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マンスリーフォーカス
No.835 August 2006

世界の通信企業の戦略提携図(2006年8月10日現在)

252.スタート台に立つマイクロソフト(概要)

 マイクロソフト(MSFT)は2011年6月までに最大$400億の自社株買いを行う計画を添え,まず8月17日までに$200億買戻すという2006年4-6月期業績(2006.7.20発表)を投資家にアピールした。

 MSFT会長・筆頭株主のB.ゲイツは何をやっても評判になる人で、最近は慈善事業の資産を$300億増やして世界を驚かせたばかりだが、今回は$400億株主還元の提案なのにウォール街にさざ波も立たなかった。独禁法違反でEUの欧州委員会(EC)から課された制裁金の費用計上が響いて純利益対前年同期比24%減の$28.28億になったため、2006年通期決算は売上高対前年比11%増の$442.82億で、純利益対前年比3%増の$125.99億という増収増益にもかかわらず株価は下落したままである。

 制裁金はクルスEC委員(競争担当)が7月12日明らかにした2.805億ユーロ追加制裁で、2004年に4.972億ユーロという過去最高の制裁金支払い命令と共に、ECが音楽・映像再生ソフトMedia Playerを統合しないOS の提供や、サーバーソフト供給他企業にWindowsとの完全なインターオペラビリティ確保に必要な詳細技術情報公開を求めたのに「6月20日現在も完全かつ詳細な技術情報の開示を行っていない」と判断したもの。2005年12月15日に遡り一日150万ユーロの追加制裁金は確かに重い制裁だが当初見込まれていた制裁金額(200万ユーロ/日)を下回っている。EC内部には、マイクロソフトが独禁法違反の是正命令に抵抗できないように可能な限り高額にすべきだとの意見もあったがクルス委員は「制裁金の金額よりも明らかなメッセージを発すること」を重く見た。マイクロソフトは2006年4-6月期業績に制裁金費用$3.5億を計上した上是正命令に関して7月12日ECに補正技術文書を提出した。ECは追加制裁金をさらに引上げる余地を残しており、マイクロソフトはEC決定を不服とする提訴を続けていく。これで最大$400億の自社株買いを行う計画も増収増益2006年通期決算も株式市場を好転できない。

 マイクロソフトは売上高の半分と純利益の大部分をウィンドウズOSとオフィスPCアプリケーションから得ており、世界のPC利用をほぼ独占してるのに成長が鈍化している。2007年からの次期OSウィンドウズ・ヴィスタと新オフィスという次の山場の前にECとの係争を振り切り、ゲームや音楽などのオンライン新市場の中核事業を興さなければならない。2005年11月発売デスクトップゲーム機Xboxはカネ喰い虫で儲けにならずソニーのプレイステーションに遙かに遅れており、MSNはオンライン広告市場シェア三番手で大量トライックを集めているのになお赤字である。

 マイクロソフトはかつて2004年に「莫大なキャッシュフローを貯め込んで利益分配をけちってる」とのアナリスト・機関投資家の批判に対応して$750億の巨額な自社株買いを発表し実行した。それはカネがかかりリスキーな買収や多角化、巨額な研究開発をを控える戦略の選択だった。マイクロソフトは競争激化のビジネスソフト市場及び投資家に評価されてないゲームや音楽などのオンライン新市場中核事業に向け、まだまだ財布を開く必要がある。

 エコノミスト誌のマイクロソフト戦略論(Economist2006.7.22)「マイクロソフトは先に考える」は「オンライン市場争奪戦で重要なのはカネよりアイディア」とする。この4月にマイクロソフトがオンライン製品開発・新市場開拓に$25億投じると発表したところ株価が下落し一日で時価総額が$320億減ったことがある。しかし、環境変化に適応する必要性は待った無しなので、ドル箱のパソコン市場で箱入りソフト利用者がオンライン・アプリケーション・ダウンロードに移るのを捕捉しないとマイクロソフトの将来は暗い。この脅威を切り抜けるのに資金を投資家に渡すのはベストの選択ではない。自らオンライン・ソフトを開発する計画を立てたマイクロソフトの判断は適切で昨年9月の組織再編成は良かった。
しかもS.バルマーCEO自らシリコンバレーを歩き2005年にITベンチャー20社を買収したのも良いとのエコノミスト誌意見である。

253.インターネットによって広告は進化する(概要)

 世界の広告産業の2006年売上高は$4,280億だが半分は無駄に終わる。それがオンライン広告によりユーザは広告の意図に自然に反応し本気を示すようになる。莫大な広告システム投資を行うグーグルは一世紀に亘る揺籃期の広告産業を進化させることになるか?

