気通信、情報技術)をカバーする独自の省の設立を、政策の主要方針に掲げている。

 その他の主要方針としては、(1)郵便・通信法の制定、(2)新規免許付与による競争の促進、(3)通信事業と郵便事業の分離、(4)VNPT事業の株式会社化・自己資本化、(5)電話普及率の向上、(6)ユニバーサル義務の拡充、(7)国際的に見て標準的な通信料金への値下げ、(8)ASEANが推進する枠組み、その他国際環境への積極的適応がある。(1)については、ベトナムは国会決議レベルの郵便・通信法はなく、現在は政省令レベルで運用されている。(KDD総研R&A 2001年5月号)

■固定網事業者は3社

 固定網事業の運営は、ベトナム郵電公社(Vietnam Post & Telecommunications、VNPT)がほぼ独占している。図表1に示すように、VNPT内には、地域別に市内通信を担当するPTT、国内の長距離通信のVietnam Telecom National(VTN)、国際通信のVietnam Telecom International(VTI)があり、各ユニットの独立性は比較的高い。

 1997年の政令109号の発効により、国営企業であるSaigon PostelとVietelの2社が事業を開始し「競争的な」環境は生まれている(図表2参照)。ただしSaigon PostelにはVNPTが出資しており、対等な競争というよりは、VNPT事業を補完するための役目を持つに過ぎないと評するアナリストもいる。

図表2:ベトナムの固定網事業者

KDD総研R&A2001年5月号
事業者 提供サービス 主な出資者

VNPT(Vietnam Post and Telecommunications)

基本電話(市内:各PTT)、国内長距離:VNPT、国際:VTI)

政府:100%

Saigon Postel (Saigon Postal and Telecommunications Service Co.)

基本電話

VNPT(18%所有)を含む11の国有企業

Vietel(Vietnam Army Electronics and Telecommunications Co.)

基本電話

国家防衛省:100%

 国家防衛省傘下のVietelは、2000年2月にVoIP免許を郵電総局から取得し、同年10月に試験サービスを開始した。ハノイ−ホーチミン間でIPベースにより音声、ファックス、データ伝送サービスを提供する。料金は、VNPTの約4割程度に抑え、近く本格参入する予定である。(KDD総研R&A2001年5月号、日経新聞2001.3.5)

 同じ日経新聞(2001.3.5)の記事によると、地元紙の報道として、ベトナム政府は、同国電力公社による通信事業参入を基本認可した。同公社は子会社を通じ、送電線沿いに建設した光ファイバー網を利用して、電話サービスを提供する予定である。さらに海運公社や鉄道公社も参入を計画している。

■携帯電話事業はVNPT子会社が独占

 ベトナムの携帯電話事業はVNPT系の3社が提供している(図表3)。ベトナムの携帯電話は1992年5月、ホーチミン市で試験的に導入されたのが始まりである。これはホーチミンPTT(現Saigon PTT)とシンガポール・テレコムのBCC契約(BCC契約については後述)による。(通商弘報2000.12.14)

 93年にはVNPTが携帯電話サービス会社Vietnam Mobile Telecom Services(VMS)を設立し、本格的な携帯電話事業を開始した。スウェーデンの携帯電話事業者であるComvik(コムビック)のBCC契約によるGSMで、「MobiFone」のサービスブランドで提供されている。

 また97年にはVNPTの100%資本でVietnam Telecom Services Company(GPC)を設立した。GPCもGSM規格を採用し、98年にはベトナム全土をカバーするネットワークを構築している。GDCは、「VinaPhone」のサービスブランドで提供しており、VMS加入者をしのぐまでに成長している。後発のGPCは電波の受信範囲が広い上、感度も良いとされており、最近ではVNSから移行するユーザも少なくない。

図表3:ベトナムの携帯電話事業者

  • Vietnam Telecom Services CompanyはGPC(GSM, Paging and Cardphone)とも言われる。
  • Saigon PTTはホーチミン地域のPTT(郵電局)のことで、Saigon Postel(SPTと表示される場合もある)とは異なる。

KDD総研R&A 2001年5月号、VNPTホームページwww.vnpt.com.vn

事業者 システム 加入者数 主な出資者 備 考

VMS(Vietnam Mobile Telecom Services)

GSM

362,289

(2001.2)

VNPTとComvikのBCC

サービスブランドはMobiFine

Vietnam Telecom Services Company(GPC)

GSM

505,751

(2001.2)

VNPT:100%

サービスブランドはVinaPhone

Saigon Mobile Telephone Company

D-AMPS

6,000

(2000末)

Saigon P&Tとシンガポール・テレコムのBCC

サービスブランドはCall Link

■貧しい電気通信インフラとVNPTの試み

 ベトナムの固定電話(Fixed Telephone Line)加入者は、2000年末に250万に達し、前年末より40万回線近く増加している(図表4)。人口100人当りの普及率は3.2%。2001年2月には2,580,361回線となっている。2000年末の携帯電話加入者は約75万で、前年末より43万増加している。

 なおVNPTは、固定電話とVNPTが提供している携帯電話の加入者を合計した数値を電話回線(Telephone Line)数として発表している。2000年末の電話回線数は3,286,405回線である。1997年末までは、2つの統計数値の差はほとんどなかったが、携帯電話加入者が固定電話の増加を上回っているため、次第に差が広がっている。

 VNPTは、先に示した政策の主要方針で、2010年の電話普及率を10〜12%、2020年には20〜25%とすることを目標としている。これを実現するため、2001年は、電話を897,495回線増やし、合計で418万3,000回線、普及率5%を目指すとしている。VNPTの2001年総収益見込みは(郵便事業を含めて)17兆1,300億ドン(約1,300億円)である。

