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マンスリーフォーカス
No.61 June 2004

世界の通信企業の戦略提携図(2004年8月4日現在)

181. ヴァーチャル移動通信大流行の兆しか?(概要)

エコノミスト最近号(2004.7.9)に「ヴァーチャルであることの徳」という記事が載っている。ヴァーチャル仮想移動体通信事業(VMNO)が英国で生まれたのは15年も前のことなのに今頃大流行とは何を言ってるのか。

 無線通信サービスは音声・データ・画像などの情報を伝えるネットワーク、通信路を構成する無線周波数、利用者確認・課金等の付帯を含むサービスなどから成る。VMNOは全てをアウトソースする再販売サービス業者から加入者確認カード(Subscriber Identity Module card)を発行し、自己の網コードを持ち、自己の交換局を持つ事業者まで各種類があり、携帯端末の開発・提供方法の工夫や通信サービス料金のプリペイド化・パッケージ化に及ぶ要素の組合せ方がある。しかし、何といっても消費者向けブランドであり、著名な者は高額な先行投資せずに新規参入できるのが特徴である。

 MVNOの先駆者ヴァージン・モバイルは学生誌創刊・レコード通信販売から身を起したR.ブランソンが航空・鉄道・金融・ソフトドリンク・ワイン・音楽・レジャー・ブライダルなど各種サービス業を展開するなかでドイツテレコム(DT)と折半出資で設立したVM 英国に始まる。DT子会社ワン・ツー・ワン(後にT-モバイルと改称)の通信網とVMブランドを組合せ若年層中心に汎欧的に拡大し最近410万加入に達した。次はオーストラリアでC&Wの携帯電話子会社C&Wオプタスと提携し(2000年10月)、2年後折半出資のVMオーストラリアを設立した。米国ではスプリントと折半出資でVMU.S.Aを設立し(2001.10.5合意)、その無線網利用により2002年7月に全国提供を達成すると9ヶ月後(2003.4.21)に50万加入、さらに1年後(2004.3.15)1,750万加入を超えるなど高成長中である。
こうした動きを見てセブン・イレブンはプリペイド・ワイヤレス・カードの販売を軸にVMNOに参入しシンギュラー、T-モバイル、AT&Tワイアレス、トラックフォンなどを販売するほか、セブン・イレブン印カメラ付きケータイを売っている。トラックフォンとは民営化中のメキシコPTT(TMX)の移動通信子会社アメリカ・モビルがスペイン系を対象に始めたMVNOで、ウェブがスペイン語でスペイン語支援サービスもあるため1996年サービス開始以来既に200万加入を集めている。
また米国VMNOとしてはオハイオ州の中小企業向け音声・データ専門業者DBSコミュニケーションズが都市黒人系対象に始めている。少数派向けビジネスは有望であり、中国系対象に米国内MVNO、対中国安値国際通話、中国語による支援サービスが始まるのは時間の問題である。

 大手ではCATV加入者1,100万を持つタイム・ワーナー・ケーブルがスプリントやMCIと提携してIP電話サービス計画を発表したが(2003年末)、このディジタル・フォンに続きVMNOも計画中と見られる。世界最大の小売業ウォルマートや最大の娯楽企業ディズニーも移動通信サービスに参入するだろう。
ヨーロッパでは英国最大手スーパーのテスコが大手携帯電話会社OOMと提携してテスコ・モバイル・フォンを提供中で、店舗と連動したポイント制による通信料割引を軸に開始以来半年で25万加入を超えた。

 電気通信企業とVMNOは移動通信市場成熟化を前に敵対関係から共棲関係に変ってきた。利用が伸び悩む通信トラフィックの余力を卸売価格でVMNOが購入するのは移動通信インフラ提供者として認められることである。規制当局がネットワーク開放を促進しなくても市場自身がVMNOを惹き付けている。今やVMNOはマーケティングの一形態であり、ファッション関係や消費者製品から割引航空サービス業者まで、ブランド・プレミアコンテンツ・確固たる顧客ベースを持つ者はすべてVMNO参入候補である。とは言え、先進国市場ではVMNOはそろそろ飽和に向かっており成功の打率は2-3割に止まる。