米国のインターネット広告市場

 エコノミストのインターネット広告に関する記事(Economist 2006.7.8)「究極のマーケティング・マシーン」は、市場調査会社ゼニスオプトメディアによれば「$4,280億と見込まれる世界の2006年広告産業売上高の半分$2,200億は目標視聴者に達せず無駄になる」、敬虔なクリスチャン商人ジョン・ワナメーカーが1870年代に百貨店・正札販売・新聞広告を始めて一世紀、販売促進費の半分が無駄になる広告産業揺籃期がインターネット広告の登場により今終わるのだとする。

 勿論これは巨視的見方で、現実は世界一のインターネット広告会社グーグル(Google Inc: GOOG)から多数のシリコンバレー・ベンチャーに至るまでの参加者が伝統的広告媒体(新聞・雑誌・TV放送・ケーブルTV・ラジオ・電話帳広告・屋外広告など)に慣れた視聴者をウェブ・クリック、ビデオ端末共用、おまけ付きクーポンなどで惹きつけようとする入り乱れ顧客争奪戦であり、広告主に成果を認識させるための測定技術開発合戦で、戦況は刻々変わって行く。

 米国の主要インターネット企業4社の2006年第2四半期(4-6月期)業績は、次表の通り、検索サービストップのグーグルだけが増収増益を確保した。

表1 米国ネット4社の業績 単位$億()は前年同期比

 米国のインターネット広告市場は2004年売上高が対前年比21.3%増の$69億、2005年売上高が対前年比81.1%増の$125億と尻上がりで検索サービス急成長中、グーグルは2006年6月現在国内シェア44.7%と一年前よりシェアを7.8%伸ばし、ヤフーの28.5%、MSNの12.8%を突放しつつある。ポータルサイト最大手のヤフー(Yahoo! Inc: YHOO)の売上高前年同期比26%増はアナリスト予測を下回り、ストックオプション(株主購入権)の費用計上により純利益78%減となったことから株価が21%急落し2年ぶりの安値をつけた。一日で$100億減った時価総額は7月末までに少し戻したものの、提携する他社に支払う手数料を差し引いた第3四半期(7-9月期)実質売上高は前年同期比20%増の$11.15億と予想される曲がりカーブが続く。ネット競売最大手のイーベイ(Ebay Inc: EBAY)も第2四半期(4-6月期)売上高は前年同期比30%増だが純利益は前年同期比14%減の僅か$2.50億に過ぎず、成長鈍化の兆しがある。しかもグーグルのネット決済サービス進出(2006.6.29発表)により市場争奪戦激化が予想される時、M.ウィットマン現CEOの後継者と目されるJ.ジョーダン取締役の離任が発表された(2006.7.6)。グーグルのネット決済サービス「グーグル・チェックアウト」は主にグーグルに検索連動広告を出す企業を対象とし、その企業サイトで利用者が買い物をする時クレジット番号・住所など一度登録すると以後は他企業サイトでもパスワードなど打ち込むだけで決済できる。グーグルはネット決済を使う企業から販売額の2%と1件につき20セントの手数料をとるがグーグルのサイトに広告を出す企業には優遇措置(ネット広告費$1につき$10分の商品販売手数料を免除)をとる。グーグル売上高の99%はネット広告、検索ー広告ー決済の全プロセスを手がけることで存在感を高める戦略である。ネット決済の先達はイーベイのペイパルで創始者はJ.ジョーダン、第2四半期売上高$14億の1/4を占めている。

