ホーム > レポート > マンスリーフォーカス > |
187.中国通信産業の戦略課題(概要)中国の通信自由化はWT加盟問題と連動して来た。中国の経済発展には外資導入・輸出振興が必要でありWTO加盟には貿易自由化が必須だったが、特に通信分野については基本電話サービス自由化が必要条件であった。 天安門事件当時の李鵬首相の副首相として又江沢民政権の首相として、朱鎔基政治局常務委員は経済改革・貿易自由化を推進してWTO加盟交渉をまとめ上げ、携帯電話市場の開放や国営電話事業「中国電信」の分割民営化を推進した。 1994 年に行政・事業分離で誕生した中国電信公社は外資導入のため移動通信企業「中国電信(香港)(CHL)」を設立・上場したが、公社分割民営化に伴い「中国移動通信集団(CMCC)」が誕生したので間に「中国移動通信(China MobileGroup Limited)をはさめた。複雑な生まれのCHLは先行者の利益により今や年間利益$161.1億、利益率31%、年間収入$203.4億・増加率9.1%、時価総額$611億(世界の情報通信サービスプロバイダー第12位)という好業績を上げている。 1994年には電子工業部・電力工業部・鉄道部・国有企業13社合弁による「中国聯合通信集団」が長距離固定通信に参入し、CHLを追って移動通信子会社「中国聯合通信( CHU)」を設立・上場した。 CHUの業績は年間利益$59.5億、利益率12.2%、年間収入90.7億、増加率36%、時価総額$101.3億(世界の情報通信サービスプロバイダー上位30未満)と、親会社の力不足・GSM/CDMA二重投資によりまだ輝いていない。 南北分割により南部21省市区と社名を継承(2002年5月)上場(2002年11月)した中国電気通信(CHA)の業績は、年間利益$104.6億、利益率28%、年間収入$150.5億・増加率56%、時価総額$267.5億(世界の情報通信サービスプロバイダー第26位)と良い。(1)北部11省市区固定通信事業、(2)鉄道部・上海市・ラジオ映画テレビ総局・科学院合弁光通信企業「中国網絡通信」(3)電子工業部によるデータ通信企業「吉通通信の3社を合わせた「中国網絡通信集団」は経営統合・事業効率化・設備拡充を進めてきて今上場準備中である。 こうして中国の通信産業政策は成功したと言える。朱鎔基首相の調整・交渉能力にもよるが、「そこそこの料金で使える近代通信が経済発展に不可欠」と信じた中国政府が呉基伝情報産業大臣の下、ノキア、モトローラ、ジーメンスなど通信機器メーカーの外資・外国技術に市場を開放する一方、華為技術、 寧波波導など国内メーカーを育成した。数次にわたる分割再編成で競争導入というよりも政府が競争を管理した。固定通信では中国電気通信に豊かな南部を与え、中国網絡通信には貧しい北部と埋め合わせにブロードバンドを与えた。移動通信ではCHL/CHU全国2社の競争を認め、香港のような6社競争はネットワークの発展を損うとしたのである。中国移動通信政策の成功はインドと比べるとはっきりする。中国の人口13億に携帯電話3億5,000万、インドの人口10億に携帯電話4000万である。 しかし胡錦濤政権温家宝内閣発足に伴い党務のベテランだが市場経験のない王旭東情報産業大臣が就任してから、次世代携帯電話(3G)免許付与方式の決定が遅れ出し、政府出資の収益性確保と各戸に電話をと言う通信政策が両立し難くなった。 携帯電話需要全体の成長が鈍り出し、ディジタル化に伴う製品構成特にサーバー機器の高度化に活路を求める外資系メーカーを遮るように中国メーカーが技術力を高めていき時特許権関係が問題になった。世界最大のネットワーク機器事業者シスコ・システムズがソースコードなどソフトウエアのコピー、関連資料の盗写、特許権侵害で華為技術を訴えた事件が、華為製ルーターの或るモジュールのコードがCSCO製に酷似するため訴えられたと思うが除去したとの説明により華為製品販売禁止請求に変った後、第三者による比較調査の間差止めに変わったあげく)、最終的に関係部分(利用者が華為製品を好みの構成にするよう操作する入力システム)の修正で落着した。この時間とコストがかかった特許権紛争は中国市場を大切にしたい米国メーカーと世界市場に進出したい中国メーカーの双方の欲求が良く表れており、華為技術が立派な先進国メーカーに成長した経緯を示している。 188. 真に意義ある中国革命はこれから(概要) 中国共産党第十六期中央委員会第四回全体会議(四中全会)で党中央軍事委員会の江沢民主席が辞任し後任に胡錦濤国家主席が選出された。江沢民党主席は同時に中華人民共和国中央軍事委員会主席でもあり、形式的には来春の全国人民代表大会(全人大)まで任期が残るが、実質的には胡錦濤氏が党・国・軍の三権を掌握した(2004年9月)。 胡錦濤政権温家宝内閣になっても公序良俗違反・反体制情報取締り中心の情報管理の基本に変わりはないが、(1)インターネット・カフェが益々盛んになったこと、(2)反テロ対策が必要になったこと、(3)携帯電話からのアクセスが増えたことなど環境変化への対応が行われている。インターネット利用の現状は後に述べるが、最近の中国青年インターネット協会調査によれば、現在インターネット・カフェで働く従業員は約91万名、関連業務従事者約60万名だが稼ぎが少ないのでまだ儲けには成っていない。 国務院令第195号「コンピュータ通信ネットワークの国際接続に関する暫定管理規定」により直接国際接続するネットワーク「国際相互連結網」に監督責任を負わせてきた。 言論出版に自由など政治的表現の自由は人民共和国でも尊重されるべきもの、自由で暮しやすい社会を創る中国革命の意義が問われる。 中国インターネット情報センター(CNNIC)の『中国インターネット発展状況統計』(第14次報告)によれば、2004年7月現在中国のインターネットの概要は以下の通り。
