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マンスリーフォーカス
No.87 October 2006

世界の通信企業の戦略提携図(2006年10月10日現在)

258.難局に沈む西欧既存通信企業(概要)

 エコノミスト誌(the Economist 2006.9.23)の西欧テレコムに関する記事「沼地にはまりこんで」によれば、「西欧の巨大既存通信企業はかつて国を代表する電気通信事業者として世界を闊歩していたが、通信自由化後8年、バブルが弾けた通信不況後5年にして、今難局に直面している。」

自由化後8年・通信不況後5年の競争圧力に直面

 危機がはっきりと表に出たのは、政府と仲違いしM.T.プロベラ総裁が辞任したテレコム・イタリア(TI)で、移動電話の成長鈍化・経営の中核である固定系売上高の減少、競争の脅威、巨額債務と政府干渉等の問題解決で政府と衝突したが、こうした難問は西欧既存通信企業に共通のものである。

 今夏EU経済は6年振りの高成長となったが、ユーロ圏12カ国4-6月期GDP速報値((2006.8.14発表)は前期比僅か0.9%増に過ぎず、コンサルタント企業デロイトのS.ペントランドは「経済はそれほど好転しないので巨大既存通信企業は等しく国内では固定・移動電話、高速インターネット/TV融合サービスを売り込み、売上高成長を求めて外国モバイル/ブロードバンド市場進出を図るものの、次図に見る通り、通信不況で落ち込んだ株価は回復していない」とする。

図:競争圧力下の株価の推移 1999年初=100とする指数

 ドイツ・テレコム(DT)は、欧州最大の独ブロードバンド通信市場(2006年6月末1,200万加入)でシェア45%を競争事業者に占められ、2006年上半期に固定電話回線100万を失った。米国メディア企業タイムワーナー(TWX)はインターネット接続事業を整理中だが、その独子会社を6.75億ユーロでテレコム・イタリア(TI)が買収した結果(2006.9.17契約署名)、TIの独子会社ハンゼネット(Hansenet)のDSL加入数は184万に達しDT(T-Online)に次ぐ第2位に浮上した。
ドイツは今IP化の盛りで、DTが過去1年間に開通したブロードバンド回線数40万の95%は競争相手に再販売されている。K.リッケDT CEOは経費節減と100%子会社化した米国移動通信事業T-Mobile USAの網開発計画に没頭している。

 フランス・テレコム(FTE)は固定系・移動系・ブロードバンドの統合サービスをオレンジ・ブランドで提供する野心的再編を終え他国の脅威になろうとしているが、国内市場の競争は熾烈でヌフ・シェジェテルを始めとする新規参入業者のシェアが40%に達する勢いである。

 BTグループは民営化BTが通信不況に伴う累積赤字解消のため携帯電話子会社(mmO2)を2001年11月に分離独立した改称した社名。国内住宅用加入者にはブロードバンド・サービスの、海外事務用加入者には高速ディジタル・サービスの売り込みに集中して収益性を維持し、2004年末にボーダフォン(VOD)と提携して再販売によるBTモバイル・サービスを開始した。

 以上の独仏英三社に比べ株価の回復が顕著なテレフォニカ(TEF)は、売上高の1/3を占める中南米子会社の業績向上によるるもので、むしろ最近一年半のO2買収($316億=260億ユーロ)とチェコ既存通信事業買収(Cesky Telekomの政府持株51.1%を27.6億ユーロで)が重みになっている。もっともスペイン財政法は買収資産の特別償却は免税としている、TEFは国内的にはケーブルTV会社とFTE携帯電話子会社アメナ(2005年8月に株式の80%を買収)との競争が厳しいが、なお固定電話市場の66%、ブロードバンド市場の69%を確保している。

 コンサルタント企業アーサーD.リトル・ベルギー支店長K.アポストラトスは、「西欧の巨大既存通信企業は互いの市場に参入し、熾烈になる競争は消費者にとっては良いことだが、経営統合はさらに進むこととなろう。コンテントが絡むと著作権交渉は複雑で面倒になるが、鬱屈した西欧ナショナリズムを背景とした政府の外資エネルギー企業買収阻止策に比べると、通信企業統合はむき出しで巨象の歩みのようにドシン・ドシンと進むだろう」とする。

 世界の情報通信サービスプロバイダー上位30社の番付における西欧各社の現況は次表の通りである。

表:世界の情報通信SP30社(2006.9.29現在

政変にもまれるテレコム・イタリア

 イタリア共和国はキリスト教民主党中軸の戦後政治が1990年代始めに終ると中道左派と中道右派が交代する小党群立時代を迎えた。上院は州単位・下院は全国単位の完全比例代表制選挙で選ばれ共に任期5年、両院議員が任期7年の大統領を選び、総選挙・大統領選挙・統一地方選挙が余り間をおかずに行われるため、現行政治体制は比較的安定し民意が反映されるものになっている。

 2006年4月9-10日の総選挙で前EC委員長R.プローディを首相候補とする中道左派「連合」がS.ベルルスコーニ首相率いる中道右派「自由の家」を僅差で破って上下両院を制し、同年5月の大統領選挙で「連合」の候補者であるG.ナポリターノ終身上院議員が選出され、第二次プローディ内閣が成立した(2006.5.17)。第二次というのは第一次プローディ内閣(1996-1998)に次ぐからで、プローディ氏は不正行為監督不十分の追求を受けて辞任した(1999.3.16)J.サンテールを引き継いでEC委員長に選ばれ(1999.3.25就任)、EU改革に尽くした後2004年11月辞任してイタリア政界に復帰した。イタリアの選挙はメディアに露出して人気を取った方が勝つとされ、5年続いたベルルスコーニ首相に対し景気低迷のなかTV討論会で大物振りを印象づけたの連合の勝因と言われる。

