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マンスリーフォーカス
No.78 January 2006

世界の通信企業の戦略提携図(2006年1月17日現在)

232. 記録破りの2006年国際家電見本市(概要)

 国際政治経済分野ではグローバル化の進展と地域圏の構造変化、金融・産業分野では新成長傾向、情報通信/文化面ではネットワーク・メディア融合が見込まれる2006年年頭を飾る国際家電見本市(CES)は5日間(2006.1.4-8)の会期に記録破りの110カ国15万名の参加者、出展企業2,500社を集めてラスベガスで開催された。

ネットワーク・メディア融合を目指す消費者技術産業

 2006年国際CESを主催した家電協会(CEA)は公式報告書の表題を「記録破りの2006国際CESは消費者技術産業の力を反映する」とした。「見本市会場は消費者技術・放送・CATV・コンテンツ・エンジニアリング・金融・映画・音楽その他世界の企業経営幹部で溢れ、技術産業専門家の予言を聴き、豪華な陳列架の新製品を始めオーディオ・アクセサリ・技術実験・ホームネットワーキング・ホームシアター・モバイル電子機器/ビデオ/無線を観た」とあるように、コンテンツ・プロバイダーや接続デバイス、ソフト等従来の家電製品や昨年強調された情報技術(IT)より広がりがあったからと思われる。
B.ゲイツ基調演説を始め「ディジタル・ライフスタイルの到来」が強調された。

 G.シャピロCEA会長兼CEOは「2006年国際CESは様々な角度から見て大成功。国際色豊かな聴衆、主要メディアやトップ・バイヤーが出席した基調演説・討論、政界の大物、娯楽界のスーパースター・出演者によって国際CESは単なる交易の場を超えた大グローバル・イベントとなった」と語る。ディジタル世界の国際センターが外国からの観客23,000名を惹きつけたのである。融合は2006年国際CES会場に展開する大テーマであり従来の製品類別を合わせて独特の多機能デバイスを創り出す態様を見せていた。融合傾向は消費者にディジタル・コンテンツの入手・視聴選択肢を約束する越境提携を会場外で発表するところまで行った。

 HDTVへの移行を反映し、有機光放射ダイオード(OLED)や表面伝導電子放射ディスプレー(SED)がHDTVによる各種製品・イノベーションと共に陳列されていた。その他のハイライトには最新のブルートゥース、ディジタル・オーディオ、ディジタル画像、衛星ラジオ、ホームビデオ・ドライバー、カードライバー娯楽また別館サンド会場でロボット、超広帯域、IPTV、VoIPなどが展示されていた。

 次回2007年国際CESは2007年1月8-11日の4日間ラスベガスで開催と発表された。

ポッドキャスティングとモバイルTV

 ポッドキャスティングとはアップルコンピュータの携帯音楽プレーヤーiPod(アイポッド)とbroadcasting(ブロードキャスティング=放送する)の二つの言葉を組合せた造語であり、音楽番組を自分の手元にダウンロードし好きな時に好きな場所でそれを聴ける仕組み、また自分が作成したオーディオファイルをウェブサイト上に公開(配信)することを指す。オーディオ・プレーヤーはアップルに限らず、マイクロソフトが名付けたブロッグキャスティング、クリエイティブ技術が名付けたPODcastingもあるが、アップルのiPodが2001年発売以来爆発的に売れ有名になったため2005年版New Oxford American Dictionaryに言葉が登場し「ラジオ放送その他の番組のディジタル録音、インターネットを通じてパーソナル・オーディオ・プレーヤーにダウンロードするのに用いられる」と定義された。

 ラジオのディジタル録音は1970年代に遡り多くのマニアの手によるポッドキャスティングの誕生は自然発生的だったが、一応A.カーリーが創始者とされている。ポッドキャスティングの商用網はオーストラリア人C.ライリーとM.スタニックが始めてサービス開始した(2005年)2月)と称している。ポッドキャスティングはCD作成また広告検索対象となり、番組メニューリストの普及により人気順位がつき利用が促進された。2006年はディジタル・カメラとDVRの普及に伴うアマチュアのホビーとしてのマルチキャスティングが展望される。インターネットの世界に登場してきたスパイウエアへの対応、ブロッグに誹謗・中傷などが書き込まれないように監視するシステム、法令違反の恐れがある時の削除などテロ防止を含む具体策が準備されなければならない。

