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マンスリーフォーカス
No.30 January 2002

世界の通信企業の戦略提携図(2001年12月31日現在)

88. 世界の情報通信2002年の展望

Quite a ride景気と株価の視点でみると
 終わってみれば2001年は株式投資家にとって予想したほど酷いものではなかったと言う。2000年の半ば米国でのドットコムバブル炸裂はある程度予想されもしていたが、続く2001年の成り行きはいわゆるニューエコノミーが途方もない空想の産物であるとの認識が固まり米国経済の不況対策が練られていたところ、予想外の9月11日事件が起こり一直線に株価が下がっていってまだ底値観には達しないものの、関係者の努力でマアマアの暮れだったようだ(右図参照)。長引く不況を映した日経平均は別として欧米市場は持ち直しサイン近しの感がある。

 情報通信界は、米国半導体工業会(SIA)が2002年1月2日に発表した「2001年11月の世界半導体売上高は前月比2%増」との報道や「パソコン、ケータイ、家電、自動車などの最終需要によって一年に及ぶ半導体不況は脱却しつつある」との見方を底辺に、世界こぞって明るい兆しを待望している。アナリストは2002年後半ないし年末までに底に達し、従来の成長年率10-12%に復帰すると見ている。

 2001年12月の米国は、クエスト(Qwest Comm.Int'l)などの減収見通し、レイオフ、投資削減の報道に満ちていた。電話会社が切り詰めるとメーカーに影響し、無線関係は比較的良くて光通信関係は絶不調とか強弱はあるものの、米国の通信業界全体としてまだ転換点が見えない現状である。米国電気通信産業の売上高は2000年実績の前年比11%増に対して2001年は前年比7%増と推定され、2002年も6%増と予測される。設備投資額の見通しは一層厳しく、2002年の規模は前年比10-25%減と見込まれる。

 IDC報告によれば、アジア太平洋地域の電気通信サービス市場(日本を除く)は2002年に20.6%成長して$1,610億に達し、同じくIT市場は13.5%成長して$760億に達するものと見込まれる。アジア太平洋地域の電気通信サービス市場(日本を除く)は、中国のリードとブロードバンド、ITサービス、3Gサービスなどの離陸に伴い、2003-2004年には$2,690億に達すると見込まれる。

 メリルリンチの推定では、世界の電気通信株価は、全体として2001年初めから11月までに27%下がり、2000年3月ピーク時に比べると62%低くなっている。

 情報通信企業の株価変動は、これまでのマンスリー関係記事を見て欲しいが、2001年末の現況は表 世界の情報通信サービスプロバイダーTop20(2001年12月31現在)で、NTTとNTTドコモの低迷が目立つ。

世界の情報通信サービスプロバイダTop20

規制環境の変化
 電気通信産業におけるM&Aでは、2001年はAT&TやBTの解体、ルーセント・テクノロジー(LU)の光ファイバー部門売却など経営改善目的が目立った。2002年も守りのM&Aが主になろう。ただし、米国のスプリント・パーソナル・コミュニケーションズ(Sprint PCS)、ベルサウス/SBC合弁キャリアー(Cingular Wireless)、ドイツ・テレコム(DT)子会社ボイスストリーム(VS)など無線キャリアーの攻めの合併模索は別である。

 米国のドットコム企業の統合・閉鎖は、2000年10月ー2001年6月の225件に対し2001年年間は537件に達したものの最悪の時期は過ぎたと言うが、2002年も経営不振のベンチャーをめぐる焼け残り品特売(fire-sale)は続くこう。ヨーロッパでは、元国営キャリアーは2-3グループに統合されるとゾンマーDT会長はと観測しDTはその中心の一つになると述べている。

 欧米の産業界では、独禁視点の合併審査基準の見直し要求が盛んになってきており、2002年以降のM&Aについては規制環境の変化が注目される。

 一方、アジアではWTO基本通信サービス自由化の枠組みとの関連で外資制限緩和・撤廃の課題がある。中国やインドは拡充資金の調達上外資を歓迎しつつフラッグ・キャリアーについてはWTO自由化期限の2006年まで段階的緩和で時間を稼ぐ構えでおり、タイが2001年11月に既定の外資上限49%を下廻る25%上限を新通信法に盛り込んで撤回した事例、フィリピンでフラッグ・キャリアーPLDT(Philippine Long Distance Telephone Company)の経営権が1998年11月以来インドネシアのサリム財閥系在香港持株会社ファースト・パシフィック(First Pacific)に握られている(価額割合17.4%、議決権割合27.4%)事実など様々な問題がある。

