2005年2月号(通巻191号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:市場・企業>

再び増加傾向にあるMVNO

 1998年、ノルウェーでセンス・コミュニケーションズが世界初のMVNOとして携帯電話市場に参入して以降、欧州各国でMVNOが相次いで誕生したが、2000〜2001年をピークにMVNOの市場参入は減少していた。しかしながら、2004年に再びMVNO誕生の計画発表が相次ぎ、2005年には新たなMVNOが誕生することになっている。本稿では最近のMVNOをタイプ別に概観する。

■固定通信事業者によるMVNO

 かつて移動通信事業展開していた固定通信事業者が、減少傾向にある固定電話収入を補い、また固定と移動の統合サービスを提供することを目指してMVNOとして移動通信市場に再参入を表明している。

 米国のAT&Tは2004年5月中旬、スプリントPCSとMVNO契約を締結し、AT&Tブランドで再度携帯電話サービスを提供するとしている。また、英国のブリティッシュ・テレコム(BT)もT−モバイルのネットワークを使って携帯電話事業を提供していたが、本格的に携帯電話事業を展開していくにあたり、2004年11月、T−モバイルからボーダフォンへと契約先を変更した。

 両社はともに法人顧客をメイン・ターゲットとしており、今後は従来の固定電話の顧客に対し携帯電話サービスも併せて提供したい考えである。固定電話と携帯電話のサービスを同じ会社が提供し、請求書を1つにできる顧客利便性の向上に加え、両社は双方のサービスを提供する強みを活かした新たなサービスを展開していくものと思われる。特にBTは固定・携帯融合サービス「ブルーフォン」を提供することを既に発表している(2004年6月号記事を参照)。また、BTとボーダフォンとの契約内容については公表されていないが、BTはマーケティング、ブランディング、料金請求、顧客サービスに注力し、ボーダフォンはBTに対してネットワーク通話時間とサービスをすべて提供するであろうと報道された。これが事実か否かは不明であるが、いずれにしてもT−モバイルとの契約よりもBTに対する制約が少ないことは間違いないようである。

 T−モバイルのネットワークを使ってのBTの携帯電話顧客は2004年9月末に30万人を超え、また2004年6〜9月期の携帯電話サービスの売上げは4,500万ポンドと対前年比3倍に増加しているものの、同社の目標は5年以内に携帯電話事業で年間約10億ポンドを売り上げることであり、その目標には程遠い。しかしながら、今回T−モバイルからボーダフォンへと利用するネットワークを変更したことにより、BTは以前より制約の少ない契約により、より柔軟に携帯電話事業に従事することができるようになり、目標の達成も可能となるかもしれない。

 一方、一部地域で自己設備を有して携帯電話事業を行っていた固定通信事業者、米国のクエスト・コミュニケーションは2004年7月、財務健全化に向けた事業合理化のため顧客を除く同社の携帯電話事業資産をベライゾン・ワイヤレスへ売却することで合意し、今後は全地域でMVNOとして引き続き顧客へ携帯電話サービスを提供していくことを発表している。同社は自己設備を持たない地域においてスプリントPCSとMVNO契約を締結し、2004年3月、限定された地域から全米へとサービスを拡大していたが、コスト削減のために全地域でのサービスをMVNOとして提供する方が賢明であると判断した。

■既存携帯電話事業者主導によるMVNO

 ドイツでは既存の携帯電話事業者が通信会社以外の企業と組み、新たにMVNOを開始する動きが見られる。

 ドイツのmmO2は2004年7月、同国内に870の店舗を持つコーヒーショップ・チェーン、チボ(Tchibo GmbH)と折半で合弁会社チボ・モビルフンク(Tchibo Mobilfunk GmbH&Co.KG)を設立し、2005年夏頃までに試験を経てサービスを実施することを発表した。同社はチボブランドのファッション性の高い端末や廉価端末、安価な料金で差別化を図る模様である。

 またEプルスは2004年12月6日、同社に純利益が還元されるよう、同社のネットワークで他企業に携帯電話システムを提供する計画に力を入れていると発表し、同社社長のベルゲイム氏は複数の企業とMVNO契約をまとめたいとの意向を示した。同社は既にMVNOに関心を持っている多くの企業と話し合いをしており、これらのMVNO契約により最大1,100万人の加入者を獲得すると考えている。ベルゲイム氏は、同社がMVNOに投資をすること、もしくは同社自身がMVNOを設立することも考えられるとし、また同社はポストペイド契約の新規顧客、特に法人顧客を獲得したいとも述べている。