 テレコム・イタリア(TI)は投資削減・経費節減三カ年計画(2005.4.13発表)の一環として移動通信子会社テレコム・イタリア・モビレ(TIM)の国内事業本体統合を行ったが、2006年6月末債務残高が413億ユーロと計画通りに減らなかったため、固定・携帯電話融合(FMC)政策を転換して固定・携帯電話分離による経営合理化を図ることとした(2006.9.11プロベラ総裁決定)。ところがTIMの分離独立は売却特に外資の手に渡る恐れありとプローディ首相が反対し、R.マードックとの提携話は危険と批判したのでプロベラ総裁は辞任した(2006.9.15)、辞表を受けたTI取締役会は紛糾したが、辞意が固いため後任総裁に元上院議員G.ロッシを指名した。プロベラ前総裁は、R.マードック氏とはコンテントの話をしただけなのに資本関係をほのめかされ迷惑だ、プローディ首相には今回の政策転換について説明しておいたと述べ、プローディ首相は聞いてないと否定し、プロベラ前総裁はプローディ首相は嘘つきと批判した。上下両院に喚問された(2006.9.28)プロベラ前総裁は与党側から野次られ。プローディ首相は野党側からTI再国有化反対の声がかかり、質疑が9回中断したほどだった。

 プロベラ氏はTI総裁を辞めても、TIの最大株主である持株会社オリンピア(Olimpia)株式の80%を所有するピレリ(Pirelli SpA)会長であり、影響力は行使できる。TIの債務削減はTIM売却以外の方法でも、株式の時価発行と株主割当発行と買戻しの操作によっても可能である。

259.オンライン・ギャンブリングー規制か禁止(概要)

 今国連安全保障理事会では核実験実施を発表した北朝鮮への制裁決議案の調整が続いて居るが、米連邦議会では夏休み明けから中間選挙の大きな争点であるテロ対策の取組みが展開されている。多数のテロ対策関連法案のなかで港湾のセキュリティを強化する「港湾安全法(2006.9.30上院可決)」に「不法インターネット・ギャンブリング取締法」の内容が含まれていた。2週間以内にブッシュ大統領署名で発効すると、オンライン・ゲーム事業者に対する違法インターネット賭博の資金流通は止められ銀行・クレジットカード企業は処罰される。ギャンブリング好きのアメリカ人はオンライン・ポーカーその他の賭事は出来なくなるので、突然で違法の定義が未定でもあり業界は騒然となった。

 エコノミスト誌の賭博禁止に関する記事(the Economist(2006.10.7)「エースをホールに」と「それはダメよ」によれば「インターネットの普及でオンライン賭博をやる人が王様になった。2005年にギャンブリング好きのアメリカ人800万ないし1,200万人がオンライン賭博に$60億ないし$80億かけ、世界全部の1/2を占めたと推定される」。

 ギャンブリングはインターネットにお誂え向きで、きらびやかなレストランもわびしい場末の賭博場も不要で自宅の居間からインターネットでギャンブルできる。健全な透明性が得られ、競馬/富籤など州独占・カジノに並ぶ業者・違法賭博場三者を分裂させ競争をもたらす。

 競馬/富籤は州税の負担で賭け金が高い、カジノ/リゾートは賭け金は安くホテル代を稼がなくてはならない、場末の賭博場は賭け金高く無税だが胴元が巧妙で逮捕のリスクがある。インターネット・ギャンブリングにはこうした欠点がなく、イノベーションによる発展性がある。例えば、オンライン競売サイトを利用した「交換」はブックメーカー抜きで安くできる。

 インターネット・ギャンブリングを禁止する理由は何か? (1)オフライン業者の保護、(2)未成年者の抑制、(3)犯罪予防が考えられる。特に、オンライン・カジノの場合ネットワークの向うの相手が全く不明なので、詐欺師やペテン師に騙される、クレジット・カードが盗品かもと言った危険を防ぐ必要がある。と言うことは規制であり。単純な禁止ではない。

 米国下院で厳格なオンライン・ギャンブリング法案が可決された日(2006.7.16)英国ギャンブリング企業ベトンスポーツD.カラザスCEOほか4名がロンドンーコスタリカ便のセントルイス空港乗換え中に逮捕されCBSが速報した。著名なギャンブリング企業トップが1961年連邦通信法盗聴禁止条項に基づきスポーツイベント賭け情報の伝送の廉で逮捕・拘留されたことがインターネット業界に衝撃を与えた。英国の厳格なギャンブリング法(2005年制定)はギャンブリング企業の海外活動を違法とせず、収益に課税している。この英国流に対し、米国は競馬やオンラインの州富籤を認める現行法をギャンブリング禁止の新法に持込み一貫性がなくWTOから差別と批判されている。
D.カラザスCEOの見積もりではオンライン・ギャンブリング売上高は2001年の$30億から2005年の120億に飛躍し2010年までに倍増すると見込まれる。

 このように細心の注意で取り扱うべき「不法インターネット・ギャンブリング取締法案」をテロ対策関連法「港湾安全法」にもぐりこませて可決したことは批判されるべきである。オンライン・ゲーミング企業最大手パーティゲーミング社(ジブラルタル本社)は社告(2006.10.2)で「当社は米国在住者とのゲームビジネスは差し止める」と明示した。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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