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マンスリーフォーカス
No.56 March, 2004

世界の通信企業の戦略提携図(2004年3月1日現在)

166. ディズニーは買収攻勢にどう対処するか(概要)

 米国ケーブルTV業界最大手コムキャストのB,ロバーツ社長兼CEOがディズニー社のM.D.アイズナー会長兼CEOに直接買収提案し断られると(2004.2.9)、コムキャストはディズニー株1株をコムキャスト株0.78株と交換しディズニーの負債$119億を引き受ける株式交換合併=買収額$660億を提案したと発表した(2004.2.11)。

 ウォルト・ディズニー社は放送ネットワークABCやディズニー・チャンネル・ESPN等ケーブルTV網(総売上高の39%)とウォルト・ディズニー撮影所(24%)、ディズニー・パーク(27%)、ディズニー・ストア(10%)などで構成されるメガメディアで1936年創立以来コンテンツ企業と見られてきたが、コムキャストとの株式交換合併が成立すると、単純計算で時価総額$1,200億のトップクラス情報通信サービスプロバイダーになる。

予想表 世界の情報通信サービスプロバイダーTop20(2004.2.27現在)""

 コムキャストが提案したディズニー買収計画の値づけは前日終値の10%上乗せだったが発表に伴いディズニー株価が急上昇し買収価格を上回ったため、ディズニー取締役会はディズニー株価が上がりコムキャスト株価が下がったことを理由に買収提案を拒否し「(買収額$600億以下の)提案はディズニーの本来の価値と収益見通しを反映したものではない、妥当な提案なら考慮する」との声明を発表した(2004.2.16)。
 これに対しコムキャストは提示額を引上げるそぶりを示さず、ディズニー株価の下落を気長に待ち、2004年3月3日(水)に開催されるディズニー社年次株主総会で経営の主導権がアイズナー批判派に転換するのを期待する戦略と見られている。

 コムキャストのディズニー株価下落待ち戦略は競合する敵対的買収者がない前提にたっている。タイムワーナーは回復途上でキャッシュフローの余裕少なく、不正経理問題調査や2001年合併関連株主集団訴訟を抱えて株式交換合併は計画し難い。ヴァイアコムは赤字のCDレンタルチェーン子会社ブロックバスターの再編成途上で狙っているのは米国No.2の衛星放送エコスターという読みである。

 規制関係では、コムキャスト提案について慎重に調査すると述べたM.K.パウエルFCC委員長は今メディアの規制緩和規則の実現に取り組んでいる。M.デワイン上院法務委員会反独占小委委員長は買収契約案について公聴会を行うと述べた。しかし、コムキャスト幹部はニューズ社が衛星放送のコンテンツ・流通につき比較的易しい条件付きFCC認可を得た見てディズニー買収を提案した。他のコンテンツ業者を差別しないと誓えば良いと考えているだろう。

167. 米国移動通信再編成始まる(概要)

 米国携帯電話事業者第3位のAT&Tワイヤレス(AWE)は売上高対前年同期比4%増、損失対前年同期比36%縮小の2003年第4四半期業績の発表日(2004.1.22)に、M&A交渉ガイドラインを作成し提案を広く募って同業他社と交渉することを明らかにした。アナリスト予想よりやや悪い業績も何処へやらM&Aの可能性がAWE株価を押し上げるなかで、AWEは提案の締切日を2月13日(金)とした(2004.1.28発表)。首位のベライズン・ワイヤレス合弁の少数株主ボーダフォン(VOD)・第2位のシンギュラー・第5位ネクステル・第6位T-モバイル・AWEの少数株主NTTドコモが関心を示した。
 経営規模世界一のVODがベライズンの少数株主にとどまってきたのは異例だが、歴史的経緯によるものである。

 締切日にシンギュラーがAWE1株当たり$13総額$350億の買収を提案しボーダフォンもほぼ同額を提示したところAWEは増額を求め、両社がほぼ同様のAWE1株当たり$14総額$380億を提案したところ(2004.2.15)AWEはさらに条件の再提示を求めた。
 1年前1株$6だったAWE 株価は15日終値$11.82に達した。水面下の折衝を見守るメディアがボーダフォン上乗せ予想を書いて寝た後(2004.2.17早朝)、ボーダフォンが「交渉の継続はもはや株主の最上の利益に適うものではないとの結論に達した」と発表し競りから下りた。途端にシンギュラーがAWE1株当たり$15総額$410億の現金支払いと債務引受け$60億の買収条件でAT&Tワイヤレスと基本合意したと発表した。買収後のシンギュラー加入数は約4,600万名と首位ベライズン・ワイヤレスの約3,750万名を抜きNo.1になる。

