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情報通信の新潮流
2002年9月掲載

第6回

欧州のIT戦略(下)
〜進まぬDSLサービスの普及〜


政策研究グループ
シニアリサーチャー
神野 新 kamino@icr.co.jp

■“競争導入”はこれから

 第5回(欧州のIT戦略(上)〜安全な情報インフラが不可欠〜)で記述したように、EU主要国においては、競争的なDSLサービスがほとんど出現していない。繰り返すと、英独仏のDSL加入総数と競争事業者のシェアは、それぞれ、29万〔うち競争事業者のシェア:ごく僅か〕、265万〔同:5.7%〕、70万〔同:数%〕である。DSLサービスにおける競争の遅れを裏付ける事実として、ローカル・ループ・アンバンドリング(LLU)の利用が進んでいない点が上げられる。ECの競争担当委員のマリオ・モンティ氏は、7月8日に行なった「ローカル・アクセスにおける競争導入」というスピーチの中で、EU全域のアンバンドル回線数がアクセス回線総数の1%程度の90万回線以下である事実を指摘し、既存のキャリアがLLU提供促進の努力を行なうように勧告を行なった。ちなみに、このうちの70万回線以上はドイツで提供されており、英仏のアンバンドリング回線数は、ともに800回線程度と微々たるものである(2002年6月現在)。ただし、先日来日したドイツの通信経済研究所(WIK)のカール・ノイマン所長は、「ドイツでアンバンドル提供されている70万回線は、ほとんどが競争的な音声サービスのために利用されており、LLUを利用した競争的DSLサービスを提供している事業者はわずかである」と我々に語っていた。

 欧州主要国でDSLサービスにおける「モード内競争」が進展していないのは上述のとおりであるが、それでは、DSLとケーブルモデム間の「モード間競争」は進展しているのだろうか?その答えはNoであり、ケーブルモデムはDSLに代わってブロードバンドの普及を支えるほどの加入数を獲得するには至っていない。すなわち、英独仏のケーブルモデム・サービスの加入数は、それぞれ、42万(6月時点)、4.5万(6月)、21万(3月)に過ぎず、3カ国の加入数を合計しても、日本の加入数(170万)の40%程度と低調である。(米国の920万加入と比較すると、わずか7−8%である)

■日米との大きな差

 3番目のワイヤレス系のブロードバンド・アクセスであるが、こちらも、欧州では携帯電話によるモバイル・インターネットがようやく離陸し始めた段階であり、衛星、無線LANアクセスは今後のサービスに留まっている。
 なお、EU主要国の数値と比較するために、同時期(2002年6月)の日本における数値を示すと下記の通りである。

DSL加入数の総数(競争事業者のシェア) 330万加入(うち、NTT地域会社以外の事業者のシェアが55%)
NTTが提供したLLU数 数値は公表されていないが、競争的DSL事業者は、ほとんどNTTのLLU(回線共用)を利用している。
ケーブルモデム加入数 170万加入

 総括すると、EUにおけるブロードバンド競争の実情は、既に我が国で実現しているような「LLUを利用した競争的なDSL事業者と既存の電話会社の間における、DSLサービスによる熾烈なモード内競争」も進展していなければ、米国で生じているDSLとケーブルモデム間の「モード間競争」もほとんど存在していない。日本のブロードバンド競争は、欧州と比較して非常に進んでいると言えよう。

日本工業新聞「e-Japan戦略 IT立国への取組みと課題」2002年9月25日掲載

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