インターネット・サービス事業の新提携戦略

 グーグルは人脈サイト最大手のマイペース所有者ニューズ社(News Corp.: NWS)との提携を発表した(2006.8.7合意)。「人脈サイト」とは米国で2003年頃登場したソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に日経新聞がつけた呼称で、サイトの利用者が氏名・経歴・日記などを公開し友人との交流や人脈づくりに役立てるインターネット・サービス。共通の趣味の利用者と情報交換したり、紹介を繰り返すことにより友人のネットワークを広げる口コミ効果から広告媒体として注目されている。日経新聞記事(2006.8.8)が伝える人脈サイト最大手マイペースの2006年6月の閲覧者数は、次表の通りである。

表2 6月の米SNSランキング  単位万人

 2005年にニューズ社は$6.49億でマイペースを買収し、同時にオンライン・ビデオ・ゲーム制作IGNエンターテインメントとカレッジスポーツ・サイトのスカウトの買収も併せ$14億強を費やして、娯楽サービス子会社フォックス・インンタラクティブ・メディアに収容した。今回の契約によりグーグルはマイペースなどのサイトに広告入力検索ボックスを準備し、ニューズ社子会社に対し2007年から2010年第2四半期に至る3年半に広告掲載料$9億を保証する。広告収入が増加すればニューズ社が受取る掲載料も増える。従来のフォックス子会社も共存共栄の扱いに含まれる。

 グーグルはCBS分離後の新ヴァイアコム(VIAB)のコンテンツ配信事業MTVネットワークスとの動画広告提携も発表した(2006.8.7合意)。ネット広告事業で協力している多数のウェブサイトやブロッガーにMTVの動画コンテンツを配信しコンテンツ保有者のグーグルと掲載サイトで収入を分け合うもので、早急に開始する。

 グーグルはディジタル・ドキュメント技術大手のアドビシステムズ(ADBE)と複数年提携契約を結び、アドビ製品にグーグル・ツールバーを搭載することとした。ツールバーはユーザ自らがインターネットブラウザーに入れ込む検索ソフトでグーグル・サーバーに行かずに済むので検索速度が早い。そこでグーグルとウェブブラウザー・メーカーのモジラ、ディジタル・メディア・サービス及びソフト事業者リアルネットワークスの三社は、モジラのファイヤフォックスブラウザーにグーグル・ツールバーとリアル・プレーヤー音響動画再生ソフトを組込むマイクロソフト対抗の提携戦略を進めることとした。

 グーグルの戦略展開は正に破竹の勢いで、上述のように2006年第2四半期(4-6月期)業績は一強三弱に見えるが、急増するグーグルの資本支出・IT基盤投資はリスキーとするアナリストも出てきた。

 しかし、インターネット接続事業、つまりISPには有料会員制インターネットサービスよりも広告収入依存の方が有望と見えるようで、2001年に誕生した米国最大手メディアのタイムワーナー(TWX)は米国ではネット接続料を除きメールサービスなどは9月から無料にすると発表した(2006.8.2)。現在最大$26のAOL月会費にはサービス利用料とネット接続料が含まれるが、今後は会員だけに提供していた電子メールアドレス、独自コンテンツ閲覧用ソフト、セキュリティ機能などのサービスを無料とし、登録すれば誰でも使えるようにする。AOLは高速ネット接続に遅れ利用者の大半は別料金を払ってケーブルTVなど通信事業者提供の高速ネット接続を使っている。2006年第2四半期(4-6月期)業績(2006.8.2発表)によれば、AOL部門売上高は対前年同期比2.4%減の$20.46億、営業利益は対前年同期比5.2%減の$3.28億で、売上高の73%を占める会費収入は$15億だが、24%の広告収入は40%増の$5億に達したことから、不評の接続事業を縮小しリストラで経費節減を図る対応策が飛び出したところである。

 ニューズ社の2006年4-6月期決算(2006.8.7発表)は映画部門の好調に支えられて売上高が対前年同期比11%増の$67.82億純利益が対前年同期比19%増の$8.25億だったが、アナリストとマードック会長とのやりとりは前日発表されたグーグルとの提携に集中し、マイペース登録利用者1億名などのウェブ資産の活用が強調された。次表を見ると、この一年のAT&T(新)(旧)やテレフォニカ+02などキャリアー再編成、タイムワーナー、ディズニー、ニューズ社など既成メディアの置かれた情況が分かる。

表3 世界の情報通信サービスプロバイダーTOP30社(2006.7.31現在)