89. CATV水平統合が出現し、AT&Tは生まれ変わる

 2001年7月にAT&Tブロードバンド買収提案を拒否されたコムキャスト(Comcast)は(マンスリー2001年8月No.73「AT&Tブロードバンドの行方」参照)、指値に色をつける伝統的戦術と議決権株比率を後退させる工夫でAT&Tを引付けて競り合うコックス・コミュニケーションズ(Cox)やAOL-TWを退け、2001年12月19日にAT&Tと共同でAT&Tブロードバンド評価額を$720億としてコムキャストと合併する協定に署名したと発表した。

 最終協定(definitive agreement)によれば、AT&TはAT&Tブロードバンドを分離、コムキャストと合併して新会社AT&Tコムキャスト(AT&T Comcast Corporation)を設立する。AT&T株主は所有するAT&T株1株につきAT&Tコムキャスト株約0.34株(手続時点の引値で調整する)を受け取り、コムキャスト株主は所有するコムキャスト株1株につきAT&Tコムキャスト株1株を受け取る。AT&T株主は新会社資本の56%を所有し、議決権の66%を行使する。コムキャストのクラスB株を保有する創業者ロバーツ一族は新会社の発行済議決権株の1/3(7月提案では過半数だった)を行使する。AT&Tが引き渡す資産は$470億と評価され、このほかコムキャストは債務$200億を引き受け、また、AT&Tブロードバンドの転換社債50億ドルを引受けていたマイクロソフトにAT&Tコムキャスト新株を引き渡す(出資比率5%)。AT&T株主はAT&T株1株につき$13.07相当額を受け取ったうえ、AT&T通信事業の所有者であり続けることになる。合併手続の完了時期は2002年末を目途とする。

 AT&Tコムキャストは、米国の41州を営業基盤とする加入数2,210万、市場シェア34%、年間売上高190億ドルの巨大MSOになる。AOL-TWの1,270万加入、シェア18%、チャーター(Charter)の700万加入、シェア10%、Coxの620万加入、シェア9%を遥かに超える米国No.1は世界一のCATVオペレータである。新会社はコムキャストのCATVディジタル化率が95%に達し、AT&Tシステムもディジタル化投資を行ってきたことから、直ぐにもブロードバンド・サプライヤーになれる位置にあり、電話を含むローカルアクセスの雄者としてケブル電話会社(Cable Telephony)の現実化とも言える。

 新会社の首脳は、コムキャスト社長兼CEOのB.ロバーツが社長になり、AT&TのM.アームストロング会長は会長に就任する。1963年にコミュニケーション+ブロードキャスティングの社名を造語したコムキャストは、創業時の目標を達成したことになる。アームストロングは売却先にコムキャストを選んだ理由をビジョンの共有と語る。アームストロングのAT&T会長任期は2003年5月だが、コムキャスト要請によると言われるAT&Tコムキャストの会長任期は2005年で、CATV/電話会社が彼の花道ともなろう。

 何故コンテンツ/プラットフォーム/アクセスの垂直統合体ではなくCATV水平統合体が先行して実現したのか。理由の第1は、ディジタル高速大容量化に伴う受信機器(Set-Top-Box)の共通化や共同マーケティングの必要性、つまり規模の経済の大型化であり、第2はコンテンツとインフラ(プラットフォームやアクセス)の融合効果がまだ見込めないとの判断である。

 コムキャスト買収に名乗りをあげると噂されたウォルトディズニー(WD)は、自前のインフラにコンテンツを流す自己完結型モデルは必ずしも収益拡大につながらないとして「通信インフラは当面必要無い、コンテンツの強化が最優先」と語り、買収参加を見送ったのである。

