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情報通信の新潮流
2003年3月掲載

情報通信の新潮流(第13回)

地上デジタル放送の動向

天谷(写真)
情報流通ビジネス研究G
シニアリサーチャー
天谷 隆治 amaya@icr.co.jp

 テレビ放送開始から50年を迎えた節目の今年12月には地上デジタルテレビ放送が開始される。懸案だったアナログ周波数変更の受信対策工事も二月から始まった。放送局では、スタジオ設備のほかに東京タワーへの新アンテナ設置や愛知県瀬戸市のタワー建設などデジタル化に向けた準備を着々と進めてきているが、デジタル化のための前準備で分かりにくい作業ではあるが視聴者がデジタル放送に関わるのはこの工事が最初である。これを機に総務省・関係業界の広報・周知活動が活発化している。

 4月頃には放送局に予備免許が交付され、続いて試験電波の発射、秋頃には対応受信機の発売が予定されている。しかし、1日の3分の2以上がアナログ放送と同じ番組が流されるデジタル放送の普及は多難である。総務省は2月末に隣接地域の地方局間の兼営または完全子会社化を認める報告書をまとめたが、これは多額のデジタル投資に伴う経営破たんを回避するために経営基盤の強化をねらった方策でもある。また、BSデジタル放送普及目標の下方修正や、英国の前放送局の破たん、米国での普及の遅れなどと芳しくない情勢もあって、50年前の新しいメディアへの熱気・盛り上がりがなかなか伝わってこない。

 デジタル放送の普及には魅力的な番組の提供とともに、視聴者には利便性など充実した利用環境が求められる。その点、地上デジタル放送はアナログ放送にはない良さを持っている。携帯端末向け放送ではすき間時間に見る放送という新たな視聴スタイルが訴求される。サーバー型放送は好みの番組のタイムシフト視聴が可能になる。放送時間の半分以上が高精細度放送でありいい音・きれいな画面に引き付けられるかもしれない。

 利用環境整備では、ケーブル経由の放送受信も重要である。米国では昨年末、ケーブル業界と家電業界がSTBなしでデジタル放送が視聴できるテレビ仕様に合意した。やや意味合いは異なるが、国内には伝送帯域の狭い共同受信施設が多くありこのデジタル対応が課題となっている。2011年7月のアナログ放送停波とともにテレビ放送が視聴できないという事態を避けるためにも、施設ケーブルを接続するだけで視聴できるデジタル放送受信機の製品化が待たれている。また、光ファイバによって放送配信が可能になることから、ADSLにはIP電話がベーシックになろうとしているが、家庭へのデジタル放送受信機の普及とともに光ファイバ加入によってアンテナ・STBなしで少なくとも地元の地上デジタル放送が視聴できる環境が整備される期待もある。

 今週はデジタル放送について考えていきたい。

表:国内のデジタル放送受信機需要予測

日本工業新聞「e-Japan戦略 IT立国への取組みと課題」2003年3月11日掲載

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