ホーム > レポート > マンスリーフォーカス >
マンスリーフォーカス
No.86 September 2006

世界の通信企業の戦略提携図(2006年9月8日現在)

255. インターネットの新新広告提携戦略(概要)

 インターネット広告のトップ企業グーグルは、ネット競売最大手のイーベイと提携して2007年初頭からイーベイの米国外サイトの個人客向けネット広告をグーグルが独占仲介し、サイト利用者が広告をクリックすると広告主とIP電話で会話出来るようにすると発表した(2006.8.31)。また2006年2月以来個人客に無償で提供してきた電子メールのサーバー設備を企業客にも開放して、会社名アドレスの社員付与・スケジュール管理・音声通話など可能にした上、将来は大企業向け高度有償サービスも提供すると発表した。ほぼ一年前にタイム・ワーナーAOL部門接近を争ったグーグル・ヤフー・マイクロソフトのオンライン広告戦略展開は一区切りに近づいたように見える。

グーグルとイーベイの提携

 グーグルはイーベイの米国外サイト(カナダ・中韓などアジア10カ国・英独など欧州12カ国、合計23国・地域)の個人客向けテキスト・ベース広告を独占仲介する。日本はイーベイが撤退したため対象外で、イーベイの米国内サイトの個人客向けネット広告は2006年5月提携契約によりヤフーが独占仲介している。イーベイは中国などアジア地域ではヤフーと競争しており、グーグルはイーベイのネット決済ペイパルと競合するグーグル・チェックアウトを開始している。今回の提携の財務面は発表されてないが、E.シュミットグーグルCEOは「長期に亘る契約となろう」と述べ、M.ウィットマンイーベイCEOは「インターネット検索エンジンの性能やイーベイ資産との整合を考慮して米国内サイトの広告仲介にヤフーを選んだ後米国外サイトのパートナーにグーグルを選定した」と述べた。
複雑な競合関係分野なのでM&Aに馴染まず提携を指向したもので広告収入を然るべく分け合うと思われる。

 グーグルとイーベイの合意には、利用者がウェブに表示された広告をクリックすると広告主(売手)と通話できる「クリック=通話機能」を共同開発し、グーグルの通話サービス「グーグル・トーク」及びイーベイのVoIP子会社「スカイプ」両社サイトを接続・一体化する計画を含む。両社は共同システムの細部は詰め切れていないが、利用者が広告をクリックすると画面にボックスが現れ電話番号を投入すると、数秒で利用者の電話が鳴り同時に広告主(売手)の電話を呼び出し両者が会話できると言う基本機能の実験は順調に進んでいるという。利用者が好みそうな商品やサービスを探している時すぐ話が出来れば購入=販売が成立する可能性は高まる。最も重要なのは巨大データベースを駆使して利用者が好みそうな商品・サービスを推定・提示することだが、それが出来てるとしてワンタッチシステムを加えたのが「クリック=通話」である。定価販売の既存ネット競売で処理されない不動産屋や自動車販売店での利用はさらに有望と思われ、扱い商品の高額化・成約率の高度化に伴いネット広告手数料収入も増大しよう。
今検索1クリック当たり売上単金$1程度が1コール当たり$2-10に増えると見るアナリストもいるが、クリック=通話が生み出す「通話したら買う産業」は2009年までに年商最低$19億、$40億にも達すると見る市場調査会社さえいる。ケスリーのM.ブースは「これまで測定出来なかった広告費の効果がはっきりして、グーグルとイーベイは消費者の購買行動を明確にする」と語る。

グーグルの企業向けサービス攻勢

 グーグルの「貴社向けグーグル・アプリケーション」(2006.8.28発表)は、グーグルのコンピュータ上で駆動できるメール、予定管理、メッセジング、ウェブサイト構築・運営など個人客向け既存アプリケーションに基づく企業用パッケージの無償提供サービスである。これは企業や研修組織がハード/ソフト管理の煩わしさ無く従業員・研修生などにメールその他のサービスを利用させるもので、2006年2月以来提供している大容量電子メールに続くものである。