 経営再建にかけたAT&Tの4部門分割は、当初の意図に反して(マンスリー2000年11月No.47「AT&T4分割の意味するもの」参照)ワイヤレスの独立とブロードバンドの売却で区切りがつき、グローバル企業AT&Tは事実上解体して、1885年創立の長距離通信事業だけが残った。

 その長距離通信事業は、このところ通話料金を連続値下げしても需要リバウンドなしの減収で沈滞の一途を辿ってきた。それにしても、12月21日のAT&T株価$18.35から売却したブロードバンド相当額$13.07を差し引いた残り$5.3が長距離通信事業に見合う株価だが、年商$400億、EBITDA$150億を生む事業の評価額が半券(stud)と呼ばれるほど低いのは理解し難い。長距離通信事業収入を音声サービスとデータ通信(ファクシミリ、インターネットを含む非音声)に分けると、1998年当時76%だった音声サービスは2001年に49%と半分以下になる。コミュニケーションとして人間の通話は冗長度が高くデータ通信は稠密なため、音声からデータへの構造変化の際にトラフィックが伸び悩むことはあり得るとして、データ通信収入が年率20%で伸びて行けばAT&Tの収益性は2002年から向上すると見ることもできる。問題は米国経済回復の見通しである。

90. ヴィヴァンディ・ユニバーサルの米国戦略本格化

 2000年6月20日にシーグラムの$430億買収を決め(マンスリー2000年7月No.35「ビベンディのシーグラム買収」参照)、2000年12月20日に買収手続を完了した(マンスリー2001年5月No.65「メディア産業再編成の胎動」参照)ヴィヴァンディ・ユニバーサル(VU)は、1年後、ヒューズ.エレクトロニクス(HE)と合併合意したばかりのエコスター(EC)(マンスリー2001年11月No.84参照)の持株10%を$150億で買収すると2001年12月14日に発表のうえ、3日後の12月17日には米国メディア第15位USAネットワークス(USA Networks Inc.: USAI)の娯楽部門資産を$103億で買収すると発表した。

 EC投資はVUがECの衛星放チャンネルに番組を供給する業務提携8年契約の一環で、USAI買収はVUとUSAIの株式交換を主としVUが一部($16.2億)現金を支払う取引である。VUは子会社Universal Studio Groupsと取得したUSAI娯楽部門資産で「ヴィヴァンディ・ユニバーサル・エンターテインメント(Vivendi Universal Entertainment: VUE)」を構成し(VU出資比率93%)、B.ディラーUSAI会長兼CEOを会長とする。

 B.ディラーUSAI/VUE会長はかつてパラマウント撮影所所長を勤め、R.マードックに引き抜かれてフォックスTVネットワークを創業した経歴の持主で、1992年に独立USAIに参加後インターネットやeコマースへの関心を高め、今回VUEに移って個人所有株を一部残すUSAIのインターネット関係と音楽を除くVUEの運営に当たる。

 VUのクリスマスショッピングの狙いは明白で、ヨーロッパでは有料TVカナルプラス(Canal Plus)でコンテンツ市場をリードしているのに米大陸では番組流通手段を所有していないのを改めようとしたのである。ECはアクション・サスペンス・音楽・双方向など当面5チャンネルを提供し将来15CHまで増やし、DISH、DirecTV合わせて全米1,500万世帯、CATV市場の16%に放送できる。ただ米国の有料TVプラットフォームとUSAIの流通契約は今後の交渉次第で、規制機関のEC=HE合併契約承認も課題として残っており、B.ディラーUSAI/ VUE会長を率いグローバル統合メディア企業を志すJ.メシエVU会長の戦略が実際にどのような実を結ぶか注目される。

 なお、音楽分野では、VU傘下のユニバーサル・ミュージック・グループ(UMG)とソニー・ミュージック・エンターテインメント(SME)合弁による音楽配信サービス「プレスプレイ」が、既報(マンスリー2001年10月No.81「音楽配信サービスは見切り発車か」参照)より遅れて2001年12月19日にサービス開始した。AOL傘下のWMG、ドイツBGM、英国EMIおよびリアルネットワーク(RN)による「ミュージックネット(MN)」が12月4日に開業したのを追った商用サービス試験を始めたもので、新年から大拡充するとしている。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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