 ノキア、モトローラ、サムソン電子、シーメンス、LG電子など大手携帯電話機メーカーの予測によれば2006年の世界の携帯電話機販売は対2005年10-15%増の8.5-9億台と見込まれ、前年比で2003年20%、2004年30%、2005年20%台と伸びてきたものが減速しそうである。年来販売台数拡大を牽引してきたアジアの伸びが3Gサービス対応次第だが峠で足踏み模様のためで、競争に伴う収益圧迫で巨額の開発投資を要する3Gサービス対応機に期待がかかるが、ここへ来て本命の中国の3Gサービス免許付与に最近6月説が登場している状況である。

 このようにリスキイなモバイルビジネスで最近ディジタルTV放送を携帯端末で受信するモバイルTVが注目を集めてきた。エコノミストの最新号(2006.1.7刊)は記事「ぼやけた映像」で「モバイルTVが到来するが、市場展開は不明確」とオランダ籍TVプロダクションのエンデモル社P.バザルゲット企画部長の「本当にエクサイティングな新時代が始まる」との見方を紹介している。エンデモル社は最近モバイル・ゲーム子会社オーバーローデッドをオスロ本社のモバイル・メディアに売却したばかりだが、P.バザルゲットはディジタルTVに対する関心がデバイス・メーカー、コンテント・プロデューサー、移動網オペレーターなどに高まってきたと実感しており、熱狂は彼に限らない。

 既に3G網にのせてTVチャンネルや番組・ショーを流す事業者が実在する。韓国では昨年(2005.12.1)から三大キー局KBS、MBC、SBSのほかニュース専門局YTNなど6放送局がソウル首都圏で地上ディジタル放送を携帯電話やノートパソコンで受信し移動中でも鮮明な映像が楽しめるようにした。視聴は無料で広告を主な収入源とし双方向情報のやり取りなど新サービスも考慮中で、メーカーから各社が順次受信端末を売出し、衛星放送も加えて2006年下半期には全国拡大を予定する。世界初のディジタル・マルチメディア放送(DMB )実用化である。

 ヨーロッパではハチソン・ワンポアのイタリア子会社3が地上波ディジタル放送免許を持つ独立放送チャネル7を買収し(2005.11.27)、イタリア最大の民間放送メディアセットからコンテントを入手することとしている、メディアセットはテレコム・イタリア(TI)の移動通信子会社TIMともモバイルTV実用化契約を結んでいるが、TI+TIM組織再編成終了後の放送開始だと、3の方が先行する模様。

 問題は異なる規格で発展してきた放送と通信の融合を実現する取組みである。iPodや携帯ビデオ・プレーヤーに記録した映像の再生視聴は既に可能で、トンネル内でもドライブ中でも楽しむことができる。しかし、放送のコンテンツにはスポーツ・ニュース・リアリティショーなど実況中継主義におものと演劇・TVドラマなどダウンロード+再生主義の二種類があり、技術規格の標準化は時間がかかる。韓国の実際はコンテンツを保有する放送事業者は無料放送でまとまってるが端末界をコントロールする移動通信事業者は自前で将来契約放送を始めることを考えて放送規格受信端末には不熱心である。
最も問題なのはモバイルTVコンテンツ制作資金の出し手は放送会社、通信事業者、広告業者の誰なのか?新時代のビジネスモデルがまだ見えない。技術と事業形態が決まっても、今のところ従来型チャンネルの再放送衷心のモバイル・コンテンツが、真の双方向で情報が交流・構成される時代にどのように変貌するのか予見困難であある。どう見ても先が見えるのに最低2年はかかりそうである。

233. 英国で世界初のネットワーク・メディア統合企業誕生(概要)

ケーブルTVの寡占化と統合の動き

 英国ではR.マードックのニューズ社が1990年代半ばにアナログ衛星放送BスカイB立上げに成功しディジタル化を準備しながら有料番組で受信先ケーブルTVを拡大した。大手ケーブルTVグループは電話とインターネット・アクセスで対抗したがバブル崩壊不況でNTL社は2002年に倒産テレウェスト社も巨額負債を抱え経営再建に努める中で合併を検討し始めた。2005年3月末には第1四半期赤字NTLは6,240 万ポントテレウェストは1,700万ポント、累積債務NTLは22億ポントテレウェストは17億ポントとかなり健康を回復したところで、NTL社株式11%とテレウェスト社株式17%を所有する破綻債権処理ハフ・アセット・マネジメントが登場した。

