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マンスリーフォーカス
No.47 June 2003

世界の通信企業の戦略提携図(2004年5月7日現在)

172. 情報通信サービス企業の新ラインナップ(概要)

 拡大欧州連合(EU)が発足した(2004.5.1)。現加盟15カ国合計の人口3億8,080万人,GDP E9兆2,958億に対し新規加盟10カ国は合計人口7,410万人、GDP E4,357億と小さいが、新規加盟10カ国の年平均GDP成長率は4%で現加盟国の年平均2%の2倍と潜在力は大きい。
ブラジル、ロシア、インド、中国の頭文字をとった「BRICs(ブリックス)」という造語が登場してきた。四カ国合計の国土面積は地球の陸地の3割、合計人口27億人は全世界の4割を占め、資源大国であるため、それぞれの代表企業が技術力・経営力に磨きをかければ影響力は計り知れない。WTO加盟時の自由化公約遂行に努める中国は2003年に一人当たりGDP$1000に達したばかりの途上国だが輸入額は世界第3位になった。ロシアのWTO加盟もそう遠くない。

 従来情報通信の動向を測定するのに、米国市場上場企業から情報通信サービスプロバイダーの株式時価総額上位20社を選び、途上国企業や親会社への従属性が強い企業は除いてきたが、上記環境変化に伴い途上国本拠企業と主要子会社も対象とすることとし、上位30社のリストを作成すると次表の通りである。

表1世界の情報通信サービスプロバイダーTOP30(2004.4.30現在)

 この表を見ると、移動系通信企業6社と移動系事業を連結している西欧固定系通信企業4社は順調で、メディア企業7社は浮き沈みがあることが分かる。マンスリーフォーカス169「ディズニーは買収攻勢にどう対処するか」で敵対的買収の予想表を報告したが、コムキャストがディズニー買収計画を白紙撤回したので(2004.28発表)、この表では両社を分離して表示してある。旧ベル系3社を含む固定系通信企業10社もパッとしないQwest Comm. Int'lの4月末は$71.2億)。2003年通年業績が発表された段階のマンスリーフォーカス165「固定系通信企業の将来は晴後曇り」では、2004年は2002年の減益傾向をはね返した勢いで2005年から始まる業績低下前の最後の最良の年になると報告したが、2004年第1四半期が終わってみると、IP電話サービスの暗い影は繰り上がってきたように思われる。

 インターネットより大きな影響をもたらすのは再生MCIである。米国長距離通信事業者第2位ワールドコムは2004年4月20日(火)午前6時に正式にMCI となった。連邦破産法第11条適用申請時(2000.7.26)$410億あった巨額債務を$60億に削減し従業員約7万名を約5万名に減らすなど3年半以上の合理化努力の間、大企業ユーザを一社も失わなかったことを誇りとし、今後売上高の80%を占める企業向けサービスに的を絞り、家庭向けも高密度都市地域中心に戦略的努力を続けるとする。身軽になったMCIがIP・無線通信に絞ってしかける競争のインパクトはかなり大きく、米国通信産業変質の一大要因となりそうである。

 思い切った合理化策を進めるMCI、それを追うベライズン・コミュニケーションズ、SBCコミュニケーションズ、ベルサウスなど旧ベル系電話会社の競争相手はAT&Tである。2003年通年業績が売上高$345.3億、フリーキャッシュフロー$53.5億、利益$18.6億だったAT&Tは、2004年第1四半期の売上高が対前年同期比11%減の$80億、利益が対前年同期比47%減の$3億という実績を記録した。長距離通信料金値下げ競争にによるもので、差し迫った返済期限到来債務はないものの1年以内に期限が来る債務が$23.15億ある。このように落ち目のAT&Tの株式時価総額は2002末の第20位から今第30位に下がったのである。

 米国と違って、西欧では移動系子会社を抱えた固定系通信企業の業績上昇が続いている。
テレコム・イタリアは2004年から2006年にかけて為替差益や資産処分を除く組織的成長の目標を売上高年率5%増、利払い・税金・償却前利益年率5.5%増としていたが、2004年第1四半期実績はこれを達成した。
固定系売上高がブロードバンンド販売前年同期比2倍の535,000名加入獲得により、前年同期比1.4%増の$52,3億を記録し、移動系も子会社テレコム・イタリア・モビレが12%増$42.4億と躍進し、グループの利払い・税金・償却前利益が1.7%増の$94.1億を記録したからである。2004年第1四半期末の債務総額は$374億で目標の2004年末$364億に近づいている。

 ドイツテレコムの2003年度グループ連結決算は2年連続赤字を脱して$15.6億の黒字に転換した(2004.3.10発表)。売上高は対前年度比4%増の$697億,利払い・税金・償却前利益は対前年度比12%増の$228億だった。2003年末の累積債務は200年末の$760億から$582億に減少。21004年末までに$487億に圧縮する計画である。

 フランス・テレコムの2004年第1四半期グループ業績は売上高が対前年同期比0.6%増の$17,1億、利払い・税金・償却前利益が対前年同期比4.3%増の$50.6億で営業利益は16.3%増の$30億であった(2004.4.29発表)。稼ぎ頭の移動通信子会社オレンジの売上高は対前年同期比9.9%増の$55.2億であった。フランス・テレコムは2005年まで年率3-5%の売上高成長を確認し、売上高に対するEBITDAマージン40%と期待する。

173. 中東欧の通信企業(概要)

 20004年5月1日に拡大されたEU(欧州連合)の新規加盟10カ国は、中東欧の8カ国と地中海の島国キプロスとマルタから成り、中東欧8カ国は1991年にヴィセグラードでEU加盟申請宣言を行った4カ国=ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー及びスロベニア、バルト3国=エストニア、ラトビア、リトアニアから成る。
 表2 EU新規加盟に見る通り、10カ国は大国から小国まで人口や経済力が違い、人口100人当り電話加入数で代表される普及状況が違う。