 携帯電話の普及率が高まり新規顧客の獲得が困難になりつつある中、両社は自社顧客とは異なる層の顧客を獲得し、加入者数を拡大させることを目指してMVNOという結論に辿り着いたようである。

■規制の後押しによるMVNO

 事業者自らの意思によるMVNOの他に、アイルランドとフランスでは規制によりMVNOが誕生することが予想される。

 アイルランドでは規制当局ComRegが2004年12月9日、欧州委員会によって勧告された18市場のうち、移動通信網における卸売アクセスおよび通話発信市場の市場分析において、コンサルテーション回答文書および欧州委員会への通知文書の中でO2とボーダフォンをSMPを有する事業者として指定し、両社のネットワークをMVNOに開放するよう両社に義務づけることを提案した。その結果、欧州委員会は最終的に2005年1月20日、ComRegによる同提案を承認すると通知した。同国ではハチソンがクラスAとされる3G免許を取得したため、同社に限定してMVNOとの取引に応じる義務を賦課していたが、2G事業者への義務づけは初めてのことである。

 ComRegはアイルランドの同市場の競争が不十分であり、それは既存事業者が市場において支配的地位にあるのは、彼らにプレッシャーをかける事業者がほとんどいないことによるものであると判断した。MVNOの参入により既存事業者にプレッシャーがかかり、同国の同市場における競争が促進され、顧客利益として料金が下がることをComRegは望んでいるのである。

 欧州委員会の承認を受けて、ComRegは規制措置の施行を進めており、たとえO2とボーダフォンから反対されたとしても、近い将来アイルランドでMVNOが誕生することは間違いないであろう。

 他方、フランス規制当局ARTも2004年12月17日、移動通信網における卸売アクセスおよび通話発信 市場の市場分析においてコンサルテーションを開始した。コンサルテーション提案において、ARTはオレンジ、SFR、ブイグ・テレコムを支配的事業者(SMP)として指定し、彼らに対してホスト・ネットワーク上でMVNOとしてサービスを提供したいと考えている事業者からのアクセス要求を受け入れる義務を課すことを提案している。

 MVNOが存在しないアイルランドと異なり、フランスでは2004年7月、デビテルが初のMVNOとしてサービスを開始した。SFRとMVNOの契約を結んだデビテルに次いで、オレンジとMVNO契約をしたザ・フォンハウスがBreizhモビルのサービス名で、8月にはブイグ・テレコムとMVNO契約を締結したユニバーサル・ミュージックがユニバーサル・モバイルとして携帯電話市場に参入した。これらのMVNO誕生は既存事業者による規制当局牽制の狙いがあったと見られるが、Breizhモビルは2004年11月17日のサービス開始から2004年12月末までの加入者数は1万人にとどまっており(フランスの携帯電話総加入者数は2004年9月末時点で4,290万人)、ARTはサービス開始から数ヵ月の時点で 3つのMVNOは規模も小さく、市場への影響は十分ではないと判断している。

 それを受けてであろうか、2005年になっていくつかの企業がフランスでMVNOとして新たに携帯電話市場に進出するため、既存事業者と交渉を行っていると報じられている。交渉を行っているとされる企業は同国民放ラジオのNRJ、ヌフ・テレコム、AOL、テレビ局のM6、スウェーデンのテレ2である。このうちNRJについては2005年1月25日、オレンジとの契約が成立したとの発表があった。アイルランドにおけるComRegの提案を欧州委員会が承認したため、フランスにおけるARTの提案も承認される可能性が高まったことは確かであり、その他の企業のうちのいくつかがNRJに続きMVNOとして携帯電話市場に新規参入するものと思われる。

 アイルランド同様、フランス政府とARTはMVNOの導入に積極的であるが、既存携帯電話事業者は消極的である。欧州委員会に承認されるかどうか、また既にフランスではMVNOは存在するものの、最終的にいくつのMVNOが参入するのかが注目される。

 以上、3つのケースのMVNOについて見てきたが、携帯電話事業者のMVNOへの対応は様々である。多くの顧客を獲得できた成長期には、携帯電話事業者がMVNOに対して消極的であった。しかしながら、市場が成熟した今、他ネットワーク利用者となるよりは自らのネットワーク利用者を増やすために、MVNOと競争しつつも共存していくことが携帯電話事業者にとって必要なのかもしれない。

移動パーソナル通信研究グループ
リサーチャー 武井 ともみ

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