182. ソニー・ベルテルスマンの音楽事業統合(概要)

 ソニーとドイツメディア最大手ベルテルスマンの2003年12月合意に基づく音楽事業統合を欧州委員会(EC)と米連邦取引委員会(FTC)が独禁法上問題がないと相次いで承認した(EC:2004.7.20、FTC同7.28)。統合会社ソニーBMGは直ちに設立された(2004.8.5)。

 ソニーの2004年度第1四半期連結決算(2004.7.28発表)の音楽部門には、米国法人SMEIのドルベース業績を円換算した数値と日本法人 SMEJの円ベース業績を連結した売上高・利益が記されている。売上高はSMEI71%とSMEJ29%で構成され、SMEIはドルベース対前年同期比8%増だが前年同期比7%増のSMEJとの連結売上高はは対前年同期比1.5%増の¥1.188億、営業損失は対前年同期の¥60億が¥11億に削減されている。音楽事業統合の双務協定署名とEC承認が付記されている。

 一方、ベルテルスマンは「EC承認を歓迎する」とのプレスレリースを発表した(2004.7.19)。ベルテルスマンは非上場で部門別業績は発表しないものの2004年第1四半期業績(2004.5.5発表)は、総売上高が対前年同期比3.7%減のE37.9億でも科学雑誌ベルテルスマン・シュプリンガーの売却に伴う特別償却や為替変動を除くと3%増になり、前年同期に出した営業赤字E7,500万はE1.11億の黒字となっている。

 音楽事業統合については、ソニーとベルテルスマンは両社のレコード音楽事業を合弁会社(JV)に統合する企画書を交換(2003.11.6)の上、(1)両社折半出資のソニーBMGをニューヨークに置く、(2)SMEIの音楽出版・CD製造・物理的流通とSMEJは統合から除く、(3)新会社の取締役会は両社同数としG.ティーレン現BMG会長兼CEOを会長としA.ラック現SMEI会長兼CEOとすると定めた。
BMGはベルテルスマン100%出資のニューヨーク登記米国法人で、日本のソニーとドイツのベルテルスマンが切り出す音楽事業統合でありながら、世界のエンターテインメントの都で音楽ビジネスをしてきた勢力の統合なので、EC/FTCの承認得次第手続できた。

 ソニーBMGは世界の音楽市場が縮小するなかでの合理化策で人件費などのコスト削減を狙っているが、音楽事業切り出した後の両社は、ベルテルスマンが比較的堅実な書籍・雑誌出版やTVネットワークRTL中心の安定経営指向であるのに対し、ソニーは次期半導体開発、デジタル家電・ゲームの販売競争、映像ソフト資産の確保など課題が多い。

 世界音楽市場のソニーとBMGのシェアを単純に合算したソニーBMGのシェアは、2003年度25.1%、2002年度23.4%となる。統合の影響が大きいので、ECに却下され統合を中止したEMIとユニバーサルは早速統合交渉を再開した。しかし、統合してコスト削減しただけでは音楽ビジネスの低迷は挽回できない。ヒット楽曲の創造が肝心で、大手も独立系の歌手育成機能に見習う必要もある。

 欧米ではアップルの有料ネット配信サービス「アイチューンズ・ミュージック・ストア(iTMS)」と携帯オーディオプレーヤ「アイポッド(iPOD)」が若者の音楽の買い方を変えてしまった。1曲99セントの低価格で好きな楽曲を入手できる簡便さが受け入れられ、ハードで稼ぐビジネスモデルを見習う動きが現れて、IT業界からの新規参入者が音楽市場の構造を転換した。

 ソニーは発売25周年累計3.4億台に達したウォークマンにあやかり携帯型音楽プレヤー「ネットワークウォークマン」を発売した。僅か110グラムのプレヤーがハードディスク容量20Gバイトで最大13,000曲記録できる。ブロードバンド、マルチメディア時代に音楽デバイスに気配りして、ビジネスウィーク誌2004年グローバル1000社の第149位時価総額$338億のメディアの巨人ソニーが2003年売上高$678億10%程度の音楽事業に力を入れるのである。