 グーグルは2006年末までにデータベース容量を拡大し技術サポートサービス付きの有償大企業向けグーグル・アプリケーションの提供を計画している。無償提供の限界規模や有償の料金は未定だが、企業向けグーグル・アプリケーションはグーグルがウェブ管理を行い@マークを付記すれば社員の会社名アドレス発信を認める。

 グーグルの動きが各級企業向け電子メール・アドレスブック・カレンダーやワープロ・スプレッドシートなどに及ぶと、マイクロソフトのOutlook/Officeなど業務用ソフト市場を侵食することになる。
グーグルの企業向けサービス攻勢は2006年初頭に$470に達した株価が今$380前後に低迷してるのに対して新たな成長戦略を市場に示すためなのか、最近オンライン・サービス指向を強めているマイクロソフトに対する攻勢的防御なのか、微妙なところである。
世界の情報通信サービスプロバイダー上位30社の番付を見るとグーグルは6月末2位から7月末3位、8月末4位と下がっている。

表:世界の情報通信SP30社(2006.8.31現在)

256. テルストラ民営化−複雑な進め方(概要)

 中国・インドを始め新興市場経済諸国が躍進し、イラク・イラン・北朝鮮・イスラエル・パレスティナ・アフガニスタンなど核実験国際管理やテロ・民族/宗教紛争の緊張が続く時、人口2000万強のオーストラリア連邦の動きはグローバルな関心事になり難い。しかしオーストラリア史上二番目に長く続くハワード政権が後継者問題で紛糾した後、既存通信企業テルストラの複雑難解な完全民営化計画が発表されたことは注目される。

ハワード政権は何時まで続くか

 エコノミスト誌オーストラリア関連記事(Economist 2006.3.9)「10年経ってなお続けるつもり」は、「恐らくJ.ハワード首相は就任時(1996.3.11)10年後になお職にあると思ってなかっただろう。実際2年後の選挙で政権を失いかけていた。ところが選挙の度に上がる人気が66才の今日も衰えないので引退問題を斥け、保守的自由党が必要とする限り2007年下期の次回総選挙にも出る構え」とした。オーストラリア首相の最長記録は自由党の創始者でJ.ハワード氏の師であるロバート・メンジス卿の合計18年(1939.4.26-1941.8.29)及び(1949.12.11-1966.1.26)である。エコノミスト誌は「J.ハワード氏はカリスマ的リーダーでもなければ斬新なアイデアの人でもない。支持するアイデア市場開放・非規制経済は冷や飯を食っていた13年間の労働党政権政策であり、早期の改革がもたらした経済成長という幸運によるところが多い。J.ハワード氏の功績は最低の失業率・インフレ率で注意深く成長を管理したことで、鉄鉱石中国輸出の儲けに基づく税収で豊かになった国庫を背景とするバラ蒔き国内開発が人気の源」とする。ハワード政権10年に関する世論調査は経済政策を是とするもの83%、健康・教育予算削減を非とするもの58%という。労働党が代表者選びの内紛を続けている限り自由党政権は続くとの総評である。

 J.ハワード首相とP.コステロ財務相の組合せはオーストラリア史上最も成功したパートナーだが、外目に成功している結婚にも破局が訪れるように、J.ハワード氏が67才になる7月26日及びP.コステロ氏が49才になる8月14日を控え、7月10日にP.コステロ氏が12年前の密約をもらしハワード首相の後継者問題が表沙汰になった。
密約というのはP.キーティング労働党政権下の1993年3月総選挙に自由党が敗れた後の1994年、J.ハワード氏はP.コステロ氏に私的会合で「次期選挙は党首になって闘う。勝って首相になっても1期半で引退し君に引き継ぐから頑張って」と述べた話で、P.コステロ財務相は「4期在任したJ.ハワード首相は嘘つき」とメディアに語り、J.ハワード首相は「そんな話は知らない、コステロは傲慢・横柄」と言ったという。自由党古株党員I.マクラクラン「1994年会合に居合わせた」と述べたそうで、なぐり書きノートはコステロ氏の言い分通りという。
エコノミスト誌関連記事(Economist 2006.7.13「離婚裁判へ」は、J.ハワード氏には党首として予定通り2007年総選挙に臨みP.コステロ氏の挑戦に応じるか、好まずともP.コステロ氏の言う円滑な移行の時期を示すかの選択しかないとする。

