2008年2月号(通巻227号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:市場・企業>

中国のキャリア再編報道がまた活発化、3Gライセンスの話はどこに?

 長年中国の通信業界を賑わせている通信キャリア再編問題について、2008年1月上旬、再び消息筋が新たな再編報道を伝えたことにより、これをもとにした推測や憶測を含む報道が頻発している。一方、これまでキャリア再編の前提として様々な報道が伝えられてきた「3Gライセンス」についてはやや忘れ去られた感がある。

■3月全人代以降にキャリア間幹部異動?

 今回のキャリア再編に関する報道を受けて、香港株式市場に上場する主要4大キャリアの株価も大きく影響を受けた。その内容は以下のようなものである。

【幹部人事】
・中国移動・王建宙総裁は退職
・奚国華・情報産業部副部長が中国移動総裁に
・中国電信・王暁初董事長(会長)は情報産業部副部長に転出
・中国網通・張春江董事長(同)は中国電信トップに異動
・中国聯通・常小兵董事長(同)は留任、中国網通との合併後新会社のトップに(後述)
【キャリア再編】
・中国鉄通は中国移動傘下となり引き続き固定電話を提供
・中国聯通のCDMA網は中国電信に売却
・中国聯通はGSM網を維持し、中国網通と合併、中国聯通が存続会社に
 このうち、幹部間の人事異動については、業界筋ではその可能性が高いといわれている。この背景として、5年ごとに開催される共産党大会が昨年10月に行われたが、通例ではその後開催される全国人民代表大会(全人代)において政府機関の人事や組織改編が実施されることにある。毎年3月に全人代は開催されるので、ここでの決定を受けて、その後人事異動が行われるという読みである。中国の通信キャリアはいずれも国有企業であり、そのトップ人事は国務院傘下の国有資産監督管理委員会(国資委・SASAC)が権限をもっているといわれている。4大通信キャリアはいずれも国有企業である親会社とは別に香港に上場している上場会社を持っているが、上場企業本体の再編が絡むと株主や株式市場への配慮を要することと異なり、幹部の人事異動については相対的に容易であると考えられている。2004年11月にも中国電信、中国移動、中国聯通の3社間で幹部相互異動が行われた事実があることも、このように考える関係者が多い背景にもなっている。

■行政の再編が先?

 しかし、そのキャリア幹部間人事異動以前の話として、通信分野の監督官庁である情報産業部と、放送分野の監督官庁である国家ラジオ映画テレビ総局(広電総局・SARFT)が統合され、全人代後に国家電信監管委員会(信監会)として再編されるのではないかという話も伝えられている。政府の方針として、いわゆる通信・放送融合を意味する「三網合一(電話・放送・インターネットの統合)」がかねてより取り沙汰されているが、この行政側の再編がキャリア人事に先んじるという見方が多い。したがって、今春以降に行政の再編が実施され、北京五輪をはさんで秋以降にキャリア人事が、さらにその後にキャリア再編が行われると業界筋では見られている模様である。

■北京五輪時の3G提供と「3Gライセンス」

 一方、このようなキャリア再編論議の中で、長年中心的話題になっている3Gライセンスの話はどこに行ってしまったのか、という感がしなくもない。現在中国3G方式TD−SCDMAについては、北京五輪の競技開催地6都市(北京、上海、天津、青島、瀋陽、秦皇島)とその他4都市(広州、深_、アモイ、保定)の合計10都市を対象に実験が進められている。このうち、青島(中国網通)、保定(中国電信)を除く大半の8都市の実験は、中国移動により進められており、昨年3月ごろから開始された実験に関する設備・端末調達、ネットワーク建設がほぼ完了、間もなく商用化に向けた最終段階が始まる見込みである。なぜ中国移動が同方式を提供できるかの根拠としては、「実験」の扱いであることもさることながら、そもそも既存ライセンスは固定・携帯・付加価値の区分しかなく、既存携帯事業者にとってはあえて「3Gライセンス」というものを必要としないという見方ができなくもない。また、これまで中国方式TD−SCDMAについては、技術的成熟度や業界のバリューチェーン構築が不十分などといわれていたものの、TD−SCDMAベースでのHSDPA対応も含め、必ずしも過去伝えられていたような負の側面だけではない状況まで来ていると考えられる。いずれにしても、8月の北京五輪時にはTD−SCDMA方式による3G相当のサービスが何らかの形で提供され、かつて政府高官がコミットした「北京五輪での3G提供」を実現するものと思われる。

  この話の流れでは「3Gライセンス」については基本的に触れられず、昨年も政府高官が「実験とライセンスは別次元の話」といったコメントをしているとおり、ライセンス問題については五輪時の3G提供とは全く切り離された部分として存在している。このような理解しにくい形で進められる背景のひとつには、中国でも固定電話から携帯電話への代替が著しいスピードで進んでいることがある。中国の固定と携帯を合計した総加入数はここ数年、毎年約1億加入ずつ純増しているものの、固定についてはかつてそれを押し上げていた、固定の延長に分類される小霊通(PHS)を含め、昨年後半からすでに純減となっている。一方、携帯については特に中国移動の急激な加入増が目立ち、農村やプリペイドが引っ張る形で毎月合計700万加入以上のスピードで純増している。これにより中国の主要4大キャリア間のバランスが2006年ごろから崩れており、この不均衡の是正が最優先の課題となっている状況にある。

◇◆◇

 昨年末には、マクロ経済政策を担当する国家発展改革委員会の高官や同委員会の内部報告書において、通信分野の「全業務モデル改革」の必要性、情報産業部高官も「全業務ライセンス」の導入について言及しており、まずはこれまでの固定/携帯というライセンス区分ではなく、あらゆるサービスを既 存固定キャリアに提供することを認め、次の段階として携帯キャリアに対しても固定サービスへの進出を認めるという形への改革が進行すると報じられている。この「全業務ライセンス」の動きが確定すれば、具体的に既存固定事業者がどの方式を採用するか、その方式を効率的に実施していくためには、既存事業者がどのようなフォーメーションを組めば最適であるかを前提としつつ、企業としての意志をベースに、投資家などの見解も考慮しながら、進められるのではないかと考えられる。これまで長らく議論されてきた「3Gライセンス」というものは、このようにすでに方向性が変わっている。個別キャリアがどの方式を採用するかというテクニカルな問題ではなく、上述したような外部環境の枠組みの中で最適化された配置を意識しながら柔軟かつ臨機応変に進めていくのが中国的手法なのではないか。

町田 和久
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