189. ソニーのメディア事業拡大戦略(概要)1990年代までグローバル化・ディジタル化・情報通信自由化に伴いメガメディア買収・合併が繰り返されバブル崩壊後下火になっていたが、近年再び音楽・映画・TV番組制作の統合と放送網・CATV・衛星・インターネットによる流通を狙う世界八大メディアのM&Aが盛んになってきた。2004年春米国CATV最大手のコムキャストはメガメディ米国第3位のウォルト・ディズニー社の買収を提案して断られ株式公開買付(TOB)を発表したが(2004.2.11)、取締役会が拒否M.D.アイズナー擁護を決議したため白紙撤回した(2004,4.28発表)。八大メディアで唯一の機器製造・メデイア複合企業であるソニーは2003年以来コンテンツ・音楽事業再強化を検討してきて、まずベルテルスマンとの音楽事業統合に成功し(2003年12月合意、2004年8月実施)、今回米国老舗映画会社MGM買収を発表した(2004.9.13合意)。 MGM社は1924年創業のグローバル娯楽コンテンツ企業で時価総額$27.7億、年間収入$18.7億・増加率13.8%、年間利益$9億、利益率2.28%の小企業だが、劇映画ソフト約4,000・TV番組ストーリー約10,400及び3映画子会社を持ち、MGMネットワークを通じて世界100カ国の視聴者に配信する権利を保有している。 ソニーの2003年度業績は部門別売上高対前年度比がエレクトロニクス4.7%増、ゲーム19.5%減、音楽5.0%減、映画5.8%減、金融サービス11.1%増、その他3.4%増で全体として横ばい(0.3%増)、合計営業利益35.1%減と芳しくないもので、2002年度業績の落ち込みで株価が急落したショックから立ち直れなかった、2004年度業績予想ではエレクトロニクス部門中心の合理化により営業利益62%増を目標としたが、2004年度第1四半期業績も全体として売上高対前年同期比0.5%増、営業利益41.4%減と業績改善はまだ見えない。こうした環境下のMGM買収は、そのソフト資産を15年前に買収したコロンビア映画ソフトと合わせ全ハリウッド映画ソフトの40%に達するコンテンツの優位を、CATVやインターネットによる映画配信に生かすだけでなく次世代光ディスクでの事業展開も視野に入れハード拡販との相乗効果も期待する戦略である。従ってソフト配信ネットワークを手当てする必要もあれば、苦しい時の買収作戦として現金支出を抑える必要もある。 基本合意「買収総額$50億以内・ソニー出資$3億」を出井会長が承認した(2004.9.13)後、最終的に米国ソニー並びに提携投資会社の買収連合とMGM社は「投資投資グループがMGM1株当り$12.00でMGM株式を買収し、$20億のMGM社債務を引き受ける」覚書を結んだ(2004.9.23発表)。その概要は次の通り。
MGM取締役会が承認した上記買収条件はMGM株主総会、各種規制手続に付される。買収手続は2005年半ばに完了するだろう。 基本合意(2004.9.13)の後、ソニー・買収パートナー・MGM3社覚書(2004.10.23)前に、ソニーとコムキャストはソニー・MGMコンテンツをコムキャストのVODプラットフォーム及びケーブルTV網を通じて配給する秘密協定を結んでいた(2004.10.15)。 コムキャストは2004年3月末現在2,150万加入を擁する米国No.1のCATV事業者で、No2 1,050万加入のタイムワーナー・ケーブル、No.3 660万加入のコックス・コミュニケーションズ、No.4 654万加入のチャーター・コミュニケーションズなどを引離しているものの、最近No.5アデルフィア・コミュニケーションズの破産身売り再編成の波が寄せ、視聴料と広告収入で確実に稼いできたCATV業界もますます現状に安住できなくなってきた。 コムキャストの2004年9月現在の業績は、時価総額4653.7億、年間収入$192.6億・増加率47.3%、年間利益$113.1億、利益率47.3%であり、ブロードバンド化を終えてケーブルモデムの双方向機能を生かすインターネットVODを実現したいとコンテンツ事業進出に燃えている。コンテンツ流通競争ではCATV業界よりもエコスター、ディレクTVなど衛星放送事業がライバルだが、衛星放送に出来ないVODで競争優位に立ちたいのである。ディズニー買収に失敗したコムキャストに持ち込まれたMGM買収共同作戦は渡りに船と言える。MGM社買収折衝の詰めで米国ソニーと3投資会社幹部がコムキャストB.ロバーツ会長兼CEOの別荘に集まった時、株式買取り価格の引上げと破談に備えた保証金$1.5億上積みに最も積極的だったのはロバーツ会長と言われる。 |
<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授) 編集室宛 nl@icr.co.jp |
▲このページのトップへ
|
InfoComニューズレター |
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。 InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。 |