テルストラの政府持株のA$80億を民間売却、残りを政府系ファンドへ移管

 オーストラリア政府は政府保有テルストラ株式のうちA$80億相当分($61億)を2006年11月までにオーストラリア国内市場で株式小売業者・機関投資家に売却し残りを公的年金積立て不足解消のため設立した政府系ファンドへに移管する(2006.8.25発表)。

 オーストラリアの既存通信企業テルストラの政府持株売却第1段階(T1)(1997年11月実施)は、政府持株1/3売却で機関投資家向け1株当たりA$3.40、個人向け1株当たりA$3.30で行いA$140億($104億)が得られた。政府保有テルストラ株式売却第2段階(T2)(1999年9月売出し)は2分割1株当たりA$7.40で行い、まず政府持株の16.6%を売却し次に政府持株が51.8%になるまで残りを売るやり方でA$160億($104億)が得られた。

 ところが、政府保有テルストラ株式売却第3段階(T3)はあいまいな2分割つまり1997年11月上場以来最低値(A$3.43)の株価を考慮して一応A$80億($60億)分の株式を10月と11月に売却するものの売値は未定で、未消化の残りは公的年金積立て不足解消のため2006年5月に設立した政府系「フューチャー・ファンド」に移管する、フューチャー・ファンドは2007年以降テルストラ株式を売却できる方向で、詳細はJ.ハワード首相、P.コステロ財務相、N.ミンチン金融相、H.クーナン通信相、M.ヴァイユ首相代理による上級指導者チームが詰めるというもの。

 もともと前議会に提出された民営化第3段階(T 3)の根拠法「テルストラ完全民有移行法案」は1991年テルストラ法改正案に51.8%政府持株一括売出しをセットしたもので、ルーラル地域インフラ投資支援の自由基金のための調整資金A$20億を国庫から連邦準備銀行に振り込むことで上院の同意を取り付け、T.3法成立後の2006年春にフューチャー・ファンドにすり替えたようである。重要なのは2007年以降のテルストラ経営規制緩和による業績好転と株価上昇、配当金の支払いの確約である。反対の立場のK.ビーズレー労働党党首は次期総選挙に勝てばテルストラ完全民有化を差し止めるとしている。

257. 南アフリカ第二電電サービス開始(概要)

 世界的な資源高が新興市場国の仲間入り中の南アフリカ共和国にも波及し、2005年GDP成長率4%台と見込まれる南ア経済に活況が出てきた。南ア上場企業の2005年決算純利益は前期比30%増と見込まれる。南ア政府は黒人の経済進出を支援する「黒人経済活性化(Black Economic Enpowerment: BEE)政策」を展開中だが、貴金属相場急騰の機会を捉えて主要企業に2014年までに黒人企業に株式最低26%を譲渡するように迫り、世界第3位の鉱山会社アングロ・アメリカン(Anglo-American)は南ア金鉱山子会社の株式売却を発表した(2006.4.11)。