EU新規加盟

 ハンガリーは国営通信事業者マタフの民営化に当り、ドイツ・テレコムと米国アメリテック合弁の投資会社マジャールコムに1998年第3四半期に株式30%さらに1995年第4四半期に株式37%を売却した。従ってドイツ・テレコムが支配株主として拡充・ディジタル化計画を推進してきた。移動系通信事業は1990年10月から合弁会社ウェステルがサービスを提供しており、ディジタル(GSM)サービスは1994年4月からウェステル1900とパノンがサービス提供を行ってきた。最近ではマタフがブローバンド(ADSL)サービスを推進し、2003年実績10万加入、2004年計画20万加入増の予定である。マタフはウェステルをT-Mobileハンガリーに改称した。
EUは通信自由化を1987年以来段階的に進めてきた。今回の拡大に当り従来の経験を集大成し裁量余地を増やした新規加盟国向け規制枠組みを検討したが、ハンガリー政府は既に2002年新電気通信法で事業者選択・番号ポータビリティを制度化している。

 ポーランド政府は1998年から1999年にかけテレコム・ポーランド(TPSA)の民営化を進めてきた。フランス・テレコムとポーランドの金融会社の合弁クルセズイックがTPSA株式47.5%を取得済みのところ、最近TPSA政府持株4%を買い増しして支配株主になりたいFTとこれ機に国庫収入増大を図る政府が値段の交渉で睨み合っている。

 スウェーデンのテリアがフィンランドのソネラを買収したテリアソネラはバルト3国・ロシア・トルコ等への進出に努めている。既にエストニアの既存通信事業者エスティ・テレコムの株式47.5%を取得済みで、発行済み株式を5億ユーロ$6.1億まで現金で買収することを提案した(2004.4.15オファー)。ET株式27.4%を保有するエストニア財務大臣は「111.30エストニア クローン($9.84)の値付けは安過ぎる。希望価格は125エストニア クローン($11)」と述べ、対立している。

174. グーグルの挑戦(概要)

 インターネット検索ウェブを提供するシリコンバレーの非上場企業グーグルの新規株式公開( IPO)が注目を集めている。
共同創始者ラリー・ページ(31才)とセルゲイ・ブリン(30才)、雇われCEOエリックE.シュミット(48才)によるインターネット検索サービスが2002年半ばに黒字化していたからで、もともと1998年インターネット検索サービスが盛んになり始めた時スタンフォード大学コンピュータ科学研究所大学院生だった二人が高度な検索エンジン技術を考案して創業し、最初はヤフーのスポンサー付き広告に技術提供していたのを情況再帰式広告に改め、ノベルCEOだったシュミットを雇い、それぞれCEOだったページは製品担当COO、会長だったブリンは技術担当COOになってトロイカ経営で驀進してきた。多数の著名人が出資していて、2003年業績は売上高前年比2.8倍の$9.6億、純益前年比6%増の$1.4億と言っても、情報通・アナリスト・経済紙の観測に過ぎない。確かことはSEC(証券取引委員会)に提出した(2004.4.29登録)IPO計画書に始まる。

 計画書の書き出しに「グーグルはありきたりの会社ではないし、普通の会社になるつもりはない」とあるが、確かに尋常な企業ではない。
第一に異例なことは、創始者2名が特に希望せず資金需要がないのに公開する。IPOに伴う資金調達額は$27.2億と見込まれ、米国株式公開史上15番目、インターネット企業では1995年に公開で$1.4億を調達したネットスケープ・コミュニケーションズを超え過去最高となり、2004年利益は$6億と見込まれるが、差し迫った資金需要がない。グーグル創業以来の後援ベンチャーキャピタル2社(1)クライナー・パーキンス・コウフィールド&バイアース、(2)セコイヤ・キャピタルに強く勧められ早期IPOに踏み切ったようである。成功したベンチャーから投資・利潤を回収したいベンチャーキャピタルは分かるとして創始者が利他主義で応じるのは不思議である。マイクロソフトやインテルの例を見ても儲かる非上場企業は成る可く長期間公開しない方が得である。しかもバブル崩壊後のサベナーオックスレー法などに伴う規制リスク増大でIT企業は手厚い利益を用意する必要がある。

 第二の異例は、公開に伴う公募増資に競売方式を採用することである。直近の通年売上高が$22億だったネット競売最大手のイーベイの公開時時価総額が$537億、年商$16億のポータル最大手ヤフーの時価総額が$370億だったのに対し、グーグルの公開時時価総額は$250億と予想される。この規模の案件では異例の競売、しかも割り勘式競売方式を採用する。これは最高値から始めて言い値を下げ予定株式が尽きた点で止め、全ての競り手がその最安値で支払う方式である。グーグルによれば、競り上げて行きこれ以上は言い値がでない点で止める英国方式よりも公正で透明である。

 第三に株式公開後市場に出回る株の売買を通じて仕掛けられる敵対的買収(TOB)に対する予防策である。グーグルはIPO計画書に「企業統治を確保する長期的観点に立つ」ことを謳い、現在の株主つまり創始者など経営陣に新規株主つまり一般株主よりも多数の議決権を与えると明記している。グーグルはIPO手続を投資銀行2社、モルガン・スタンレーとクレディ・スイス・ファースト・ボストン(CSFB)に委託しているが、株式構成はW.バフェットのアドバイスに従い、その金融会社バークシャー・ハサウェイの株主コミュニケーションをモデルにして一般投資家向けウェブ「Google IPO Central}を設置した。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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