 ハフ社オーナーのW.ハフはナスダック上場(2003.1.15登録)のNTLとロンドン証取上場(2004.7.19登録)のテレウェストを合併させるのに、テレウェストのアイルランド子会社を2.12億ポンドで売却して両グループ株式時価総額を51.5億ポンドづつにして両者幹部の話し合いを促した結果、NTLがテレウェストを総額30億ポンド($60.4億)で買収することが合意(2005.10.3発表)された。テレウェスト株主がテレウェスト1株当たり現金$16.25と0.115NTL株式を受取る現金+株式交換合併であり、2006年3月に誕生する統合企業は単純合計で時価総額44億ポンド($78億)、ケーブル加入者500万名、ブロードバンドのインタ^ネットアクセス契約250万からの年商34億ポンドと見込まれ、加入者数800万のBSkyB(に対抗する。しかし、新会社の統合効果は15億ポントで買収資金18億を借入れるため債務60億ポンドを引き摺ることになる。

 2005年11月初頭未公開株式投資ファンドのエイパックス・パートナーが登場し、ブラックストーン・グループ、プロビデンス・エクィティ・パートナー、KKRなどと語らい、テレウェストのコンテンツ子会社フレックステック(かつてドイツ銀行がBスカイB向けに12億ポントと根付けしたことがある)を材料に、NTL/テレウェスト70億ポンド買収を持ちかけたが、NTL/テレウェスト統合企業CEOと目されるS.デュフィ現NTL CEOが反対したため成案しなかった。

ヴァージン・グループの登場

 12月初めR.ブランソン率いるヴァージン・グループが合併当事者として登場した。R.ブランソンは1972年にN.パウウェルとロンドンに小さなレコード店を開き、翌年ロック・ミュージックのアルバム皮切りに音楽出版を始めて成功し、1987年に米国部門開設により調子を上げ、1992年にヴァージン・レコード社をEMIに売却した。R.ブランソンは1982年に英国ーフォークランド線を開設したBAAを1984年に買収してロンドンのガトウィックとニュージャージー州ニューワークを結ぶ大西洋横断ルートを始めてBAに挑戦し、英国航空庁(CAA)に挑戦してヒースロー空港を開放させ(1991.1.1-)、成功した航空事業ヴァージン・アトランティック株式の49%を1999年6月シンガポール航空に売却した。その$9.6億を通信分野に注ぎ込むこととして他社移動網利用で携帯電話サービスを提供する「仮想移動体通信事業MVNOを始めた。第1弾が英国マーキュリー・ワン・ツー・ワンとの合弁ヴァージン・モバイル(1999年11月開設)、第2弾がシングテル・オーストラリアとの合弁事業VM Australia(2000年2月発表)、第3弾がシンガポール・テレコムとの合弁企業VM Asia(2001年2月設立)、第4弾が米国スプリントPCSとの合弁VM USA(2001年10月設立)とVMNOの先駆者になった。

 ヴァージン・グループはヴァージン・モバイルの発行済み格式の72%を所有していると自称するが未公開のため株主構成も確認し難い。NTL/テレウェストから見れば固定系通信はBTが強力で移動系通信もフランス・テレコムの子会社オレンジやドイツテレコム子会社T-Mobileが強くて提携相手と考え難く、新興企業だが有名ブランドのVMは組みやすいとしてNTLがVM株式1株当たり3.23ポンド支払う総額8.7億ポンド($15億)買収を提案して統合交渉を始めた(2005.12.5発表)ところ安過ぎると拒否された。NTL/テレウェスト+VM統合が成立すると固定電話430万名、携帯電話500万名、ブロードバンドInternet250万名、有料TV320万名にサービスを提供する世界初の四重プレーオペレーターが誕生する。NTLは米国のケーブルTV企業のように移動通信事業者と合弁事業を育てなくとも直ちに四重プレーヤーになれると考えて提案し、その筆頭株主(14%持株)になれるのはR.ブランソンにとって良い筈とした。越年した話し合いのなかでNTLはVM株式1株当たり3.60ポンド支払い総額9.3億ポンド($20億)の増額提案を行い(2006.1.3)、詰めに入った。折衝事項にはヴァージン・ブランド使用権の評価や米国投資組合フィデリティ(持株比率6-7%)など少数株主の扱いが含まれ時間がかかっている。

 NTLは長年の競争で疲れたブランドを「ヴァージン」にリフレッシュしてBTとの有料TV競争やブローバンド・電話サービスに進出するBスカイBとの競争を有利に取り組むことができる。四重プレーサービスは間接費の節減・顧客のつなぎ止めなどのメリットが見込まれるが、利用者はヴァージン一社利用から如何なるメリットが得られるのかまだ分らない。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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