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情報通信の新潮流
2003年2月掲載

情報通信の新潮流(第2回)

1996年電気通信法成立から7年間の米国のテレコム業界を検証する(2)

自然寡占へと向かう米国のテレコム産業

神野(写真)
政策研究グループ
シニアリサーチャー
神野 新 kamino@icr.co.jp

  世紀末にIT不況という「予期せざる事態」(1996年当時に予期していた人は少数であった)が発生したとはいえ、米国のテレコム産業は明らかに「より少数の巨大事業者による競争」の様相を呈している。この事態を、コロンビア大学のエリ・ノーム教授は「テレコム産業は自然寡占に向かっている」と端的に表現している。同教授が昨年の国際学会(ITS2002)で発表した内容を紹介すると、「テレコム産業には循環性(cyclicality)が将来的に付きまとうようになる。このような不安定性に対する企業や投資家の最も効果的な対応策は、企業合併や業界内の協調路線である。このため、寡占が均衡的市場構造となる可能性がある」というものである。

 自然寡占が生じた背景には、(1)長距離市場への参入準備と市内通信競争への対抗のため、地域ベル電話会社が規模の拡大を求めた、(2)反対に、地域ベル電話会社への対抗策として、長距離通信事業者の側でM&Aが活発化した、(3)新興通信事業者を中心とした過剰投資がネットワーク容量のだぶつきをもたらし、需要と供給のインバランスを発生させ、事業者の大規模な淘汰へとつながった、などの理由が考えられる。

 皮肉にも、1996年法の競争政策が事業者に企業統合のインセンティブを与えた結果になる。しかし、大幅な市場の自由化直後に新規参入者が多数出現し、供給過剰の状態となり、やがて市場が寡占化に向かう例は、1980年代の米国の航空業界に見られたように、そう珍しいことではない。テレコム業界においても同様の事態を予想する人は少なからず存在した。しかし、「インターネット・トラヒックは100日ごとに倍増する」といった、「他産業とは異なり、テレコム産業では技術進歩と競争によって無限に市場が拡大する」という幻想に多くの関係者がとらわれており、その幻想の破綻が寡占化を加速したことは間違いない。FCCパウエル委員長もテレコム・バブルについて説明した連邦議会上院における証言(2002年7月30日)で明らかにしている通り、このような幻想を後押しして来たのが、杜撰な計画しか持たない新興通信事業者に巨額の資金をファイナンスしてきたウォールストリートであり、新規参入企業の数を増やすことに主眼を置いてきた、民主党政権下のケナード委員長率いるFCCの競争政策であった。

 寡占化はテレコム不況の以前から生じていたが、不況を通じた需要と供給の調整(最適化)の過程で、米国のテレコム産業では莫大な損失が発生し、根拠の無い市場拡大幻想がもたらした代償の大きさを、業界全体が思い知らされることとなった。

表:テレコム不況が米国にもたらした損害

日本工業新聞「e-Japan戦略 IT立国への取組みと課題」2003年2月19日掲載

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