254.中国のメディア統制の変化(概要)

 エコノミスト誌中国メディア関連記事(Economist2006.7.29)「我々は言いたいことを言うことにする」は「中国のメディアは新しい報道規制やインターネット締めつけで編集長が解雇されたり記者が逮捕されたり今困難な時期にあると思われてるが、そんなひどいものではない、当局は統制強化を意図してるがメディアは反撃し続けてる」という。

 パリ本拠の国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」は2006年初頭に「高まる社会不安の報道を禁止した政府の措置でプレスの自己検閲、インターネットの清浄化、外国メディア立ち入り規制」を伝えたが、6月に明らかになったところでは、政府系を含む数社のメディアが政府の検閲を公然と批判し、紙上・ウェブ上で統制の限度について活発な論議が交わされた。特に抗議の声が上がったのは、非常事態ニュースを政府の許可無く流した者に対する罰金で、一般に信じられてきた1949年中国共産党政権成立以来の「5万元から10万元、特に売れた特集記事には更に高額」とのルールだった。

 或る雑誌は「プレスの自由は憲法の保障する言論の自由から派生したものだから制限は慎重にすべきだ」「ルールの解釈権を地方政府に与えると警察国家になる」とのウェブ研究言説を紹介した。また広く読まれている雑誌「南都ニュース」は「ニュース発表を遅らせるのは噂を助長するだけ」「災害情報に関するメディアと政府の健全な競争が望まれる」とのオンライン・コメントを伝えた。湖南省南部の政府発表災害情報(2006.7.21)が死者数を92名から346名に改めた実例、広東省の或る新聞が「中国の政治改革がベトナムに劣っている」との驚くべき記事(2006.7.12)を掲載した実例も紹介されている。

 2004年春焦国標北京大学助教授は中国のメディア統制に関する意見を発表し、論争をまき起こした。「中央宣伝部を討伐せよー中国のメディア統制の闇を暴く」焦国標/坂井慎臣之助訳:草思社発行(2004.8.31)によれば、最初焦国標氏が「討伐中宣部」なる意見の電子メールを友人に送ったところ、そのうちの一人が無断で某ウェブに貼り付け、「中宣部の一番目の大病は活動方式が巫婆神漢化(神がかり)、二番目の大病はその権威のローマ教会化、三番目の大病は日本の文部省化、四番目の大病は憲法の殺し屋であること、五番目の大病は中国共産党の崇高な理想に背き行動面で裏切り者に堕落したこと、六番目の大病は冷戦思考の衣鉢を継いでいることなど十四の意見」が爆発的な勢いでインターネット上に広がった。既存メディアで最も早く掲載・報道したのは香港の月刊誌「開放」と週刊誌「亜州周刊」で、すぐ外国語に翻訳され外国ウェブサイトに登場し、放送・新聞メディアで報道された。焦国標氏のウェブサイトは直ぐアクセス禁止措置がとられ本は出版中止、E-Mail海外接続は困難、電話は盗聴される事態となった。焦国標氏は公安当局の監視下に置かれている。日経新聞中外時評欄(2006.3.12)は「焦国標元北京大学助教授が二月末に来日し語ったところでは、大学を解雇され当局に監視されているが中国の将来を楽観している。社会の多元化が進行中でもはや(恐怖政治)の昔には戻れない。胡錦濤総書記も来年の党大会で権力を固めれば改革に取り組むのではないか」としている。

 日経新聞中外時評「揺らぐ中国のメディア統制ー押し寄せる多元化社会の波」は袁偉時中山大学教授の中国歴史教科書批判論文(2006.1.11氷点週間誌掲載)を中国共産党中央宣伝部が報道規律違反として処分した事件の顛末を紹介し、「メディアの政府批判を禁じる宣伝部に国民の不満が噴出している。政府は利用者一億人を超えたインターネット通信を統制するため金盾行程と称する強力なネット検閲システムを構築中だ。・・・共産党政権は一党独裁、閉鎖型計画経済、思想・言論統制などを柱に体制を維持してきた。・・・新時代に必要なのは公正。公平な市場経済を確立するための情報公開、不正・腐敗をチェックすると同時に、高度知識社会を支える思想・言論の自由であろう。・・・」と述べている。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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