ホーム > レポート > マンスリーフォーカス >
マンスリーフォーカス
No.60 July 2004

世界の通信企業の戦略提携図(2004年7月5日現在)

178. 6・9以降の米国電気通信産業(概要)

 2004年6月は世界経済をリードする米国の金利政策転換(2004.6.30)とイラク再建第一歩となるべき主権移譲で記憶されるべき月だが、米国の電気通信産業にとっては伝統的電話網技術に根差す規制の枠組みに終止符が打たれた月として歴史に残るだろう。

 米国電気通信規制の枠組みは50州から成る連邦国家と三権分立制の国柄のため複雑である。アナログ電話網にコンピュータ間通信が登場し、端末多様化・インターネット/マルチメディア登場・ディジタル化など加速する技術革新に対応する既存事業者と新規参入者の争いが連邦/州行政委員会・裁判所・議会の場で繰広げられてきた。

 8年前米連邦議会はAT&T分割により誕生したベル系地方電話会社(RHC俗称ベビー・ベル)の市内電話市場開放計画を定めた。1996年連邦通信法改正に基づく市内相互接続に関するFCC規則が、RHCに対してAT&TやMCIなど長距離通信事業者に市内アクセス回線の別建て料金による提供義務を課すとともに、市内市場が開放されたらRHCに長距離通信市場参入を認めるとした。この卸売料金は投資コストではなく長期増分コスト(将来利用が増えた時の変動分)によるとしたため一般通話料の17-25%割引になる。低廉な回線再販売により十分なユーザを獲得すれば長距離事業者は自前市内網を構築すると見たのである。しかし、州公益事業委員会の管轄権侵害提訴とベビー・ベルの料金算定基準無効提訴によりFCC規則の裁判が続き市内・長距離両陣営の対決は抜き差しならなくなった。
 3度目のFCC新市内競争規則(2003.3.20制定)も連邦控訴裁が一部無効でFCCに差し戻したところ、FCC委員長はとくと思案の末、判決に従って新暫定規則を年末までに作成、最高裁には上告しないと発表した。長距離事業者の利益を代表し判決時点で上告声明を出したFCCマーティン共和党委員と民主党2委員も同意した。FCCパウウェル委員長は「新暫定規則の制定後までRHCが卸売料金(UNE)を値上げしないよう自重することを希望する」と述べた。

 アナリストによれば、ベライズン・SBCコミュニケーションズ・ベルサウス・クエストインタナショナルのRHC社は2005年には卸売料金を値上げでき、長距離事業者に奪われた約1,900万加入の20-30%を取戻し、向う3年間に$30億の増収が期待できる。一方、長距離・市内通信パッケージ料金の競争力を失うAT&Tは住宅用市場から退き大規模ビジネス確保に徹しなければならない。2004年第1四半期利益が$3億だったAT&Tは向う2年間の返済期限到来長期債務は$2.43億だが、2006年には期限到来債務が$17億に跳ね上がるので、格付け業者の注目を集めている

表1 世界の情報通信サービスプロバイダーTop30(2004.6.30現在)

 世界の情報通信サービスプロバイダーTop30(2004.6.30現在)

179.ブラジルの電気通信産業(概要)

 ブラジルは1889年の共和制確立時から連邦国家であり州・準州が事業の認可権を持っていた。1962年電気通信法により電話事業を国の管理下におき再編成を企てた時約600社の外資系電話会社があったという。

 ブラジル政府は1965年にエンブラテルを設立、約600社をほぼ州・準州ごとに一社に収斂させて1969年にエンブラテルの国際通信一元的運用を開始、1972年に地域運用会社27社とエンブラテルを統合する持株会社テレブラスを設立した。エンブラテルは国際・国内長距離通信の独占体、27運用会社は地域独占であった。
1997年一般電気通信法により規制機関アナテル(ANATEL)が創設され、民営化の枠組みが決まった。テレブラスの資本構成は当面創設時のまま(政府出資52.3%、民間金融機関47.7%)、長距離・国際通信Embratel・地域通信再編成3社・移動通信再編成8社・合計12社の民営化は競争入札によるとされた。結果は大要次の通り。

エンブラテル 政府持株を公開、米国長距離通信事業者MCIが議決権の52%(資本金の19%)を取得し経営権を握った。MCIがワールドコムとなり不正経理事件で倒産後その帰属が注目されたが、最近メキシコのテルメックスによる$4億買収が破産法裁判所で承認された。
地域通信区分1
(リオ・デ・ジャネイロ)
16社を統合して民間資本のテレマール・グループを創設。
地域区分2(中西部)  9事業者を統合し民間資本のブラジル・テレコムを創設。
地域区分3(サンパウロ) テレフォニカとポルトガル・テレコムなどによるコンソーシアムがテレスプを競落したが、今はテレフォニカ資本になっ            ている。
移動通信事業者8社 ほぼ地域通信企業系列でテレコム・イタリア系もある。