 南ア経済の活況は情報通信分野にも及び、2001年に計画され延び延びになっていた固定系第二電電(Second National Operator: SNO)がサービス開始した(2006.8.31)。
エコノミスト誌南アテレコム関連記事(Economist 2006.8.31「遅くても無いよりまし」南ア情報誌Independent Online記事(2006.9.3)及び汎アフリカセルラー合弁企業(Vodacom Group)2006年3月期年次報告書を総合すると「第二電電(SNO)の経緯・概況は以下の通りである。
国営南アフリカ電気通信(PTO Telkom ZA)は1973年法律第63号会社法に基づく全額政府出資の有限会社として1991年に法人化された。英国ボーフォン社の南ア進出を受けて汎アフリカセルラー合弁企業ボーダコムの設立に参加し(1993年)、株式の50%を出資した。ボーフォンのボーダコム出資比率は当初35%だったが、ボーダコム株式15%を保有していたベンフィン社から譲り受けたため、現在は南アテルコム社(Telkom SA Limited)とボーフォンの折半出資(50%/50%)になっている。

 通信自由化について南ア政府は外資導入を含む設備拡充5カ年計画を作成し南アテルコム( TKG)をニューヨーク/ヨハネスグルグ証券取引所(NYSE/JSE)に上場した(1997年5月)。

 南ア政府は競争導入に伴うユニバーサル・サービス・ファンドの管理を通信大臣が直轄するため電気通信法を2001年に修正し、2002年には第二電電(SNO)免許手続を2003年ないし2004年早期を目標に開始した。ところが、電力会社Eskomの通信部門(Esi-Tel)や運送会社Transnetの通信部門(Transtel)の参入を期待し国際的投資ファンド枠(51%)を用意したのに無名ベンチャーの応募しかなく失敗した。そこで通信大臣がしきる委員会を設け国際ファンド・パートナーを指名して2003年2月から直接折衝をさせたが誘いこめなかったので、Transtel とEsi-Telに出資枠各15%、BEEグループNexus Connexionに19%、地域関係CommuniTelとコンソーシアム(Two Consortium)に各13%で合計75%、25%は政府預かりで進めることとした。第二電電(SNO)とはこのような混成旅団で、資金繰りがついて自前設備ができるまではテルコム社ネットワーク設備を再販ベースで使う前提で免許を受けた。2005年5月に通信大臣がフィージビリティ評価を行い免許期間を2年延長した。

 情報誌(iOL Technology)は第二電電(SNO)は「8月31日にサービス開始し、向う10年間ネットワーク拡充のため110億ランド($16億)投資すると発表」「SNOは企業客に国際インターネットアクセスを提供すると言うが、個人客は競争によりテルコム(Telkom SA)の通話料金がどれだけ下がるか3月まで注目したいとしている」と報じた。

 固定系電話のテルコム独占は2002年5月廃止されたが固定電話回線数は1999末から5,492,000、2000年末4,961,000、2001年3月4,961,743、2002年3月4,924,000、2003年3月4,844,000、2004年3月4,821,000と減少している。
これは勿論移動電話の急成長によるもので移動電話台数は2002年末12,500,000、2003年末15,000,000、2004年末19,500,000、2005年末30,000,000と増加しており2005年末シェア、ボーダコム55%、MTN( MTN SA)35%,セルC10%と豊かな寡占状態である。MTNは地元資本(MTN Holdings)の所有で、セルCは外資(サウジアラビアのSaudi Oger)60%と地元資本セルサフ(CellSaf)40%の合弁持株会社3Cコミュニケーションズ(3C Communications)の所有だが、セルサフはBEE企業30社のコンソーシアムでセルC従業員の85%は身障者である。セルCは2008年末市場シェア25%を目標にしている。

 汎アフリカセルラー合弁企業ボーダコムVodacom Group(Proprietary Limited)の南ア以外の展開先はタンザニア(Vodacom Tanzania Limited)(出資率65%)、コンゴ(Vodacom Congo(RDC)s.p.r.l.(出資率51%)、レソト(Vodacom Lesotho Lid)(出資率88.3%)、モザンビーク(V.M.S.R.L.)(trading as Vodacom Mozambique)(出資率98%)

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。