図表4:ベトナムの固定電話と電話(固定+携帯)の加入者数の推移

図表4:ベトナムの固定電話と電話(固定+携帯)の加入者数の推移

Simens "hInternational Telecom Statistics 2001'、"Asian Communications"(2000.10)

 ベトナムでは、人口の4分の3がルーラル地域で生活している。アクセス手段を舟に頼るしかない村もあり、メコンデルタで水害を受ける村も多い。VNPTは普及率の向上を目標に掲げているものの、これらの村に電話サービスを提供するのはかなり困難であることは間違いない。

 電話回線の敷設が進むに沿って、国際通信トラヒックも増加している。2000年1月〜8月にトラヒックは3億分に達した。国際回線は、1996年末には4,300回線であったが、2000年には5,764回線に増えた。

 電話の取得や利用を促進するため、VNPTは2000年に固定電話、携帯電話およびインターネット接続料等、ほとんどの通信料金を値下げした。しかし、ベトナムの通信料金は依然としてアジアの標準よりも高く、大多数のベトナム人には手の届かない存在である。(Asian Communications 2000.10)

■外資、唯一の参加方法:BCC契約

 外資による電気通信事業への参加はBCC(Business Cooperation Contracts、経営協力契約)という形態でしか認められていない。これは、外国企業がベトナムに法人を設立することなく、外国側とベトナム側のBCC契約に基いて共同で経営を行うもので、外国企業は建設投資した電気通信網が生み出す収入を分配する。通信事業のほかには石油開発事業などに見られる投資形態である。図表5にBCC契約の枠組みを示す。

 BCC契約については、岡本秀之著「ベトナムの電気通信事情」(国際通信経済研究所、1997年10月)に詳しい。

<参考>BCC契約

 BCC契約は「ベトナムにおける外国投資に関する法律」(1996.11.12国会第9期第10回総会で採択)の第2条第9項に次のように定義されている。

 「経営協力契約」とは双方(ベトナム側と外国側)または複数(ベトナム側および外国側が1または複数)のものがベトナムに投資をするために、法人を設立せずに締結しあう契約である。この場合、ベトナム側とはベトナムのあらゆる経済セクターに属する1または複数の企業である(同第4項)、また、外国側とは1または複数の外国投資家である(同第3項)。

 BCC契約は、外国企業が現在既に存在するベトナム企業との間で、投資額、収入分配率、契約期間、その他お互いの権利、義務を契約するものである。したがって、合弁会社設立のように新しい法人格を持つわけではない。

 事業を進めるに際して、お互いに契約の履行確認と相互監視のため委員会(アドバイザリーボード)を設けることができ、事業計画、収支計画等重要事項のほか日常の細かな業務遂行上の課題などについて話し合うことができる。投資法の政令(1997.2.18)第9条によれば、この委員会の機能および任務、権限は契約者間により合意される。またBCCは計画投資省(MPI)に申請され、投資許可書が出されて初めて有効となる。

岡本秀之著『ベトナムの電気通信事情』国際通信経済研究所(1997年10月)

 固定網事業では、1997年7月、ハノイ市およびホーチミン市における回線増設と運用のプロジェクトについてVNPTと外国企業が15年間のBCC契約を締結した。NTT(現NTTコミュニケーションズ)は、ハノイ市の北半分を対象に2000年までに24万回線を構築する。フランス・テレコムがホーチミン市において40万回線を設置するBCC契約を結んでいる。

 一方、BCC契約から撤退した外資もある。C&Wはハノイ市で25万回線を建設する2億700万ドル相当のBCC契約から、テルストラはホーチミン市の商業地域に電気通信網を建設する5億ドル相当のBCC契約から手を引いている。(Asian Communications 2000.10)

 携帯電話事業ではスウェーデンの通信事業者ComvikがBCC契約で、GSMを共同で展開している。また2000年10月、韓国SKテレコムが参加するSLD Telecomが、Saigon PostelとCDMA網構築、サービス提供に関する15年間のBCC契約を締結した。ベトナムでは非VNPT系のネットワークとなる。Saigon Postelは試験サービスの開始を2001年半ばに予定している。BCCの契約額は2億3,000万ドル。(KDD総研2001年5月号)

■米国との通信市場開放に関わる2国間合意

 2000年7月、ベトナムは米国との間で2国間締結した米越通商協定(Vietnam-US Trade Agreement)の一環として、電気通信分野に関しておおよそ下記を合意した。発効にはさらに両国の批准が必要である。

*例えばデータ通信、専用回線、衛星通信、
 
モバイル(伝送路を持たない小売サービス)が言及されている。 KDD総研R&A 2001年5月号
  • 発効2年後、VANサービスの合弁を認める。合弁会社による伝送路の建設所有は不可。米国資本は過半数を超えてはいけない。
  • 発効3年後、ISPの合弁を認める。米国資本は過半数を超えてはいけない。
  • 発効4年後、固定電話を除く基本サービス*の合弁を認める。合弁会社による伝送路の建設保有は不可。米国資本は49%を超えてはいけない。
  • 発効6年後、固定電話サービスの合弁を認める。米国資本は49%を超えてはいけない。

 現在のところ、外資はBCCという形態でしか、ベトナム通信事業への資本投下ができない。米国との合意は、伝送路所有はできないものの、現地法人への参加が可能である点が前進を意味する。今後のWTO加盟、ASEAN域内での自由化加速などを受け、ベトナムも世界的な競争時代を生き抜くために模索を始めたといえよう。 (通商弘報 2000年12月14日)
<寄稿> 武川 恵美
編集室宛 nl@icr.co.jp
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