183. マイクロソフトーゆるぎないグローバル企業(概要)

 マイクロソフト(MS)の2004年第4四半期及び2004年通期業績発表は、収益に対するウォール街の反応が「最近どうだったか」でなく「次にどうなるか」で決まることを示した。MSの株価は威勢のいい2004年度業績よりも泣きのはいった2005年度見通しに反応した。

 MSが2004年7月22日に発表した2004年第4四半期業績は、売上高は対前年同期比15%増の$92.9億、最終利益は対前年同期比81%増の$26.9億だった。ソフトウエア各社の売上高が予想を下回ったなかでMSは7部門とも伸びて目標収入を達成した。最終利益は前年同期比較では、前年に対AOLネットスケープ損害賠償訴訟和解費用があり、こうした特殊要因を除くと19.4%の増益になる。
2004年通期業績は、売上高が対前年比14%増の$368.4億、最終利益が対前年比8.4%増の$81.7億であった。
ところが同時発表の2005年6月通期の業績予測で、売上高は$384億-$388億と前回4月予測より$6億の上方修正だが、営業利益$37億-$38億で、特殊要因を除く1株当り利益は$1.05-$1.08と前回4月予測の$1.16-$1.18の下方修正となったところ、MS株価は敏感に反応して7セント安、2.02%下がった。

 問題は今後の成長戦略である。MSの稼ぎ頭ウィンドウズOSライセンス販売の成長率は年5-7%、オフィス製品の伸びが年率1-2%、その他のサーバー関係もそれより少し良い程度で、新成長分野の発見が重要である。MSは研究開発投資が未来を創ると強調しながら、実際は人まね技術依存、有望小企業を高値で買収する戦略で拡大したと評され、この4年間にも$50億で46社を買収している。
S.バルマーCEO(MS CEO Steve Ballmer)は成長分野の例としてXboxゲーム・コンソール、MSNインターネット、小企業向けバックオフィス・ソフト、移動通信用OSを上げ「製品ポートフォリオを拡げるため押して押して押して押して押しまくる」とする。

 1998年5月に米国司法省が提訴したマイクロソフト(MS)独禁訴訟は、司法省とMSの和解(ワシントン連邦地裁2001.11.6承認)でほぼ決着した後も、訴訟継続組特にマサチューセッツ州とコンピュータ業界団体は最後までワシントン連邦高裁に上訴して争ってきたが、和解内容は「公共の利益に合致する」としたた事実上の棄却(2004.6.30判断)により終結した。マサチューセッツ州は最高裁へ上告することも可能だが、高裁判事6名全員一致の判断のため断念し「消費者や米国経済にとって悪いニュース」と声明を出したものである。

 一方、欧州連合(EU)欧州委員会(EC)は米国司法省と同じ頃から調査を始めたてマイクロソフト(MS)のEC競争法違反に対し、加盟15カ国独禁当局の承認を得て(1)制裁金約5億ユーロ($6.15億の支払い命令,(2)音楽・映像再生ソフト「メディア・プレーヤー」を搭載しない基本ソフト(OS)の出荷とサーバーソフト技術情報の一部公開を含む是正措置を決定した(2004.3.24)。
EU法制では競争関連EC決定に対する異議はEC裁判所に附置された第一審裁判所で審理され、その上告審が最終的にEC裁判所で行われる。MSは第一審裁判所にEC制裁に対する異議を申し立て(2004.6.7)、予備審問(2004.7.27開催)において制裁の執行停止を求めた。聴聞会の日程は9月30日、10月1日と予定され、実施結果により第2回以降が定められる。第一審裁判所の判決が下されるまで3年程度かかり上告されればさらに時間がかかる。

 米国司法省はMSの次世代ウィンドウズOSロングホーンについて予備調査を開始した(2004.7.20)。開発の遅れによりロングホーン発売は2006年-2007年と言われるが、既成事実になる前に取り掛かる趣旨である。2007年は現行和解審決の有効期限であり、もはやMS独禁訴訟はノンストップに見える。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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