 今回の競合いでA.サリンVOD会長が最後に身を引いたのは、VZに買収費用を$110億余計に負担させたからという見方もあるが、(1)独禁規制の視点からAWE株式を取得するより先にVWZ持株を売るのは困る、(2)VZを丸ごと買収のうえ固定系事業を売却するのは煩わしいと選択を避けたのではないか。A.サリン会長は懸案のビベンディ・ユニバーサル携帯電話子会社SFR問題を先に決着させたいため「AWE取得価格が上がり過ぎたから」「経営好調な少数株式と不調な支配株式を交換するのに金は出せない」と決意したのだろう。現行合弁協定ではVZW売上高の'70%を親会社BA/VODに配当することになっており、VODは2003年に$10億受取った。現行協定は2005年3月に切れるので協定再交渉が行われる。VODはVZWを買い取る戦略と見られるが、BAも100%子会社としたい意図を隠していない。
 携帯電話市場の約80%を6社で分けている寡占で1社が統合されれば競争がら楽になり料金の下落が止まる筈だが、ディジタル革命が進行し無線通信が多様化している時さらに再編成が進むと見る者の方が多い。

168. 迷惑メール・ウイルス対策の第3段階(概要)

 電子メールの利用増大に伴い迷惑メール(未承諾の広告宣伝メール,unsolicited mail)やコンピュータ・ウイールス(computer virus, OSに不適切な動作をさせるウイルスプログラム)などの病理現象が拡大してきた。今や電子メールトラフィックの半分以上が迷惑メールとさえ言われ、添付ファイル付き電子メールを媒介にコンピュータ・ウイールスが世界中に広まっている。

 新種のコンピュータ・ウイールス「マイドウーム別名ノバーグまたはシャンガピ」が出現し(2004.1.26)、無償公開基本ソフトのリナックス使用メーカーを知的財産権侵害で訴えているソフトハウスSCOグループのサーバを攻撃する機能を100万以上のパソコンに感染させ一斉攻撃で同社サイトを接続不能にした。このマイドウームAと同種のマイドウームBは2月3日からマイクロソフト社(MS)のセンターを攻撃すると予告しMSは対策に追われ、SCOはサーバー復旧に努めてD.マクブライドCEOは犯人の手がかり情報の提供に対し報償金$25万を支払うと声明した。
 SCOとMSに的を絞った「動機」のあるウイールスに見え、熱烈なリナックス信者ではないかと疑われ、無償公開基本ソフト教祖k格のB.ペレンスは「我々は王道を行くものでありウイールス攻撃を嘆いている」と述べた。

 MSがOSの隙間を埋めてウイールスの侵入を防ぐ措置を講じ、パソコンのクロックが不正確で一斉攻撃がバラバラに始まったりで山場を無事越えたと思ったところ、ウインドウズのソースコード(基本設計図というべき開発情報)が流出していたことが明らかになり(2004.2.12)、急きょ調査の結果ウインドウズ2000とXPの一部と判明した。EU独禁訴訟の終決も近づくなかで知的財産を厳しく自己の管理下に置くMS手法が限界に達したと見る向きもある。

 再び新種のコンピュータ・ウイールス「マイドウームF」が登場し(2004.2.25)、MSワードやエクセルのファイルと蓄積した写真・映画データを破壊する機能でMSのほかアメリカレコード協会(RIAA)のサイトに一斉攻撃を始め、安全対策会社は再び送り手を識別できない電子メールや添付ファイルを開けるなと警告することになった。

 迷惑メール防止のフィルター開発に始まり、これを掻い潜るプログラムとイタチごっこを続けてきたコンピュータ安全対策業界も未だに決定打が打ち出せないでいる。

 では法的対応はと言えば米国では1998年以来の立法活動の結果「2003年未承諾ポルノ・マーケティング情報攻撃管理法が発効したが(2004.1.1)、迷惑メール・インターネット公共政策研究所)の「全国迷惑メール・法制会議」(2004.1.22開催)では「大学生など素人は法に従ってもプロは組織犯罪などとの結びつきを強め水面下に潜るだろう」「米法成立に伴いプロの迷惑メール送信者は国外で活動するだけ」などのコメントがあったが、出席者の大多数はまだ条文の意味を十分つかんでいなかった。焦点は法の構造がオプトアオウト規制(受信拒否者への再送信禁止)であり、オプトイン規則(予め受信を承諾した者だけに送信できる)になっていないため、規制圧力が弱いことにある。

 OECD(経済協力開発機構)は「迷惑メールは各国単独の問題ではなく世界的な課題である」と迷惑メール作業部会を開催し(2004.2.2-3)、各国夫々の努力が国際的協調戦略で補完され迷惑メールの国境を超えた挑戦に応じなければならないとした。

 このように第一段階の技術的対策も第二段階の法制的対策も有効でなかったため、今や経第三段階の済的対策の出番だとの見方がある。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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