 1999年以降上記営業区分ごとに新参入事業者を認可し、移動系は850MHzに1850MHzも加え事業者を増やした結果2004年3月末で36社に達した。
2003年末の固定電話回線数は対前年比16.6%増の4,524万で対人口普及率24.8%。移動通信加入数は対前年比33%増の4,637万加入とさらに目覚ましく、規制緩和・競争促進が実を結びつつある。

180. イスラエルの電気通信産業(概要)

 電気通信は国境線を境に国内通信と国際通信に分かれ通信主権に基づき規制の枠組みや業態が選択される。主権移譲の問題から遅れているイラクの通信復興と同様、国境線の画定が遅いイスラエル・パレスティナの電気通信は独特の環境に支配されている。
 100年間の紛争地域に存在するイスラエルが国土拡大中のパレスティナを内包している現状は、地域インフラである電気通信にとってエキセントリックである。
イスラエルは1984年の規制・事業分離で生まれた通信企業ベゼックの民営化準備中で、飛地で不定形のサービス地域を持つパレスティナは固定系通信事業パルテルが1999年夏設立されたものの長距離・国際通信や請求書発行業務はベゼック依存で発足されその独立が課題である。移動通信はパルテル子会社"ジャッワル”パレスティナ・セルラー通信により開始された

表2 両国電気通信の現状

(出所)人口、GDPはEU統計局 電話はITU Birth of Broadband Statistical Annex
国名 人口 GDP 電話加入数(固定電話回線数+携帯電話加入数(単位 1000) 人口100人当り電話加入数
2002年 万人 2002年US$億 2002年 2002年
イスラエル
Israel
664 1,025 9,434 142.17
パレスティナ
西岸・ガザ
930
(346)
50.9 618 17.90

 上記ITU統計ではパレスティナの02年末電話回線数は固定系298,000、移動系320,000で、プリペイド式携帯電話導入いらい移動系が伸びているようである。ウェブを見るとジャッワルは「50万以上利用者に対する350無線局を目標とする拡充計画の第3段階(42万利用者)を実施中」「パレスティナ社会の中核」「イスラエル事業者の不法な侵入に対抗してサービス提供中」「世界63カ国の123GSM事業者とローミング協定を結んでいる」としているが、経営の現状は説明されていない。

 イスラエルは高所得国として中近東北アフリカで最も電気通信が普及した国であり、大多数の国が国営独占や複占である地域で例外的に通信自由化を段階的に進めてきた。

 総合通信企業ベゼックが誕生して間もなく、端末機器市場の自由化に伴い無線機器製造業者モトローラ(MOT)・ベゼック折半出資のペレポンがアナログ式携帯電話機販売を始めた(1986年)のに続き、1992年ベゼック法改正で携帯電話サービス市場が開放され新ペレポン、セルコム、パートナー、MIRSと2001年2月までに4事業者が認可された。4社競争でイスラエルの移動通信は急速に成長したが、2004年に入って伸びが鈍り始め、通信省は2GT/3G免許の追加付与により成長させたい意向である。移動系通信企業への出資者は、ベゼックがエルサレム証券取引所に上場されていることでもあり、イスラエ割引銀行グループ・ベゼック通信関係OB率いるグループ・米国投資ファンドなどが中心になっている。

 ベゼックの100%子会社ベゼック・インタナショナルが独占してきた長距離・国際通信にもゴールデン・ラインズとバラックが認可された(1997年7月)。

 インターネットは利用者数約200万、ビジネス普及率60%、家庭普及率40%に達し、ブロードバンドはADSL約10万、ケーブルモデム約1.5万でる。ISPは小事業者約60、大手は4-5社である。

 ケーブルTVはエルサレムのゴールデン・チャンネルズ、ハイファのマタフ、テルアビブのテヴェルと地域別3事業者が早くから事業を展開し、全国の92%をカバー、営業区域内世帯の約70%約110万家庭が加入してきた。通信省は衛星TV放送による多チャンネル化でTV市場への競争導入を企画し(2000年7月)、直接衛星放送(DBS)会社イエスに対するベゼック出資率(49.8%)を60%に引上げて仕切らせようとしたが、目下独禁当局の反対に会って調整中である。

 ベゼック誕生以来20年ヨーロッパ形自由化と移動子会社の稼ぎにより2004年3月末の時価総額はほぼ$28億を記録した。イスラエル政府は2005年までにベゼック政府持株約40%を放出して$10億国庫収入を確保しつつ最後に残った国内固定系競争導入で自由化達完成を目論み、株式の小幅放出と長期社債発行を平行する戦術を進めてきた。ところが2003年7月の株式3.3%放出や同年12月の5.25%放出は完売したものの、2004年5月の5.67%放出には政治不安から外資の買い手がつかなかった。米国ファンドを当にして金融市場を注視してきたイスラエルに波紋が生まれた。一方、IP電話や多チャンネルTVのシェア拡大のためケーブルTV3社の大合同の動きも始まり、治安回復の見通し難もあって今後の展開が注目される。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。