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情報通信の新潮流
2003年3月掲載

情報通信の新潮流(第15回)

英国・米国の地上デジタル放送

西岡(写真)
情報流通ビジネス研究グループ
リサーチャー
西岡 洋子 nisioka@icr.co.jp

 2003年末、いよいよ日本でデジタル地上放送がはじまる。実は、すでに多くの世界の主要国では、デジタル地上放送は、導入ずみである。ここでは、1998年秋に先を争うように地上波のデジタル化に踏み切った英国、米国の状況を紹介する。

英国における地上デジタル放送の普及

 地上放送のデジタル化が行われてから5年が経とうとしているものの、その多くの国々は地上デジタル放送の受信世帯の拡大に悩んでいる。そのなかで英国は、多チャンネル・デジタル・サービス(デジタル地上放送の再送信を行っている)の普及とともに、比較的順調にデジタル地上放送の受信世帯を拡大してきた。多チャンネル・デジタル・サービス(衛星、ケーブルテレビ、地上放送、ADSL)を利用する世帯は、全世帯の40%足らずまで伸びている(2002年9月)。

 ただし、その道のリは、平坦なものではなかった。デジタル地上放送導入期に地上放送市場に新規参入したオンデジタル(後のITVデジタル)は、同時期にデジタルサービスを開始した衛星放送のBSkyBと激しい顧客獲得合戦を繰り広げ、ともに無料でSTBを配布するなど、経営的に負担の大きい戦略をとった。これは普及を推し進めたという点では評価できるのであるが、結果としてITVデジタルを経営破綻に追いこんだ。ITVデジタルは、高騰を続けるスポーツ・コンテンツの放送料が負担となって破綻したと言われる。

 その後参入したのが、BBCとBSkyB、放送番組の伝送を行う通信事業者のクラウン・キャッスルのコンソーシアムだ。2002年秋から広告収入をビジネスモデルとした多チャンネル放送を開始した。今回の事業者選定にあたり、過度な競争による経営負担を避ける持続的な競争可能なモデルを模索した結果、有料放送モデルをあきらめ、広告放送モデルに転換した(一概に有料放送モデルが成り立たないというのではない。その国の放送市場の構造に拠る判断が必要であることと指摘しておく)。なかなか順調な滑り出しと聞いている。

行政主導で普及拡大に懸命な米国

 英国に2ヵ月遅れて地上デジタル放送を開始した米国は普及が遅々として進まない。現在、地上デジタル放送の受信世帯は5%以下である。地上放送の受信は、全米の3分の2以上の世帯がケーブルテレビ経由で行っており、その協力は不可欠だ。米国の地上放送の特徴のHDTVの再送信には標準画質の3倍の帯域をとるなど、ケーブルテレビにとって負担であり、地上デジタル放送の再送信には及び腰である。そもそも、長期低落傾向にある地上放送事業者にとってデジタル化は、単なる負担としてしか捉えられていない。これに業を煮やした規制機関の連邦通信委員会(FCC)や議会は2002月春以降、様々な動きを見せ始めた。5月には、FCCが普及促進案を提示、ケーブルテレビは、HDTVチャンネルの増加などこれに協力を見せる反応を示したものの、家電メーカーは、デジタル地上放送チューナーをケーブルテレビSTBに標準的に内蔵するという案に対して、FCCを相手取り訴訟を起こすなど強硬な反対を示している。また議会ではこれと平行して、2002年秋には2006年末に地上アナログ放送を終了するという法案提出が議論されている。米国では、今後、少しずつ協力の姿勢を見せている関連業界を、行政側が強力なリーダーシップで引っ張っていくという形になりそうだ。

日本工業新聞「e-Japan戦略 IT立国への取組みと課題」2003年3月13日掲載

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